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「幽霊が出る」とウワサの家に起きた面倒事 本当に怖かったのはマスコミ?

櫻井幸雄住宅評論家
怖いと思えば、普通の家も怖く見える。筆者撮影の「普通の家」を加工したイメージ。

 8月1日、住宅取材で出遭った「ゾッとする家」の話を書いた。

 最悪だった「2階の左の部屋」 住宅評論家が忘れられない「ゾッとする家」

 じつは、不動産業界にはもう少しオカルト色の強い話がある。35年も取材を続けていると、変わった出来事に出遭うことも多いのだ。

 最初に思い出すのは、20世紀の終わり、東海地方の公共集合住宅で不思議な現象が起きる、と新聞、テレビでさかんに取り上げられたことだ。

 夜中にラップ現象(誰も居ない部屋から音が聞こえてくる)が起きたり、ドアが勝手に開く、テレビのチャンネルが勝手に変わる、という怪奇現象が報告された。

 「本当の幽霊マンションだ!」と取材が殺到。あまりに有名になったため、連日野次馬が集まる騒ぎとなり、住人の生活は「怪奇現象」よりも取材陣や野次馬によって脅かされた。

 この騒動、最終的には、川に近い場所で地盤が弱く、建物が微妙に傾いたことで、ラップ現象が起きたり、ドアが勝手に開いたのだ、ということになった。つまり、「欠陥住宅」ということで騒ぎは収まった。テレビのチャンネルが勝手に変わったのは、リモコンかテレビ本体に不具合があったのだろう、と。

 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」といわれるとおり、怖いと思っているから、幽霊に思えてしまう。冷静に検証すれば、合理的な理由があったわけだ。これで、騒動は一気に収束し、この集合住宅にも平穏な日々が戻った……が、話には続きがあった。

マスコミと野次馬のほうが怖かった

 じつは、怪奇現象を欠陥住宅のせいにしたのは、住人たちの意思だった。これ以上、騒ぎが大きくなるのは勘弁して欲しい。マスコミにも野次馬にも引き上げてもらいたい。そのためには、「欠陥住宅のせいでした」ということにすればよい。そう考えて、穏便な方向で話をまとめた、と、後になって集合住宅の関係者に聞いた。

 考えてみれば、ラップ現象も、ドアが開くのも、頻繁に起きるものではない。たまに変な音がしても気にしなければよい。開いたドアは閉めればよい。テレビのチャンネルは、戻せばよい。それよりも、24時間無遠慮に生活に踏み込んでくるマスコミや野次馬のほうがよっぽど「怖い」というわけだ。

 一部のマスコミはその事情を知っていたが、もう静かにしてあげようと「欠陥住宅説」に乗った。

 その後、どうなったのだろうと調べてみたら、その集合住宅の怪奇現象は時間とともに収束し、今は本当に何もない住宅になっているようだ。そうなると、本当に欠陥住宅だったのかもしれない、という気持ちにもなる。

 一時的に傾いて妙な現象が起きたこともあったが、年月の経過とともに傾きが収まり、妙な現象もなくなった。今となっては、そう思うしかない。

 なにしろ、「幽霊が出る」ことも、怪奇現象があることも、本当の出来事と証明することがむずかしい、というか、これまで科学的に証明されたことがない。

 だから、不動産の世界には、こんな出来事もあった。

この家、半額。ただし、出ます

 これもだいぶ前の話。1990年代に北海道で本当にあった話だ。

 不動産屋が中古の一戸建てを売ろうとしたところ、見に来る人はいるが、誰も買いたがらない。そのうち「あの家は、出るらしい」というウワサが広まってしまった。幽霊が出るから、なかなか売れないのだ……そんなウワサが流れると、ますます売れない。

 困った不動産屋は思い切って値引きし、損を覚悟で売ることを決めた。そのとき、新聞に入れたチラシのキャッチコピーが衝撃的だった。

「この家半額。ただし、出ます」

 その効果はてきめん、といいたいところだが、実際はその逆。野次馬やマスコミが押しかけたが、肝心の客は一切来ない。「北海道で、そんな家が売られている」という話は東京にも伝わり、私も不動産屋に電話で取材を申し込んだ。

「それは、もう勘弁してください」と不動産屋は泣き出しそうだった。

 取材対応で忙しく、他の仕事ができない。あんな広告出さなければよかった、と。そりゃあ、そうだろうと同情した。

 それに、「出ます」という文言は“誇大広告”の疑いもあった。

幽霊は、心理的瑕疵になる?

 マンションや建売住宅を売るための広告はルールが厳しく、事実に基づかないこと、根拠のないことは表記できない。

 「誰でも満足する家」も「最高の住み心地」も、明確な根拠がない、という理由で表記できない。一方で、「住み心地に大きく影響することは隠してはいけない」ことにもなっている。

 殺人事件が起きた家や自殺があった家は、それを隠して売ったり、貸したりしてはいけない。「心理的瑕疵あり」として告知しなければならないわけだ。

 では、「幽霊が出る」は、どうだろう。

 「心理的瑕疵(かし)あり」になりそうだ。が、事実に基づいているか、根拠があるか、という視点に立つと、はなはだ怪しい。「幽霊が出ることを証明しろ」といわれても無理だ。もし、証明できたら、その家は売るよりも見世物小屋にしたほうがはるかに儲かる。世界中から集まる見物客から“見物料”を取り、「幽霊ちゃん」のキャラクターをつくってノベルティを販売。YouTubeやインスタグラムにおいても最高の素材になるからだ。

 冗談はともかく、「幽霊が出るから、安くします」は、証明できない現象を表に出した問題広告となってしまう可能性があった。

 結局、「出る」というウワサが立った家は、安くして購入者が現れるのをじっと待つしかない。もしくは、思い切って家を壊して更地にし、お清めや地鎮祭などを粛々とおこなって土地分譲とすることになる。

 この「更地にしてお清めする」という手は、残念ながらマンション住戸には使えない。マンション住戸で不思議な現象が起きたときは、前述したように、それが自然に収まるのを待つしかない。

 じつは、私も自宅マンションでも「ゾーッとした」経験がある。が、それは、私の個人的経験で、科学的に証明できない話。そして、住宅購入のアドバイスにつながる話でもない。

 ここで書くのは適当ではないと判断したので、ブログに出してみた。

住宅評論家が自宅マンションでゾーッとした、ハイヒールの足音

 興味のある方はご一読を、とオススメしたいところだが、リアルに怖いと友人たちに言われているので、「怖い話大好き!」という人限定でお読みいただきたい。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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