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近畿の高校野球は夏も熱い

森本栄浩毎日放送アナウンサー
夏の前哨戦となる春の近畿大会は強豪が揃い、例年以上の盛り上がり。熱い夏は確実だ

センバツは龍谷大平安(京都)が熱戦の末、履正社(大阪)を破って古豪復活を遂げた。近畿勢同士による決勝は35年ぶりで、大会そのものが大いに盛り上がったことは言うまでもない。その予兆は、秋の近畿大会時からあった。名門、強豪がいずれも充実した戦力で、本大会での活躍を予感させるに十分なインパクトだったからだ。秋に続き、春の府県予選を制したのは龍谷大平安、報徳学園(兵庫)、智弁学園、智弁和歌山の4校。いずれもセンバツ出場を果たしている。秋から地元での地位が変わっていないことからも判るように、戦力の充実が安定した戦いを生み出している。ただ、これら4校が夏の甲子園にすんなり出場できるかと言うと、必ずしもそうとは限らない。負ければ終わりの夏の予選はそれだけ激しい。

履正社と大阪桐蔭が激突

近畿で最注目は大阪だ。ここ数年、履正社と大阪桐蔭の2強状態が続いている。秋の段階では、履正社が桐蔭を13-1の5回コールドで圧倒し強さを印象付けていた。選手権に出て新チームの始動が遅れたことを割り引いても、今世代はさすがに桐蔭も苦戦は免れないと思われた。しかしひと冬越えて、チームは変貌する。春の府大会は決勝で当たり、8-5で桐蔭が雪辱した。打線の破壊力は前チームを凌ぐ。特にケガから復帰した4番の正随優弥(3年)が好調だ。甲子園経験のある峯本匠、香月一也、森晋之介(いずれも3年)も成長し、脇を固める。カギは投手力。2年生の田中誠也から福島孝輔(3年)へつなぐパターンがどこまで通用するか。対する履正社は、投手を中心にした守りで対抗する。

投手力で大阪桐蔭を上回る履正社は、安定感のある溝田の投球術がカギを握る
投手力で大阪桐蔭を上回る履正社は、安定感のある溝田の投球術がカギを握る

2年生の溝田悠人、永谷暢章を、遊撃の吉田有輝(3年)らバックの堅守が支える。春は打順を大幅に変更し、岡田龍生監督(53)も試行錯誤した。直接対決の勝者が甲子園という可能性が最も高いだけに、桐蔭に打撃戦を挑まれると分が悪い。消耗の少ない段階での対戦を願っているはずだ。2強を追うのは関大北陽とPL学園の秋の近畿大会組。北陽は、4番の岸本朋也(3年)を軸にした打線の破壊力が目を引く。秋の近畿でも報徳学園(兵庫)を必死で追い上げて、「この頑張りは必ず先につながると思います」と新納弘治監督(53)は手応えをつかんでいる。秋の近畿で正井一真校長(66)が監督代行としてベンチ入りしたPLは、現状、監督不在のまま夏を迎えることになりそう。実際は、OBの深瀬猛氏(45)が練習を指導し、ゲームプランを練った上で試合に臨む。「ベンチで選手の役割は決めています」(深瀬氏)が、試合が始まってしまえば、全てはベンチ任せ。つまり選手たちの臨機応変さに委ねるしかない。秋の近畿も福知山成美(京都)相手に悔いの残る敗戦だった。渋谷勇将(3年)、谷健人(3年)ら力のある投手、4番の主将・中川圭太(3年)を軸にした打線は近年にない豪華な陣容。復活を期待するファンの視線は熱い。

ハイレベルの京都は王者・平安に焦点

平安の優勝で盛り上がる京都は、ここ数年で最もレベルが高い。平安を追うライバルたちが、虎視眈々と波乱を狙っている。平安は春の近畿で智弁和歌山に勝ったあと、準決勝で報徳に敗れた。「リセットして夏をめざしたい」と話していた原田英彦監督(54)も、センバツ優勝の余韻からようやく開放?され、最後の夏に向けて練習に集中している。

