なでしこJ新監督が決定!「世界一返り咲きを目指す」ニルス・ニールセン氏の指導哲学とは?

【初の外国人監督招聘へ】
12月12日、なでしこジャパンの新監督にデンマーク出身のニルス・ニールセン氏(53歳)が就任したことが発表され、JFA(日本サッカー協会)は18日に都内で会見を行った。テレビクルーや記者が詰めかけた室内には熱気がこもり、初の外国人監督を迎えた注目度の高さが窺えた。
なでしこジャパンの監督はこれまで、基本的に世代別代表からの持ち上がりとなることが多かったが、JFAの宮本恒靖会長は、「なでしこジャパンが世界一に返り咲く」という最終目標から逆算し、新監督選考の条件として以下のように、高いハードルを設定した。
「海外のリーグやチャンピオンズリーグでプレーするトップレベルの選手たちを指導できるトップレベルの指導者」
「国際大会の(A代表を率いた)経験、実績がある」
「日本女子サッカーや選手を知っている」
「戦術の引き出しが多いこと」
選考の期限は迫っていたが、妥協は許されない。本来は新体制のお披露目となるはずだった10月末の韓国戦には間に合わず、11月に設定されていた国際Aマッチデーも、体外試合を組むことはできず、貴重な強化の機会を逃した。そして、難航した4カ月間の選考プロセスを経て、複数の候補から選任されたのがニールセン監督だった。
これまで、日本女子代表監督は報酬面でも海外の強豪国に比べると予算の低さが一つの障害になると考えられていた。だが、現場復帰を目指していたニールセン監督にとって、なでしこジャパンとの縁は願ってもない機会だったという。そういった強い思いも含めて、チャレンジしてくれたのではないだろうか。
ターゲットとなる大会は、まず2027年の女子ワールドカップ。最低でもベスト8以上、目指すは優勝だ。その結果を導くことができれば、2028年のロサンゼルス五輪も見えてくる。
「歴代の監督の皆様が積み上げてきたこと、作られてきた基盤の上に、さらに私が積み上げるチャンスをいただけたことは監督冥利に尽きます」
「日本が世界のトップに返り咲くことを目指します。それだけのタレントが揃っているので、可能だと思います。そのためにはハードワークが必要です」
宮本会長と佐々木則夫女子委員長の横で、ニールセン新監督は丁寧に言葉を紡いだ。通訳を介しても、その温厚そうな人柄と謙虚さが伝わってくる。目尻には優しい笑い皺が刻まれ、青みがかった瞳には、瞬間的に緊張感を生み出せる厳しさも同居しているように見えた。

【どんなサッカーを志向するのか?】
ニールセン氏は、デンマークで男子から女子代表監督まで様々なカテゴリーで指揮を執り、中国のU-20やスイスの女子代表チームも歴任。さまざまな年代、スタイルのチームを率いてきた。直近ではマンチェスター・シティで女子のテクニカルダイレクターを務め、代表の主軸でもある長谷川唯の契約更改にも携わった。
日本人女子選手のプレースタイルも熟知しており、これまでのチームについては、技術の高さやパスワーク、スピード感を生かしてきた点を評価している。
指導者としてのキャラクターについて、本人の言葉を借りれば、「ポジティブな人間」で、「一人一人とマメにコミュニケーションを取る」「率直に自分の意見を選手に伝える」タイプだという。文字通りであれば、日本に馴染むのは早そうだ。

個人的に気になるのは、「戦術的な幅やロジカルさ」という点で、歴代の代表監督とどのような違いを見せてくれるのか、という部分だ。
今の日本の課題について、ニールセン監督は「大事な瞬間に大事なものをつかみにいく強い心」「自分たちからイニシアチブを取りに行くこと」「そのために戦術的にも改善できる」とコメント。理想的な試合として、カウンターがはまった昨夏のワールドカップのスペイン戦(4-0で日本が勝利)を挙げている。
つまり、「ボールを保持する=イニシアチブを取る」と考えているわけではないようだ。プレーモデルや試合ごとの戦術をどのように落とし込んでいくのか、楽しみなポイントだ。
チームビルディングにおける信念は、「チームという集団の中で、スタッフも含めていい人間関係を構築すること」。
選手選考においては「若手でやりたい放題やる“クレイジーさ”を持った選手」からリーダーシップが取れる選手、技術や戦術に長けた選手など、幅広い視点で評価し、。ただし、辿ってきたキャリアや言葉の端々に散りばめられたニュアンスからも、「相手にボールを取られないように動かす」能力は、重視されるポイントになになると思う。
【初陣は2月のシービリーブスカップ】
早い段階である程度メンバーを絞り込むのか、あるいは幅広く、じっくりと選考に時間をかけるのか。ニールセン監督はヨーロッパを拠点としており、日本と往復しながらの生活になるため、国内組と海外組の視察のバランスをどのように取るのか、注視したい。
直近で予定されているのは、2月にアメリカで行われるシービリーブスカップ。アメリカ、オーストラリア、コロンビアと、各大陸の強豪国が集う4カ国対抗戦だ。
秋春制の日本とヨーロッパはシーズン中のため、指揮官は視察に飛び回ることになる。アメリカのNWSL(米女子プロサッカーリーグ)は現在はシーズンオフだが、選手の準備状況によっては、アメリカの選手も選ぶ可能性があるという。
準備期間は少なく、ほぼぶっつけ本番の大会となるが、新体制の初陣に向け、期待は高まるばかり。初陣のメンバーに名を連ねるのはどの選手たちか。国内組、海外組の動向からも目が離せない。
