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社会の授業、ノルウェー高校生は政治家になにを聞いているの?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
労働党の選挙小屋で選挙の公約や他党との違いを聞く15・16歳 撮影:あぶみあさき

9月13日の国政選挙を前に、ノルウェーは選挙の話題で盛り上がっている。

首都オスロの中心部にあるカール・ヨハン通りでは、各政党の選挙小屋(スタンド)に市民が集まり、政治のおしゃべりが始まっている。

大勢の高校生、自転車で通りかかって「あなたたちの政党の政策はなんだ!」と聞く市民 撮影:あぶみあさき
大勢の高校生、自転車で通りかかって「あなたたちの政党の政策はなんだ!」と聞く市民 撮影:あぶみあさき

首都オスロにはこのように政党の選挙小屋が集合している場所が何か所があるが、市民が質問してくる内容はエリアごとによっても違ったりする。

カール・ヨハン通りといえば、「こういう人が集まりやすい」と各政党は取材で答えた。

  • 「これを聞きたい」と事前に決めて、特定の細かい質問をしてくる市民
  • 全政党の政策パンフレットをもらいにくる市民
  • 全政党を一気に訪問して質問したい市民
  • 有権者ではないが興味津々で話しかけてくる・記念撮影する観光客
  • 学校の課題として政治の質問をしてくる大勢の生徒

ブリンダン高校に通う1年生、ソフィアさん(16)、アウグストさん(15)、カヴィシャさん(16)、サカリアさん(16)も、学校の課題で労働党の選挙小屋の前にいた。

撮影:あぶみあさき
撮影:あぶみあさき

今年の選挙では投票権はないが、4人は党員と話すことを楽しんでいた。

「政治を別の方法で学ぶことができていいよ」「政党が何を考えているのかを知ることができる」「おもしろい」と取材で答える。

撮影:あぶみあさき
撮影:あぶみあさき

質問は自分たちで考えることもあれば、先生から出されることもある。

4人が学校から渡されたという質問票を持っていたので、見せてもらい訳してみた。

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課題1

インタビュー1:各政党の代表にインタビューして聞きましょう

・相手の名前、その人の政党内での肩書・役割

・富裕税について政党はどう考えていますか

・他政党と何について対立しているのですか

・自分たちの政党の解決策が最もベストだと、どのように議論していますか

・そのテーマにおいて、政党が最も対立しているのはどの政党か聞きましょう

・今年の国政選挙で政党が考える争点をほかに2つ挙げてもらいましょう

・その2つの争点について政党はどう考えていますか

インタビュー2:ひとつの政党を選びましょう。国政選挙でその政党が最も対立する政党の代表者をひとりインタビューしましょう

・相手の名前、その人の政党内での肩書・役割

・富裕税について政党はどう考えていますか

・最初にインタビューした政党の富裕税についての主張を相手に伝えてください。その議論に対して政党はどう答えるでしょうか

・自分たちの政党の解決策が最もベストだと、政党はどのように議論していますか

・今年の国政選挙で政党が考える争点をほかに2つ挙げてもらいましょう

・その争点について政党はどう考えていますか

インタビュー3:あなたがもっと知りたいと思う政党をひとつ選び、富裕税とあなたが関心のあるテーマを聞きましょう

インタビューが終わった後はカフェ・図書館などに行き、次を議論してください

課題2

国政選挙で重要だと考える2つの争点を、各政党はどれほどの度合い・意気込みで説明しましたか?各政党がなにを優先しているかにおいて、類似点や相違点がうまれる原因を議論してください。

課題3

ひとつの政党、もしくは複数の政党が、選挙で最も重要だと答えたもののなかで、どれが対立を生んでいる問いかを考えてみてください。

なぜあなたは他の問いよりも、それを最も重要だと思うのか、あなたの議論を書いてください。

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この宿題内容を見て、あなたは何を思っただろうか

生徒たちが党員と話している間は、先生は遠くから見守っている。

カール・ヨハン通りには国会もあるため、運がいいと、首相や大臣、各政党の党首に会えることもある 撮影:あぶみあさき
カール・ヨハン通りには国会もあるため、運がいいと、首相や大臣、各政党の党首に会えることもある 撮影:あぶみあさき

この後、生徒たちはクラスでグループで話し合い結果をまとめ、政党の立場に立って議論してプレゼンを行うのが一般的な流れだ。

私は日本で高校1年生だった頃、政党の政策の違いは何かなど考えたこともなかった。レベルの高い宿題内容と、平然とこなしている中高生に毎回おどろかされる。

  • 全ての政党が同じ場所に集まっていて、
  • 緊張せずに気軽に政治のことを聞いて、
  • 公約パンフレットを一気に集めることができて、
  • 他党との相違点をわかりやすい言葉で説明できる党員

このような習慣が教育現場にあると、初めての選挙でも戸惑うことを減らせるのではないだろうか。

「まだ投票できる年齢ではない」という人も多いため、「わたしも早く投票したい!」と悔しそうな人にも取材先ではよく出会う。

市民の政治参加を高め、若者が投票に自然と行くようになる工夫は、街の通りや義務教育の現場ですでに仕掛けられていた。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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