2年生左腕を救援する中田はタフな精神力で平安の守護神として春夏連覇に挑む
2年生左腕を救援する中田はタフな精神力で平安の守護神として春夏連覇に挑む

基本的にはセンバツ同様、2年生左腕の高橋奎ニ、元氏玲仁のいずれかが先発し、逆境に強い右腕速球派の中田竜次(3年)がリリーフするパターン。バックもセンバツ優勝メンバーで固め、せいぜい打順が変わるくらいだろう。高い守備力と機動力は豊富な練習に裏打ちされていて、選手たちも自信に溢れている。ライバル一番手はセンバツ8強の福知山成美。田所孝ニ監督(54)が、センバツ敗退直後、「4月から校長になります。これから指導は難しいかも」と発表し周囲を驚かせた。動向に注目が集まったが、この夏までは指揮を執ることになり、選手たちは安堵しているようである。押し付けを嫌い、自主性に任せる指導方針を慕って入部した選手も少なくないはず。最後になるかもしれない指揮官に花道を、と選手たちが闘志を燃やす。春の近畿では公立の鳥羽が、智弁学園(奈良)を堂々と破って健闘した。投打のバランスがいい立命館宇治や京都外大西も高いレベルでまとまる。新鋭の京都翔英や古豪の東山も上位争いに割って入る。平安の優勝で、古都の夏は例年以上に熱く燃える。

報徳を神戸国際大付、東洋大姫路が猛追

兵庫は春夏連続を狙う報徳を多彩なライバルが激しく追い上げる。一番手は神戸国際大付。これまでから何度も優勝候補に挙げられてきたが、大事な試合での取りこぼしが目立って、夏の甲子園は未経験。ただ、陣容は今年も県下一との評判だ。キャリアのある左腕の横谷廉、長身の黒田達也、打っても主軸の左腕・高橋優の3年生トリオに、パワーヒッターの飯迫恵士(3年)を4番に据える打線は全国でも確実に通用する。東洋大姫路は、甲斐野央(3年)を中心に投手力で勝負。前回夏の選手権出場時同様、打線の強化がポイントになるが、国際とは対照的に、夏に無類の強さを発揮するのが伝統でもある。好投手で言えば、どの指導者からも明石商の松本航(3年)の名が挙がる。県外強豪とも数多く手合わせしていて、実力は折り紙付きだ。一昨年夏の甲子園でベンチ入りした滝川二の左腕、田中健太(3年)は、春先にケガをして心配されたが回復している。

安定感が増した報徳の中村は、四球から崩れる心配がなく、試合にリズムをもたらす
安定感が増した報徳の中村は、四球から崩れる心配がなく、試合にリズムをもたらす

受けて立つ報徳は、エース中村誠(3年)が、秋は試合によって、あるいはイニングによって出来不出来がはっきりしていて、しばしば捕手の岸田行倫(3年)の救援を仰いだ。センバツ以後、その不安定さはすっかり解消された。永田裕治監督(50)も「誠はコントロールがいいから大崩れしない」と成長を認める。指揮官をさらに喜ばせているのは、新入生の左腕、主島大虎の台頭。春は県の決勝(姫路南戦)で好投し、チャンスをモノにした。近畿の決勝ではさすがに大阪桐蔭に打たれたが、これも経験と永田監督はさらなる成長を促す。春は内野のコンバートや控え選手の起用など、常に刺激を与え続け、ライバルたちを引き離しにかかっている。

智弁優位も奈良に波乱呼ぶ好投手

奈良県下無敵の智弁学園は、秋に比べるとライバルとの差が縮まっている。春は天理に打ち勝って近畿に出場したが、鳥羽(京都)の左腕、島西大来(3年)の巧みな投球に初戦敗退。主砲の岡本和真(3年)が3打数無安打1死球と抑えこまれ、打線全体が湿った。秋から岡本が不発の試合は、チーム全体が意気消沈する傾向にあったが、依然、解消されていない。「岡本がマークされるので、他の選手が頑張らないと」と小坂将商監督(36)の悩みは尽きない。尾田恭平(3年)、浦中拓也(3年)、岡本らの投手陣に絶対の信頼があれば話は別だが、奈良にはこの打線を抑え込む力を持ったスーパーエースが存在するからだ。

