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今期、見ないで終わっちゃうのは「もったいない」ドラマとは!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

テレビ東京が創設した新たな月曜22時枠「ドラマBiz」は、経済を軸に人間や社会を描くドラマという試みです。「経済に強いテレ東」ということで、いわば自社の特色や強みを生かしたコンテンツ開発と言っていいでしょう。その第1弾が、現在放送中の「ヘッドハンター」です。

黒澤和樹(江口洋介)は、転職斡旋サーチ会社「SAGASU」の社長であり、腕利きのヘッドハンター、つまり優秀なスカウトマンです。対象者や企業を徹底的に調査して、双方にとって最良のマッチングを探っていきます。タイトルだけ見ると、何だかヘッドハントの成功物語みたいな印象を受けますが、中身はなかなか奥深いのです。

たとえば第3話のターゲットは、総合商社で数々の事業を成功させてきた熊谷瑤子(若村麻由美)でした。黒澤が大企業への転職を勧めますが、肝心の当人の意思がはっきりしません。しかし、その背後には彼女が抱える大きな秘密がありました。結局、このヘッドハントは不成立に終わるのですが、女性が企業社会で生き抜くことの難しさを浮き彫りにするような出色の一本でした。

また第6話には大手企業の人事部長(宅間孝行)が登場しました。彼は自分の出世のために、容赦のないリストラを敢行しますが、裏では悪徳ヘッドハンター(野間口 徹)と結託。リストラした自社の社員に、条件のいい転職と思わせて、ワケあり企業に人を送り込むのです。黒澤は「転職勧誘の罠」ともいうべき手口を調べ上げ、2人をしっかり追い詰めていきました。

そんな黒澤ですが、なぜヘッドハンターになったのか。過去の謎が徐々に明らかになってきており、「SAGASU」の社長補佐で片腕であるはずの灰谷(杉本哲也)が、かつて同じ会社の同僚だったことも分かってきました。江口洋介は、胸の奥に葛藤を抱えた黒澤という男を、抑制の効いた渋い芝居で好演しています。

また杉本だけでなく、「SAGASU」に出入りするフリー記者の平山浩行、リサーチャーの徳永えり、そして同業者でライバルの小池栄子も、それぞれの役にハマった、いい芝居を見せています。全体としてテレビ東京系の「ガイアの夜明け」「カンブリア宮殿」でおなじみの出演者が多いのですが(笑)、手持ち資産を生かした戦略商品という意味で的確な配役でしょう。

脚本は「ハゲタカ」(NHK)などで知られる、林宏司さんのオリジナル。毎回、転職やヘッドハントの現実を巧みに取り込みながら、企業人が見ても納得のストーリーを構築しています。

このドラマ、全体の回数が少ないので、来週6月4日(月)の第8話が最終回となります。見ないで終わるのはもったいない1本であり、物語全体にどう決着をつけるのか、最後を見届けてみるのも悪くないと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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