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「ゼルダの伝説」シリーズ最新作「ティアキン」 爆発的ヒット なぜ?

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」(c)Nintendo

 シリーズ累計で1億3000万本を誇る人気ゲーム「ゼルダの伝説」。「ティアキン」の略称もある最新作「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」(ニンテンドースイッチ用)の世界出荷数がわずか3日間で1000万本を突破したことが、任天堂から発表されました。もともと人気のある「ゼルダの伝説」シリーズですが、これまでの実績を考えると、今回の数字は驚異的です。なぜここまで売れたのでしょうか。

◇Wiiや3DSで「ゼルダ」の売れ行きは…

 「ゼルダの伝説」シリーズは、勇者リンクが世界を救うために戦う……というゲームです。公式では「アクションアドベンチャー」というジャンルですが、キャラクターが成長するRPGの要素もあり、シビアな操作テクニックが問われる一面もあります。要するに「マリオカート」や「どうぶつの森」のように老若男女を問わないタイプではなく、ゲームに慣れた人が好む傾向のある作品です。

 そして日本で人気のあるゲームソフトといえば、「ポケットモンスター」や「モンスターハンター」「ドラゴンクエスト」などです。これらのソフトは、日本市場では最低でミリオン(100万本)、数百万本売れるというビッグタイトルですが、「ゼルダの伝説」の過去作品を見ると、少し違うことが見えてきます。

 「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」(Wii、2011年発売)は、約4カ月で国内36万本(世界出荷数352万本)。「ゼルダの伝説 神々のトライフォース2」(ニンテンドー3DS、2013年)は、約3カ月で国内47万本(世界出荷数251万本)でした。ちなみに前作「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」のニンテンドースイッチ版(2017年)は、約1カ月で国内39万本(世界出荷数276万本)でした。

 個人的にも「ゼルダの伝説」シリーズは各作品手に取りましたが、どれも面白い作品で、それに異論はないはずです。実際ゲームファンの評価も高い作品でしたが、数字が示す通りでの売れ行きでして、そうなると「ティアーズ オブ ザ キングダム」のブレーク(3日間で世界出荷数1000万本、うち国内は224万本)が気になるわけです。

◇高評価だった前作「ブレス オブ ザ ワイルド」

 大ヒットの理由として、前作「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の内容が抜群で、ゲーム関係者とファンの評価が高かったことです。

 同作は2018年、「ゲームのアカデミー賞」と言われる「ゲーム・デベロッパーズ・チョイス・アワード」の大賞「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」に選ばれました。当時は、日本のゲームが苦戦していた時代で、日本の大賞獲得は、12年ぶりでした。また2021年に放送された「テレビゲーム総選挙」(テレビ朝日)で、多くの人気作を押しのけて、1位に輝いています。

 ポイントは同作が、広大な世界をゲーム内で再現する「オープンワールド」という手法を用いたことです。「任天堂がどんなオープンワールドのゲームを作るのか」という視点で、関係者やファンから注目されていたのですが、見事に期待に応えたわけです。

 「どう面白かったのか?」というと、さまざまな考察があるのですが、その一つは「質と量の兼備」でしょうか。オープンワールドのゲームは広い世界を再現する「量」はあるのですが、ある局面ではゲームとしての面白さが不足する「質」に弱点がありました。要するに「世界は広いけれど、やることがない場合がある」というような不満を持たれやすい傾向にあります。

 ところが「ブレス オブ ザ ワイルド」は、どこを切っても探検しがいのある「密度の濃い」、それでいて広大な世界を構築していました。空を飛び、山を登り、冒険家の気分を味わうこともできます。戦闘だけを切り取っても楽しく、武器や防具を状況に応じて使い分けるのはもちろん、敵の強力なビーム攻撃を盾で跳ね返すカウンター、映画「マトリックス」のようなスローモーション状態を作り出して相手を一方的に攻撃する……といったこともできます。

 ゲームの設計が見事で、無駄なことがありません。職業柄か、バグを探しながらプレーして、問題点を挙げていく遊び方をするあるゲーム会社の社員が、同作については全く問題点を挙げなかった……ということを聞かされたのですが、「ブレス オブ ザ ワイルド」の完成度の高さを示しているのではないでしょうか。

 要するに「ずっと遊んでいられる」のです。そのため発売から数年が経過しても、中古ゲーム市場の価格もほとんど落ちませんでした。

 なぜここまで完成の高いゲームができたのかといえば、ゲーム開発者会議「CEDEC」で、開発者自らがその一端を解説しています。その一つに、ゲーム内では、遠くから見える目標物を配し、意図的に道を曲げて山を配置して目標物を遮り、歩くと隠れていた目標物がだんだん見えるようにしていたそうです。よく考えられているのです。