大和広陵の立田はドラフト上位候補。強打の智弁学園、天理の前に立ちはだかる
大和広陵の立田はドラフト上位候補。強打の智弁学園、天理の前に立ちはだかる

大和広陵の立田将太(3年)は、入学時から注目された逸材で、昨センバツにも出場して、全国のファンにもおなじみ。ただ大舞台では腰痛のため不本意な投球しかできず、最後の夏に懸ける意気込みはすごい。故障がちで、連投を制限するため、強豪に対してピンポイントで登板してくる可能性が高いが、そうなればいかに強打線といえども攻略は容易でない。近畿ナンバーワンの好投手が奈良の代表争いを左右するのは間違いないところだ。天理は、選手層も厚くチームとしての力は智弁と双璧。春は決勝でエースの橋本晃樹(2年)がよく踏ん張ったものの、終盤に力尽きた。打線の力勝負を挑まれると分が悪い。秋の近畿で8強に残りながら智弁和歌山にコールド完敗して初の甲子園を逃した奈良大付も巻き返す。秋はメンタルの弱さが出て智弁和歌山に圧倒されたエースの坂口大誠(2年)がどこまで成長しているか。昨年は強豪がつぶしあい大波乱となった。今年も思わぬ結果が待っているかもしれない。

智弁和歌山に待ったをかけるチームは?

強豪を追いかけるライバルが充実してどの府県も代表争いが激しくなる中、智弁和歌山だけは他の追随を許さない。秋の新チーム結成時から明らかに潜在能力の高さを感じさせる戦力だったが、唯一、不安視されていた投手の軸が固まったのが大きい。左腕の斎藤祐太(2年)は、センバツの明徳義塾(高知)戦で好投し、高嶋仁監督(68)を喜ばせた。春も近畿の平安戦で力投し、互角の投手戦を演じた。タイプの全く違う東妻勇輔(3年)が控えるのも心強い。打線は主将の長壱成(3年)を中心に長打力は群を抜く。2年生の西山統麻、春野航輝も力をつけていて、好機にたたみ掛ける爆発力は全盛期を彷彿させる。全国で最も甲子園に近いチームと言ってもいいのではないだろうか。

骨折でセンバツを棒に振った海南の岡本は、最後の夏に全てを懸ける
骨折でセンバツを棒に振った海南の岡本は、最後の夏に全てを懸ける

秋に智弁と好勝負を演じた海南は、エース岡本真幸(3年)の復調が全て。センバツ直前の骨折が尾を引き、夏はぶっつけ本番になる。池田(徳島)戦で好投した左腕の神崎稜平(3年)もその後故障する中、北畑裕士(2年)が速球を武器に台頭してきたのは好材料だが、打っても中心となる岡本が万全でなければ、智弁とは渡り合えない。昨夏に復活した箕島は打線好調も投手陣に不安。秋に健闘した古豪の新宮や近大新宮、高野山は投手力に秀でるが、智弁の独走に待ったをかけるにはやや力不足か。

好投手多い滋賀は混戦

近畿で唯一、取り残された感がある滋賀は今年も小粒だ。「滋賀選抜ならいい勝負できますよ」と北大津の宮崎裕也監督(53)が漏らしたように好素材が多くのチームに分散している。

187センチの長身を利した投球で北大津のエースに成長した大村は進化を続ける
187センチの長身を利した投球で北大津のエースに成長した大村は進化を続ける

春の県大会優勝の北大津は、左腕の大村涼兼(3年)が急成長し、エースの座を射止めた。伸びしろも十分で、夏にはさらに逞しくなった姿を見せてくれるはずだ。「春は全然だった」(宮崎監督)打線は1年からレギュラーの松川健太(3年)が甲子園経験を生かして牽引する。県外試合に強い同校は、滋賀県勢にないメンタリティーの強さが伝統でもある。ライバルの近江は、小川良憲(2年)を推す。「速球は将来性十分」とベテランの多賀章仁監督(54)も絶賛する期待の星だ。攻撃面では俊足の堀口裕真(3年)がかき回せる展開になれば面白い。秋の王者、近江兄弟社は、佐々木将人と近藤秀朗の3年生バッテリーが強力。動きのいい遊撃の奥村真成(3年)がバックで支える。北大津が苦手にする上坂将大(3年)擁する比叡山は、一昨年の創部100周年を機に古豪復活を期す。近畿屈指の左腕、中嶋優佑(3年)がマウンドを守る滋賀学園は、打線も含めた潜在能力ではトップクラス。1年から主戦格の殿城雄大(3年)の光泉、左腕・川副智哉(3年)が成長している昨夏代表の彦根東も連続出場を狙う。これら上位が期待されるチームはそれぞれに特長を持っているが、甲子園で活躍できるかと問われれば返答に窮する。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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