間違えだらけの温泉選び――。【ひとり温泉】だからこそ、最も相性がいい≪マイ温泉≫に巡り合える
温泉を知りたい、通ゆえのひとり温泉――≪マイ温泉≫を探す
身体が飢えてきた。
乾いて乾いて仕方ない。
もうからっからっ。
そんな状態になると旅に出る。
私のひとり温泉を分類わけをするとしたら、「通ゆえのひとり温泉」に当てはまるのだろう。
現在、生活の拠点は東京にある。
もちろん寅さんのように気ままな旅から旅への生活をしたいが、なかなかふらりと旅に出られないのが実情だ。
雑多な毎日を過ごすと肌は乾き切り、砂漠状態になる。
仕事を仕上げ、ようやくたどり着いた先で温泉に入ると、湯が肌に染み込んでくる。
5分……、10分……、徐々に毛穴が開き、産毛がゆらゆらと揺れてくる。
毛穴が開きはじめると、身体に温泉の熱がぐんぐんと入ってくるのがわかる。もう、快感――。
温度や泉質にもよるが、私は1分入浴すれば、じんわりと鼻のあたまに汗が滲み、5分入れば顔じゅうに汗のつぶが浮かび上がる。
こうなったら、ちょっと休憩。
脱衣場に持ち込んだ水をぐびっと飲み干す。 休息の時間は、目安として入浴時間の倍くらい。
しばらくすると身体のほてりが取れてきて、またドボン。
2度目は、肌が温泉を「ぐび、ぐび」と飲んでいるみたい。
温泉に入った翌日は肌がつやつやだ。人に触らせたくなるような気分になる。5日経ち、1週間経つと、もうカラカラとなる。10日も経った頃は、ふたたび身体が砂漠状態となり、旅に出たくなる。
前置きが長くなったが、マイ温泉を見つけるために、特色ある温泉の泉質をご紹介しよう。
酸性の温泉は、入るとピリッと刺激があり、温泉の中で手をこすり合わせると軋む感じがする。
これに対して、アルカリ性の湯は入った時にぬるんとする感触が特徴。この最もわかりやすい温泉の違いを入り比べると、温泉もひとくくりでは語れないことがわかる。
まず日本で1、2を争う強酸性の湯は、大分県由布院と別府の間にある塚原高原に湧く「塚原温泉」。こちらは日帰り入浴施設があるのみ。秋田県の「玉川温泉」は、難病に効くと名高い温泉地。確かに、湯治棟で闘病生活をされている方も多くいらっしゃる。また酸性の湯は殺菌効果があると言われており、傷を浸ければ翌日はかさぶたになるという傷の治り具合の速さも、この泉質の湯に入る楽しみのひとつ。
対極に、日本で1、2を争うPH11・3のアルカリ性が高く強い湯は埼玉県の「都幾川温泉」。浴槽に足を入れると、「え?」と驚愕のぬるぬるぶり。都幾川温泉はゆずの里としても知られ、ゆず懐石がとても美味。ここは日帰りのみの施設だ。
やはりぬるぬるの驚きと木造りの湯船があいまって、ぬるぬるの相乗効果となるのが、長野県「八方尾根温泉」。
このぬるぬるの秘密は、アリカリ性が高いから。湯に浸かり、肌をこすりあわせると、まるでうなぎをつかんだかのように、ぬるんと湯が肌からこぼれおちてしまう。その感覚には感動してしまうほど。
【自分と相性がいい温泉「マイ温泉」に巡り合う】
むやみやたらに入浴し、癒しを求めていないだろうか――。
実は、人と温泉の関係に、相性というのがある。
まずは相性がよさそうな泉質を見つけたら、その泉質の温泉地をいくつか巡ってみよう。一番しっくりくる温泉地や自分と相性がいい源泉を探すべく、入る。温泉数が増えていくと、不思議なほどに肌が鋭敏になっていくのがわかる。肌がビビッドに反応してくるのだ。
※この記事は2024年9月6日に発売された自著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。