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なぜ、バリー・ボンズ氏はイチローのいるマーリンズの打撃コーチに就任したのか。3つの理由。

谷口輝世子スポーツライター
2014年にジャイアンツで臨時コーチを務めたときのボンズ氏。(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

イチロー外野手の所属するマーリンズは4日、メジャーリーグ通算最多本塁打記録を持つバリー・ボンズ氏の打撃コーチ就任を発表した。

ボンズ氏は、通算762本塁打、本塁打王2回、最優秀選手MVPを7度も受賞。しかし、メジャー史上屈指の強打者が残した輝かしい記録には、パフォーマンス向上のために薬物を使用した黒い影がつきまとう。

2007年には、薬物使用に関する偽証と不明瞭な証言で司法妨害した罪で起訴されたが、ようやく今年7月に無罪が確定した。

野球殿堂入り投票でも落選している。

複数の米メディアは、ボンズ氏が打撃コーチに就任した背景を解説する記事に、イチローではなく、2人のビッグネームの影響があったのではないかとしている。そして、あるチームの方針も絡んでいたようだ。

マーク・マグワイア

本塁打王4度、通算583本塁打のマグワイア氏もボンズと同様にステロイド使用疑惑があった。2005年の米下院公聴会では「過去のことは話すつもりはない」などと証言を拒否し、引退後しばらくは表舞台に姿を見せることはなかった。

しかし、2010年にカージナルスの打撃コーチに就任。開幕前に過去のステロイド使用を認め、謝罪をした。13年から今季まではドジャースの打撃コーチを務めた。2016年はパドレスのベンチコーチに就任する。

マグワイア氏はコーチとして再びユニホームを着て、指導者として結果を出すことで、ステロイドを使用した事実に変わりはないが、薬物使用を過去の過ちへと押しやったのだ。(野球殿堂入りは難しいだろうが)

現場に復帰して野球人として新たなキャリアをスタートさせない限り、薬物を使用した本塁打王(だから野球殿堂入りを果たせないのだ)という汚点ばかりがクローズアップされ続ける。

マグワイア氏のコーチとしての成功が、ボンズ氏の背中を押したのではないか。

参考記事Barry Bonds Could Follow Big Mac's Path to Redemption with Marlins' Coaching Gig

アレックス・ロドリゲス

ボンズ氏は07年に現役を引退してからはジャイアンツで臨時コーチに招かれているが、正式なコーチに就任したことはなかった。しかし、選手個人に打撃指導をするプライベートコーチをしていた。その顧客の一人がヤンキースのアレックス・ロドリゲス内野手だ。

参考記事Bonds tutoring A-Rod in batting cage

ロドリゲスは禁止薬物を使用した違反で2014年シーズンの全試合出場停止処分を受けており、15年シーズンが始まる前にボンズをプライベートコーチにして指導してもらっていたのだ。シーズン中に40歳の誕生日を迎えたが、今季の33本塁打、86打点で薬物問題からの復帰を印象づける成績を残した。

昨年、マーリンズとパイレーツでプレーしたマイケル・モース選手やカブスのデクスター・ファウラー外野手もボンズから指導を受けた。2014年4月のメジャーリーグ公式ホームページには、ファウラーがボンズについて「メンター(師)」と呼んでいる話が掲載されている。Fowler receiving hitting tips from Bonds

プライベートコーチとして選手の指導にあたり、ボンズ氏は手応えと自信を得ていた。それも打撃コーチを引き受ける要因になったようだ。

ジャイアンツ

ボンズ氏は1985年にパイレーツから1位指名を受け、翌年にメジャーデビュー。1992年のシーズン終了後にフリーエージェントになり、ジャイアンツと契約し、引退するまでジャイアンツでプレーした。

ボンズ氏はジャイアンツの打撃コーチになることを望んでいたようだ。しかし、ジャイアンツはそのポジションをオファーしなかった。ロッテやヤクルトでプレーしたミューレン打撃コーチがおり、ジャイアンツ球団はボンズ氏をチームのアドバイザーや大使役のようなポジションしか、迎えるつもりはなかった。参考記事Barry Bonds: the Marlins, not the Giants?

マグワイア氏がカージナルスで打撃コーチに就任したときには、監督と選手として信頼関係のあったラルーサ監督の存在があった。しかし、ボンズ氏にはそのような人物がいなかった。ボンズ氏も、正式なコーチ職を提示したのはマーリンズだけだったことを認めている。

打撃コーチは試合中の仕事だけでなく、相手投手の分析、自チーム選手の打撃フォーム分析、練習に立ち会うなどさまざまだ。ボンズ氏に打撃コーチの長時間労働が務まるのだろうかという疑問の声も出ている。

しかし、彼の野球人としての評価が「禁止薬物を使用した本塁打王ボンズ」、「メジャー通算最多本塁打記録保持者 ※薬物使用」で終わるのか、それ以外の評価を得ることができるのかは、この仕事をモノにできるかどうかにかかっている。

マーリンズはボンズ打撃コーチの客寄せ効果も狙っているのかもしれないが、ボンズ氏にとっては勝負のシーズンになるはずだ。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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