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はじめての女性「ひとり温泉」に明かす、≪絶対安心の宿選びのコツ≫ 最も困る食事編

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

ひとりの食事の愉しみ方

*カウンター席のある宿を選ぶ

ひとり温泉では、食事の時が悩みの種。これだけひとり温泉を経験した私でも、いまだに困ることがある。

それは話し相手、目のやり場、騒音である。

最も困るのは、大宴会場にぽつんとひとりで座らされること。しかもよりによって席が中央近くにあり、周りは車座での大宴会。食事を楽しむどころか、騒音が気になり、おまけにはみ出し者の気分で寂しくなる。これが最悪なパターン。

いまでは宿側の受け入れ環境の改善で、このような状況はさすがに少なくなったが、予約の時に、念のため確認した方が安心だ。

近年は、ひとり客に対して、2パターンの食事形式が多く見られる。

まず客室に食事を運んでくれるパターン。

この場合、テレビを見ながら、あるいは携帯をいじりながらになりがちで、やや風情に欠ける。さらに鍋などが供された時には、客室に食事の匂いが残ってしまうから、私はあまり好まない。

次に多いのは、大きな食事処をパーテーションなどでひとり客用に区切ってくれるパターン。

ありがたいと言えばありがたいが、壁を見ながらの食事になることが多く、やはり味気がない。

近年は半個室風の部屋を用意してくれることが多くなったが、それでもひとり温泉において、さらに嬉しい食事環境がある。

最も居心地がよかったのは、カウンターでの食事だ。調理人が適度に話し相手になってくれる。土地の食のことを知り尽くしたプロとのちょっとした会話は、その土地への興味を抱けるし、愛着も湧く。そう言えば、女性ひとりということで何かと気にかけてもらったことが、嬉しかったなぁ。

静岡県北川温泉「吉祥CAREN」鉄板焼きレストラン「青竹」では、大きな鉄板に沿ってカウンター席が並ぶ。

目の前の駿河湾で獲れた活きのいい伊勢海老を、熱い鉄板に載せるとぴょんぴょん跳ねる。料理人が押さえつけ、じっくり焼く。薄茶色だった伊勢海老が徐々に赤くなっていく。その様子を見ながら、「ごめんなさいね、おいしくいただきますからね」と心で呟く。命をいただけることのありがたみを噛み締めて、食す。

デザートではフランベをしてくれる。目の前で燃え上がる炎を眺めながら、食事を楽しめるのも一興。エンタメ要素の強い鉄板焼きはひとり温泉を飽きさせない。

他に、鉄板焼きがある温泉宿で記憶に残るのは、別府鉄輪温泉「山荘 神和苑(かんなわえん)」。

レストラン「楓」には鉄板が2か所あり、7~8人が前に座れる鉄板は家族連れが利用し、私は5席ほどの小ぶりの鉄板の方で、それも窓側の端の席だった。高台にある「神和苑」は、別府湾と湯けむり上がる鉄輪の街並みが見下ろせる。肉を焼くショーとも言える鉄板焼きの愉しさに加え、ふと横を向けば海を眺められ、贅沢な時間だった。

ちなみにここの朝食会場からは能舞台と手入れの行き届いた庭園が見える。ひとり温泉で、食事相手がいないゆえの間がもたない、あの居心地の悪さを、一度も感じなかった。

※この記事は2024年9月6日に発売された自著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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