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尹錫悦政権の「文在寅前政権叩き」が本格的に始まった!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尹錫悦大統領と野党「共に民主党」の李在明代表(右)(尹大統領と李代表のHPから)

 韓国のお家芸である現政権の前政権への追及が本格的に始まった。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は文在寅(ムン・ジェイン)前政権時代の2020年に黄海上で起きた北朝鮮軍による公務員の射殺事件と前年(2019年)の北朝鮮漁民2人を強制送還した事件について「前政権の措置は明白な誤りである」としていたが、事件との関連で徐旭(ソ・ウク)前国防長官と日本の海上保安庁にあたる海洋警察庁の金洪熙(キム・ホンヒ)長官を22日に相次いで逮捕した。

 海の軍事境界線と称される北方限界線(NLL)内にある小延坪島付近で漁業指導船乗船中に海洋水産部所属の公務員が行方不明となり、翌日に北朝鮮側海域で北朝鮮軍に射殺される事件が発生したが、当時文政権は公務員が自らの意思で北朝鮮に渡ったところ殺害されたと発表していた。

 しかし、尹政権発足後の今年6月、国防部と海洋警察庁は「男性が越境したと断定できる根拠はない」として事件当時の発表を覆していた。検察はこの事件との関連で監査院から文前政権の元高官ら計20人について捜査を要請されていた。

 徐前国防長官の容疑は男性が自ら北朝鮮に渡ったとする政府の判断と食い違う内容の対北傍受情報などを収めた軍事機密を軍事統合情報処理システムから削除し、また軍合同参謀本部の報告書に虚偽の内容を記したことによる職権乱用や公文書偽造である。

 この事件との関連では徐薫(ソ・フン)前国家安保室長朴智元(パク・チウォン)前国家情報院長李仁栄(イ・インヨン)前統一部長官らも検察から出頭を要請されている。徐薫と朴智元の両人はかつて院長を務めていた国家情報院から告発されている。さらにこの事件を監査している監査院は文在寅前大統領に対しても書面調査に応じるよう通知を送っている。

 北朝鮮漁船員2人を南北軍事境界線がある板門店で北朝鮮に強制送還した事件との関連では文前大統領の側近だった盧英敏(ノ・ヨンミン)元大統領秘書室長が19日にソウル中央地検に召喚され、取り調べを受けている。

 強制送還された2人については当初、国家情報院は2人の自筆の保護申請書を基に亡命を求めていたと国家安保室に報告していたが、盧氏が主宰した対策会議で「16人の漁船乗組員を殺害した殺人者は強制送還すべき」との結論が出たことで国家情報院は合同調査報告書から亡命に関する内容を削除したとされる。

 こうしたことから盧氏に続き、今後、当時国家安保室長を務めていた鄭義溶(チョン・ウィヨン)氏国家情報院の院長だった徐薫(ソ・フン)氏も検察に召喚されるものとみられる。この事件との関連ではすでに金錬鉄(キム・ヨンチョル)元統一部長官がソウル中央地検に出頭し、取り調べを受けている。金元統一部長官は調査を早期に終了させるため2人が亡命の意思を示したにもかかわらず北朝鮮に強制送還したとの疑いで、社団法人・北朝鮮人権情報センターから今年7月に告発されていた。

 尹政権は文前政権の元高官だけでなく、最大野党「共に民主党」代表の李在明(イ・ジェミョン)氏の土地開発疑惑を巡っても最側近とされる金湧(キム・ヨン)民主研究院副院長を収賄容疑や政治資金法違反の疑いで21日に逮捕している。

 金氏は昨年4~8月、城南都市開発公社のユ・ドンギュ元企画本部長らと共謀し、ソウル郊外にある城南市大庄洞の都市開発事業に関わった民間業者から4回にわたり計8億4700万ウォン(約8900万円)の違法な政治資金を受け取った疑いが持たれている。

 金容疑者は李代表が京畿道知事に就任してからは同道の報道官に起用され、李氏が公認候補に選出された今年3月には「共に民主党」の選挙対策本部副本部長を務めていた。金銭授受の時期が「共に民主党」が大統領選候補を選ぶための予備選を準備していた頃と重なっていたことや金容疑者が予備選で李代表陣営の選対副本部長を務め、資金調達や組織管理などを担当していたことから収賄した資金の一部が李代表の選挙資金に使われたものと検察は睨んでいる。

 検察は金容疑者の勤務先である同院の家宅捜索のため同院が入っている「共に民主党」の党本部に入ろうとしたが同党の猛反発を受けひとまず断念したものの李代表との関連性も含めて捜査の網を広げる構えを崩していない。

 李代表は「違法な資金は1ウォンも使ったことがない」として、「金副院長は長年共にしてきた人で、彼の潔白を信じる」と釈明しているが、李代表には主な疑惑だけで▲大庄洞土地開発疑惑▲京畿道城南市の柏峴洞特恵疑惑▲弁護士代納疑惑▲城南FC不法後援金疑惑▲自宅の隣家を京畿道住宅公社(GH)名義で借り、大統領選挙時に使用した容疑などがあるだけに検察の追及をかわすのは容易ではない。すでに大庄洞土地開発を巡る李代表の「虚偽発言」では起訴もされている。また、金恵景(キム・ヘギョン)夫人の公務用クレジットカード不正使用疑惑も再燃している。

 尹政権の最大のターゲットは文前大統領である。外堀を埋めてから、本陣に切り込む作戦のようだ。

 文前大統領関連疑惑では▲釜山副市長の金融委員会在職当時の収賄容疑調査隠蔽疑惑▲蔚山市長選挙介入疑惑▲私邸用の土地を農地から宅地に転用した疑惑▲原発データー改ざん疑惑などがある。また、金正淑(キム・ギョンスク)夫人の公私混同疑惑もある。

 政権交代と監査院長の交代を機に検察と監査院が「文在寅疑惑」絡みで徹底的に調べているのが原発データー改ざん疑惑である。

 原発データー改ざん疑惑では文前政権は脱原発政策を進めるため「ブラックリスト」を作成し、産業貿易資源部傘下の公的機関の電力関係者らに辞任を迫り、新規の原発工事を中断させ、さらに月城原発1号機(慶尚北道・慶州)を廃棄するためその経済性評価を捏造したことが明らかとなり、今年3月に保守系の市民団体が文前大統領の職権乱用疑惑を捜査してほしいとの告発状を提出していた。すでに文政権下で産業通商資源相を務めていた白雲揆(ペク・ウンギュ)氏が今年6月に取り調べを受けている。

 なお、月城原発の早期閉鎖を捜査している検察(大田地検刑事4部)は今年8月に文前大統領が月城原発の閉鎖前倒し決定を巡り大統領記録物を管理する大統領記録館(世宗市)を強制捜査している。

 尹政権の第1のターゲットは国会で多数を占め、政府与党と対決姿勢を強めている野党第1党を抑え込むため李在明代表に向けられているが、最終的な狙いは釜山市の田舎に引っ込み、隠遁生活を送っている文前大統領の不正疑惑を暴くことにある。

 李明博(イ・ミョンパク)、朴槿恵(パク・クネ)と2人の元大統領を刑務所送りされた保守勢力からすれば、その報復として文前大統領を血祭りにあげ、保守陣営の結束を図りたいとの思いがあるようだ。前政権の不正を暴くことが結果として支持率のアップに繋がると踏んでいるようだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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