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ウクライナ争奪戦で火花散らすEUとロシアーEUと関税同盟どっちに加盟?

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
ウクライナのヤヌコビッチ大統領=ホームページより
ウクライナのヤヌコビッチ大統領=ホームページより

昨年11月下旬、旧ソ連・ウクライナのEU(欧州連合)加盟交渉に先立って行われたEUとの法的枠組みを決める連合協定と自由貿易協定の締結協議が不調に終わり、ウクライナのヤヌコビッチ大統領がロシアとの経済連携に傾いたことから、大統領の辞任と総選挙の早期実施、EU加盟を求める数千人規模の反政府市民デモが首都キエフを中心に連日行われ、これに野党も加わり議会や政府の建物を強制的に閉鎖するなど、深刻な社会・政治混乱が続いている。

混乱が長期化すれば、巨額の債務を抱えるウクライナはデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高まっている。ミコラ・アザロフ首相はウクライナの地元紙キエフ・ポストの12月2日付電子版で、「市民の抗議デモが全国規模に発展して深刻化すれば、ウクライナ通貨フリブナの価値は急落し、経済の安定を危うくする」と警告している。

また、同紙のカーチャ・ゴルチンスカヤ記者は同日付電子版で、「ウクライナ経済はリセッション(景気失速)で、財政赤字は対GDP(国内総生産)比8%に達し、すでに政府は中銀の外貨準備を取り崩して債務返済やフリブナの為替相場の安定に使っている状況。しかし、外貨準備はわずか190億ドル(約2兆円)超で、これは同国の輸入額の2.5カ月分で、IMF(国際通貨基金)が最低減とする3カ月分を割り込んでいる」と、流動性が不足している状況だ。英スタンダード銀行の新興国担当アナリスト、ティモシー・アッシュ氏は同紙で、「ウクライナはEUとの「高度かつ包括的な自由貿易協定(DCFTA)」の締結を拒否した結果、IMFからの金融支援が断たれた以上、ウクライナ政府は今後、ロシアに金融支援を要請する可能性が高い」と指摘する。

ロシアのプライム通信(12月5日付電子版)によると、ウクライナ5年国債のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は政治・社会情勢の悪化で投資リスクが高まったとして1072bp(ベーシスポイントと、2009年に記録した1121bp以来4年ぶりの高水準に達した。数日前は約1000bpだった。これは5年国債の元本1000万ユーロ(約14億円)当たりの年間プロテクション購入コスト(国債保証コスト)が100万ユーロ(約1.4億円)から107万2000ユーロ(約1.5億円)に一気に上昇。急激にデフォルトリスクが高まったことを意味する。

こうした危機的な状況に対し、ウクライナ中央銀行のイゴール・ソルキン総裁は12月2日に急きょ、ビデオ声明を出し、「必要に応じて、中銀は金融市場と信用市場に対するあらゆるリスクを緩和し、市場の安定を図るため、その存在感を高める準備ができている」とし、いつでも市場に介入し、市場安定のため適切な措置を取る。国民はウクライナの銀行システムと預金の安全性に自信を持ち続けてほしい」と、預金者に対し平静を呼びかけている。

ウクライナ、金融支援次第でEU加盟協議へ

ウクライナは当面のデフォルト(債務不履行)を回避するためには200億ユーロ(約2.8兆円)の緊急金融支援が必要と言われ、EUとロシアがウクライナをめぐって激しい綱引きを演じている。米有力シンクタンクの米国ジャーマン・マーシャル基金の政治アナリスト、エルク・フォーブリッグ氏はニューヨーク・タイムズの12月12日電子版で、「EUがウクライナのEU加盟にこだわるのはEUが経済発展の魅力的なモデルであることを印象付ける必要性があること、また、ウクライナの加盟成功が今後の東欧諸国のEU加盟の試金石となるからだ」と分析する。一方、米国もウクライナのEU加盟を支持するため、強硬姿勢を取るヤヌコビッチ政権に経済制裁を発動することをちらつかせてウクライナ問題に介入する機会を狙っており、マッケイ上院議員がウクライナに乗り込むなどウクライナ問題は国際的な色彩を帯びている。

