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8強が出揃った皇后杯。WEリーグ首位快走の東京NB支える得点力、なでしこリーグ王者との大一番へ

松原渓スポーツジャーナリスト
WEリーグ首位を走る東京NB(写真提供:WEリーグ)

【ベスト8が出揃った皇后杯】

 女子サッカー日本を決める皇后杯は、ベスト8が出揃った。

 全国9地域の代表24チームにWEリーグ所属の12チームとなでしこリーグ1部所属の12チームを加えた全48チームが参加し、頂点を競う大会。過去には数々の名勝負が刻まれてきたが、2022年の第43回大会では、10代のチームがプロチームを破ってベスト4に進出するなど、ジャイアントキリングも増えている。だが、今年は、例年に比べると“波乱”が少ない。

 12月14日と15日に行われた5回戦では、WEリーグの12チームが登場。勝ち上がってきたなでしこリーグ勢と激闘を繰り広げた。プロのWEリーグに対し、アマチュア選手が大半を占めるなでしこリーグは国内リーグのピラミッドで言えば「2部」の位置付けとなる(昇降格はない)。

 新潟(WEリーグ5位)は、朝日インテック・ラブリッジ名古屋(なでしこリーグ1部3位)に2-1で逆転勝利。N相模原(WEリーグ11位)は、岡山湯郷Belle(なでしこリーグ2部優勝・来季から1部)を2-0で撃破した。広島(WEリーグ4位)は、VONDS市原FCレディース(来季からなでしこリーグ2部に参入)に2点差を追いつかれたものの、延長線の最後に上野真実が決勝弾を沈め、次のステージへと進んだ。3つのゲームでWEリーグ勢が実力を示したが、挑戦者たちの健闘も光った。

 WEリーグ以外で唯一、準々決勝に駒を進めたのは、なでしこリーグ1部王者のヴィアマテラス宮崎だ。14日の試合で、大宮(WEリーグ12位)を延長戦の末に1-0で撃破。昇格1年目で初優勝の快挙を成し遂げた強さを、この大一番でも証明した。トップリーグで戦ってきた経験値を持つメンバーが多く、強度の高い守備と、縦に速い攻撃でゴールを奪うサッカースタイルは、J1のFC町田ゼルビアにも喩えられる。集客力や「地域おこし」という点でも注目のチームだ。

 そして、その宮崎が準々決勝で対戦するのが、WEリーグ首位を走る東京NBだ。

【シュートエリアが拡大、シュートスキルに変化も】

 東京NBはなでしこリーグで17回、皇后杯でも最多16回の優勝を誇る名門クラブだが、ここ数年は多くの主力が海外挑戦を表明。長谷川唯、田中美南、山下杏也加、清水梨紗、藤野あおば、宮澤ひなた、遠藤純ら、同クラブで育ち、代表や海外へとキャリアアップを図るケースが続いている。それゆえに主力の入れ替わりも激しく、直近の4シーズンは“3強”を形成する浦和と神戸の後塵を拝している。

即戦力が活躍する(写真提供:WEリーグ)
即戦力が活躍する(写真提供:WEリーグ)

 だが“負け癖”はついていない。意気溢れる10代の若いタレントが次々に芽を出し、即戦力として活躍する土壌の豊かさは変わらないからだ。現在のチームには、直近のパリ五輪に出場した代表選手が1人もいないが、相手と駆け引きしながら巧みにボールを動かすインテリジェンスや足元の技術、コンビネーションの質は落ちることなく、得点力を強化してきた。

 リーグ前半戦(11節)終了時の成績は28得点8失点。昨年のこの時期(19得点9失点)に比べて失点数はほぼ横ばいだが、得点は1.5倍になっている。

 15日にレモンガススタジアム平塚で行われた皇后杯5回戦は、同じくWEリーグの千葉に2-0で勝利。山本柚月と坂部幸菜のゴールで、相手の堅守に涙をのんだ1カ月前のリーグ戦のリベンジを果たした。

 昨年から高めてきた流動性と「追い越す」動きの増加に加え、大きな変化を感じるのはシュートへの意識だ。

 以前はゴール前でもパスで崩し切ろうとする意識が高く、結果的にカウンターを受けることも少なくなかった。だが、今は個々のシュートへの意識が高く、北村菜々美や山本柚月、土方麻椰ら、アタッカー陣はボールを持つとまず仕掛ける。シュートシーンは迷いなく足を振り切っており、エリア外からでも強烈な弾道を枠に飛ばす。司令塔の一人であるボランチの菅野奏音が放つミドルシュートやFKは、男子にも引けを取らないように感じる。

菅野奏音(写真提供:WEリーグ)
菅野奏音(写真提供:WEリーグ)

 松田監督は言う。

「今まではきれいに崩してシュートという形が多かったけれど、それだけじゃゴールは取れないのでシュートエリアを広げてきた。実際に点を取ったシーンでは、相手がいてもかわした瞬間にシュートを打つとか、変化があってのシュートが多いので、それは今後も増やしていきたい」

 プロ化によって各チームの守備強度も向上しているが、東京NBの伝統とも言える「パスで崩す」選択肢の多さが、相手の判断に迷いを生じさせているのは間違いないだろう。ワントップの鈴木陽のように、ロングボールやクロスに強いタレントが加わったことも、攻撃の選択肢を広げている。

「今は男子も女子も世界的にサッカーが(縦に)早くなってきている中で、我々のストロングポイントである『ボールをしっかり動かせる』というところに絡めてそういう攻撃を活用できれば、また新たな形になると思いながら今シーズンは進めてきました。それが、少しずつ浸透してきたかなと思います」(松田監督)

松田岳夫監督(写真提供:WEリーグ)
松田岳夫監督(写真提供:WEリーグ)

【宮崎との初対戦へ】

 12月22日には、香川県のPikaraスタジアムで、ジャイアントキリングを目指す宮崎と準々決勝を戦う。WEリーグのどのチームとも異なるサッカースタイルで挑む宮崎との対決は、白熱必至だ。

「相手は失うものないそれぐらいのつもりで来ると思うし、それを受けて立とうなんて思っていません。自分たちらしく戦えれば結果はついてくると思うので、相手がどこは意識しないようにしています。誰か一人に頼るのではなく、全員が同じ方向を向いてしっかりとボールを動かすし、相手を動かしてゴールを奪う。そこに尽きると思います」(松田監督)

 

 宮崎の挑戦者魂を退け、2大会ぶりのタイトルに前進することができるか。

 試合はJFA TVで配信される予定だ。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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