【関連】[CEDEC 2017]「ゼルダの伝説BotW」の完璧なゲーム世界は,任天堂の開発スタイルが変わったからこそ生まれた(4Gamer)

◇6年以上コンスタントに売れる

 そして「ブレス オブ ザ ワイルド」の売れ方も、他のゲームとは違っていました。ゲームソフトの売れ方は、発売日に売れた後、一気に下がる傾向にありますが、ずっとコンスタントに売れ続けています。

 最も売れたのは2年目の約570万本ですが、むしろその後の売れ方の方が驚かされます。3年目から6年目まで毎年400万本超を突破し、7年目(2023年3月期)も300万本以上を記録。その結果として累計で約3000万本を積み上げたのです。

 スイッチで最も売れたのは「マリオカート8」(約5400万本)、続いて「あつまれ どうぶつの森」(約4200万本)です。さすがにこの二強には届かないものの、「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」(約3100万本)に匹敵する数字です。「ポケモン」や「スプラトゥーン」の人気シリーズよりも出荷数が上というのは、改めて驚かされます。

 そして「ブレス オブ ザ ワイルド」は日本国内でも、毎年50万本以上コンスタントに売り上げており、累計で350万本という数字になっています。つまり国内だけで「ドラクエ」レベルに売れているわけです。

 「面白い、良いゲームは売れる」というのはその通りですが、それだけで売れるほどゲームのビジネスは甘くありません。長期の人気を後押しした理由として、もう一つ考えられる要素があります。

◇ゲーム実況動画の後押し大きく

 それは、ゲーム実況動画ではないでしょうか。

 日本だけで考えても、人気のYouTuber(ユーチューバー)たちが「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」を取り上げていました。「ブレス オブ ザ ワイルド」は、多様な攻略方法があり、それを動画で再現すれば見ている側もわかりやすく、実際にプレーしたくなるのです。ゲーム実況も万能ではなく、向き・不向きのソフトはありますが、「ブレス オブ ザ ワイルド」は「向く」作品です。

 法人メディアでエンタメコンテンツを取り上げる場合、目先を変える意味でも、旬のものに移っていきます。ところが実況動画は、人気がありさえすれば、好きな作品をずっと取り上げてくれます。

 そもそも、ネットがない時代でも友達のプレーを観戦して、大笑いして盛り上がった記憶のある人も多いでしょう。本質的に、ゲーム観戦は楽しいのです。さらに、人気のインフルエンサーはトークも演出も巧みです。

 さらにドラマのように、同じゲームでもいろいろなバリエーションの実況動画が用意されていますから、気に入った人は次々と視聴していき、当然ゲームをプレーせずともコンテンツのことも知るようになります。結果として、そのうち何割かは、実際にゲームを購入して遊ぶでしょう。

 「2023CESA一般生活者調査報告書」によると、ゲームを継続的に遊ぶ人を対象に「あなたが見たことのあるゲーム関連動画は?」という質問(複数回答可)があります。トップはもちろん「YouTuber・VTuber・有名人の動画」で61.6%、3位に「一般の個人による動画」が31.8%。それに対して「ゲームメーカー公式の動画」は37.4%でした。インフルエンサーや個人の力、影響力が分かるデータです。

【関連】ゲーム動画の利用状況 圧倒的な影響力あるインフルエンサー

 ゲーム実況動画で取り上げられたゲームは、強力なプロモーションを得ている……そう考えれば、「ブレス オブ ザ ワイルド」が長く売れ続けたことの辻褄(つじつま)が合います。

◇6年かけた”熱”

 つまり「ブレス オブ ザ ワイルド」が6年以上かけて温めた”熱”が、「ティアーズ オブ ザ キングダム」で受け止められて、3日間で1000万本という数字になったということではないでしょうか。

 続編ということは、前作で熱狂した人たちからすると、「外れ」の心配がなく、安心して遊べます。新規ファンの開拓という意味では、続編ものはマイナスの評価をされがちですが、この規模の大ヒットであれば、続編を出さないほうがもったいないと言えます。

 もともとの人気シリーズが、さらに「大化け」したという意味でも、その売れ方も考えると、ターニングポイント……大きな意味を持つ作品です。

 そして初めてプレーする人は最新作「ティアーズ オブ ザ キングダム」から遊ぶのか、あえて前作「ブレス オブ ザ ワイルド」から手を付けるのか。なかなか迷うところではないでしょうか。

 私もエンディングを目指してプレーしつつ、今後に注目したいと思います。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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