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対人支援、迫られる支援モデルの変更 公設民営機関が考えなければいけないこと

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
動画作成、配信のやり方を学ぶ援助職(写真:筆者撮影)

新年度を迎えても、学校や企業がさまざまな意思決定を迫られるニュースが連日流れています。公的機関と民間機関の間にある「公設民営」機関のことはあまり語られません。設置主体は行政であり、運営主体が民間という形で進む一般的な事業モデルです。

この事業モデルで行わる対人支援(困りごとをひとの力で支える)は、意思決定は委託者である行政でありながら、運営は民間企業・団体のため、非常時に何をどうするか、何をしないのかを、運営側が勝手に判断することができません。

基本的なルールは行政スタイル

設置主体が行政ですので、基本的なルールは行政に従います。民間の知恵や工夫を発揮するために「委ね」「託され」ている範囲は思った以上に狭いです。例えば、もともと想定されていないテレワークについては、委託元(および担当者)の判断が強く影響します。

ある公設民営事業では、事業予算は身体性が場にあることが前提のため、自宅から業務をする、離れたオフィスからバックエンド業務をすることに「人件費は充てられない」という判断もありました。これは担当者がそう考えれば、普通の受託事業者(民間)であれば従います。

しかし、働き方改革の流れから、多様な人材がいきいきと働ける環境設定こそが国の流れであるため、ある場に身体を動かすことが難しい、または、それであると働きづらいひとのために、遠隔からの業務に許可を出す担当者もいます。

大元のルールを変更するには最短でも翌年度からになりますので、ルールの運用判断、ひいては担当者次第となってしまいます。いまのような不要不急の外出を回避するにあたっては、現状、かなり運用判断が柔軟になっています。

対人支援は対面が前提

ひとがひとを支える対人支援は、そもそも対面が前提になっています。これはインターネットがない時代から積み上げられたさまざまな理論があるわけですので、当然と言えば当然です。

例えば、個別相談ではダイレクトに向き合ってしまうと緊張感が高まりやすいので、クライアントと斜めの位置に座ったり、対角線上に座ることで相互の緊張を和らげるなどの工夫があります。

部屋のレイアウト(植物やぬいぐるみを置く)や色味なども、相互がリラックスしやすい形というのがあり、できる範囲のなかで工夫がなされていると思います。

また、複数の参加者が同じ場所で集まってのグループワークやワークショップも、個人と環境の相互作用をうまく活かしながら、安全な場で互いがコミュニケーションを取れるようにするなど、やはり同一空間での対面式が一般的です。

個別相談でしのぐ

新型コロナウィルス感染回避への対応が社会的に強くなっていくなかで、同一空間にひとが集まってのワークショップなどは、基本的に禁止です。これは委託元の行政からの指示がしっかり出ています。

一方、行政でも可能な限りひとが集まるイベントはしませんが、公共空間として個々の困りごとには対応しています。よって、公設民営機関もそれに従います。対人支援は対面が前提と書きましたが、いまは対面の個別相談支援でなんとかサービスを継続しているところが多いはずです。

現在の新型コロナウィルスによる社会情勢、社会環境になる前より、対人支援でもインターネットを使ったオンライン相談が可能という判断はあります。まだまだすべてではないでしょうが、行政の判断のもとで受託業者に出される「仕様書」に、オンライン相談が可能という記載があるものもあります。

運用判断から、ルールにするためには、提案する民間側とルール変更する行政側の相互理解と変更への協調が必要です。ここは対立軸ではなく、対人支援の受け手のために何が必要かを話し合い、変更のための熱意ある行動をともにするのです。

支援モデルの変更

オンラインでの支援がルール上、運用判断上できるようになると、公設民営機関において重要な意思決定は運営する民間企業・団体の方針や体制になります。できるからやるというわけではなく、できるようにはなっているので、「やる」と「やらない」を判断します。

ここが難しいところで、上述したように対人支援は対面を前提にしてきました。そのため、前提とする(拠り所とする)理論や経験がオンライン上でも可能なのかどうかがわかりません。また、過去の経験蓄積がないため、小さなチャレンジを自社で回しながら、継続的なアップデートと、援助職がそれをできるようにするための研修を重ね続ける必要があります。

対面を重要視しながらも、例えば、支援機関に足を運ぶことが難しい体調、交通アクセスの悪さ、交通費等の支出が簡単でない方々のために、少しずつオンラインでの支援に取り組んでいくべきだったと思われるかもしれません。

しかし、公設民営事業では基本的なルールは行政が決めたものにならい、そこに予算(税金)活用用途が紐づきます。対面を前提とする対人支援は「場所」と「ひと」が重要です。つまり、予算の用途の多くは「場所」と「ひと」に使うことを想定されており、事業によっては配置人数が決められています。

さらに、ここへきて競争入札制度が導入されていますので、固定費が削れず、仮に配置人数が決められていれば、人件費削減でしか応札可能性を高めることはできません。

すこし話がそれましたが、公設民営機関はその構造上、対人支援は対面を前提としている以上、オンラインでの支援に時間をかけて取り組むことが簡単ではありませんでした。しかし、現在の外出自粛要請が強く出ながらも、公的機関と同様にできる限りクローズしない形を取る以上、支援モデルを対面モデルから、オンラインモデルへと一気に変更しなければなりません。

対人支援に取り組む援助職は慣れ、不慣れにかかわらず、オンラインでの支援モデルを構築しなければなりません。そのため、他の業種や職種から学びつつ、ITやテクノロジーに強い企業や個人の力を借りて、積極的に学びと実践の機会を取る必要があります。公設民営機関の設置主体である行政および事業担当者には、この部分への積極的な応援の声と運用判断をお願いしたいです。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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