いったんはEU加盟を断念したものの、またぞろ、ミコラ・アザロフ首相はEUからこの金融支援が得られればすぐにもEU加盟協定に調印すると明言しており、ウクライナのレオニード・クラフチュク元大統領はロシアのプライム通信の12月10日付電子版で、「ウクライナがEUに加盟しても、そのことによりウクライナの経済利益や経済発展の機会を失うことがならないようにすることでEUと合意している。EUがその合意を守れば、3月にはEUと加盟合意に関する文書に調印することになる」と述べている。最近ではウクライナのレオニード・コジャーラ外相もキエフ・ポストの12月12日付電子版で、「2014年のEU・ウクライナ首脳会談でEU連合協定に調印する可能性は十分にある。大事なのはいつ調印するかよりも調印後にウクライナの経済が崩壊することがないような条件を作り上げることだ」と指摘している。

一方、ロシア側もウクライナの引き留めに躍起だ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は12月17日に、ウクライナのヤヌコビッチ大統領と会談し、ウクライナに対し、当面のデフォルト回避のために必要な資金供与とロシア産天然ガスの値下げを含む総額200億ドル(約2.1兆円)の緊急経済支援を行うことで合意した。内訳は直接の金融支援が150億ドル(約1.6兆円)で、残りの50億ドル(約5200億円)相当はロシア産天然ガスの販売価格の1000立方メートル当たり268.5ドル(約2万8000円)への30%強の値下げだ。また、両国首脳は2国間の関税を撤廃する計画を相互に承認した。ロシアのプライム通信(17日付電子版)によると、プーチン大統領は「この関税撤廃が実現すれば、ウクライナの産品がロシアや関税同盟国(ロシアとカザフスタン、ベラルーシの旧ソ連の3カ国で構成)への輸出が増大し、ウクライナ企業の設備稼働率が上昇、雇用も拡大する」と述べ、ロシアとの経済連携の有利さを強調している。

こうした合意の背景について、ロイター通信のティモシー・ヘリテージ記者は12月12日付電子版で、「プーチン大統領は関税同盟(ロシアとカザフスタン、ベラルーシの旧ソ連の3カ国で構成)から(2015年をメドに)太平洋地域からEU東部国境にまたがる共通の通貨・経済政策を持つ統一17日に経済圏のユーラシア連合(EAU)を発足させるという野望を抱いており、そのためには鉱物資源が豊かで大規模な消費市場を持つウクライナ抜きではありえない。ウクライナをEU加盟28カ国との橋渡しにしたいという戦略がある」という。

一方、英紙フィナンシャル・タイムズ(『FT』)の12月15日付電子版によると、EC(欧州委員会)のステファン・フーレ委員(EU拡大担当)は「ウクライナがロシアと戦略的提携で合意した場合、ウクライナでのEU加盟を支持する反政府抗議デモがさらに激しさを増す」との懸念も示している。米国のジミー・カーター政権当時、国家安全保障担当大統領補佐官だったズビグネフ・ブレジンスキー氏も、FT紙の12月10日付投稿記事(電子版)で、「いまウクライナで起こっていることは歴史的にも地政学的にも国が大きく変わることが運命づけられている。遅かれ早かれウクライナはEUの民主主義国の一員になる。旧ソ連から独立後の20年間で、特に若い世代の国民はもはやウクライナは“ロシアが母国”という感情を持ちえなくなっている。ロシアもいずれウクライナに続いてEUに加盟することになる」と指摘、ウクライナのEU加盟は避けて通れない時代の波だという。

また、ウクライナがEU加盟協議で合意するまでには曲折が予想される。ウクライナのミコラ・アザロフ首相はインターファックス通信の12月13日付電子版で、「今の加盟条件でEUと合意していれば、ウクライナは経常赤字が急増し外貨準備が激減して経済は崩壊しただろう」と指摘しており、EU加盟条件の見直しをめぐってEUとの協議が難航するのは必至の情勢だ。(増谷栄一 国際経済ジャーナリスト)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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