厚労省が新法案「受動喫煙防止」攻防戦いよいよ佳境
1月30日、厚生労働省が今国会で提案する健康増進法の改正案、つまり受動喫煙防止強化案の大まかな骨子をホームページ上に発表した。タイトルを「『望まない受動喫煙』対策の基本的考え方」とし、以下の基本的な考え方が中心となる。
・「望まない受動喫煙」をなくす
受動喫煙が他人に与える健康影響と、喫煙者が一定程度いる現状を踏まえ、屋内において、受動喫煙にさらされることを望まない者がそのような状況に置かれることのないようにすることを基本に、「望まない受動喫煙」をなくす。
・受動喫煙による健康影響が大きい子どもや患者などに特に配慮
子どもなど20歳未満の者、患者等は受動喫煙による健康影響が大きいことを考慮し、こうした方々が主たる利用者となる施設や、屋外について、受動喫煙対策を一層徹底する。
・施設の類型・場所ごとに対策を実施
「望まない受動喫煙」をなくすという観点から、施設の類型・場所ごとに、主たる利用者の違いや、受動喫煙が他人に与える健康影響の程度に応じ、禁煙措置や喫煙場所の特定を行うとともに、掲示の義務付けなどの対策を講ずる。
その際、既存の飲食店のうち経営規模が小さい事業者が運営するものについては、事業継続に配慮し、必要な措置を講ずる。
面積規定が焦点に
細かな内容は以下の表の通りだ。
厚生労働省が2018年1月30日にホームページ上に発表した「『望まない受動喫煙』対策の基本的考え方」の主な内容。
医療施設や教育機関、行政機関は敷地内も屋内も禁煙だが、受動喫煙防止の必要な措置がとられた場所に喫煙所の設置が可能となっている。また、これ以外の施設では屋内原則禁煙だが、室外へのタバコ煙の流出防止措置などが講じられている喫煙専用室での喫煙は可能だ。この規則で言えば、現在、禁煙エリア・喫煙エリアに分けている飲食店内での飲食は可能だが、規制後、喫煙専用室での飲食はできないことになる。
さらに、既存の飲食店のうち、経営規模の小さい事業者が運営するもの、という区分があり、法律の施行時点における既存の飲食店のうち、中小企業や個人が運営する店舗で、面積が一定規模以下のものについては、別に法律に定める日までの間、「喫煙」「分煙」の標識の掲示により喫煙が可能となる。
これら店舗でも必要な分煙措置が講じられている喫煙専用室が設置されている場合、それ以外の店舗エリアへ20歳未満の客や従業員の立ち入りはできる。また、こうした店舗で働く従業員に対しては、受動喫煙のおそれがあるなどの説明が必要となるとする。わざわざ「既存の飲食店」とすることで、法施行後に新規開業する店は、仮に店舗面積が狭くても喫煙は認めない、という含みを持たせている。
さらに、喫煙専用室や屋外で不特定多数が利用する場所での分煙施設といった、受動喫煙を防止する環境整備のために予算や税制などの支援措置の実施を盛り込んだ。こうした受動喫煙防止強化策については、各施設の状況などに応じ、施行に必要な準備期間を考慮し、2020年の東京オリパラまでの間に段階的に実施し、国や自治体が周知啓発を行うことにしている。
この国会では主に小規模飲食店の「面積」が論戦の焦点になる。30平方メートル以下を喫煙可とするか、自民党の「タバコ族議員」が主張する150平方メートル以下という「骨抜き」案になるか、国会議員がどれだけ国民の健康について考えているか問われる。
加熱式タバコも規制対象に
さて、加熱式タバコ(加熱式電子たばこ)については、その煙にニコチンなどの有害物質が含まれていることは明らかとしたが、現時点の健康影響が明らかでないことから、当分の間は喫煙専用室かそれ専用の喫煙室(喫煙専用室と同様の規準)内でのみ喫煙を可能とするとした。
加熱式タバコとそれ以外のタバコ製品の違いがここだ。喫煙専用室での飲食は禁止されるが、加熱式タバコ専用の喫煙室を設置すれば、そこでの飲食は可能となる。
現状、厚労省の加熱式タバコの定義や認識は主に以下の三つだ。
・たばこ葉やたばこ葉を用いた加工品を燃焼させず、専用機器を用いて電気で加熱することで煙を発生させるもの。 加熱の方法や温度などは製品ごとに異なる。
・日本国内では、平成26年より順次発売が開始されている。
・副流煙はほとんど発生しない。
また、この見解が発表された2018年1月30日までにわかっている科学的な知見として以下のようにまとめ、今後も研究や調査を継続していくことが必要としている。
・加熱式たばこの主流煙には、紙巻たばこと同程度のニコチンを含む製品もある。
・加熱式たばこの主流煙に含まれる主要な発がん性物質(まだ測定できていない物質含む)の含有量は、紙巻たばこに比べれば少ない。
・加熱式たばこ喫煙時の室内におけるニコチン濃度は、紙巻たばこに比べれば低い。
先日、英国の医学雑誌『BMJ』に、タバコは1本でも心血管疾患(冠動脈疾患や脳卒中)のリスクを高めるとするメタアナリシス論文が出た(※1)。この論文についての同誌編集者からの論評も発表されているが、ようするにタバコの煙にさらされることによる健康への被害に「閾値はない」ということだ。
この『BMJ』誌は昨今、電子タバコなどについてハームリダクション的な立場をとっているが、この論評によれば、1本でもタバコは危険とし、その健康への害を看過できないとしている。ほんの少しでもタバコの煙を吸い込めば、重篤な病気にかかるリスクが上がるわけで、これは受動喫煙にせよ、加熱式タバコにせよ同じなのだ。
※1:Allan Hacksaw et al., "Low cigarette consumption and risk of coronary heart disease and stroke: meta-analysis of 141 cohort studies in 55 study reports." the BMJ, Vol.360, doi:10.1136/bmj.j5855, 2018
2018/01/31:9:44:この規則で言えば、現在、禁煙エリア・喫煙エリアに分けている飲食店内での飲食は可能だが、規制後、喫煙専用室での飲食はできないことになる。
2018/01/31:9:45:加熱式タバコとそれ以外のタバコ製品の違いがここだ。喫煙専用室での飲食は禁止されるが、加熱式タバコ専用の喫煙室を設置すれば、そこでの飲食は可能となる。
以上をそれぞれ追加した。