「AI営業」vs「どぶ板営業」 生き残るための選択
■「AI営業」ってそんなにスゴイ?
営業もAIに置換されるのか? そして営業職はなくなっていくのか? あくまでも私見だが、半分ぐらいはAIのようなデジタル技術に置換されるが、もう半分は生き残ると考える。
そう思ったきっかけと、根拠を本日は書きたい。
日経新聞に「AI営業、産業銀行が変身」という記事が掲載された。
シンガポールのDBSグループ・ホールディングスの事例を引き合いに出し、「AI営業」の活躍ぶりを紹介している。
カラクリは簡単だ。ネットフリックスやスポティファイのように、顧客の過去履歴を分析し、先回りして営業提案する。DBSでは、顧客の行動パターンに合わせて自発的行動を後押しする通知(メールなど)を送信しており、その件数は毎月3000万通に達するという。
メールなどの通知は無機質で温かみがない。生身の人間に提案してほしいという顧客もいるだろう。しかし過去の取引履歴、日常の行動パターンまで考慮し、きめ細かく対応できる営業は少ない。
実際、記事には「一人の営業は100人程度しか担当できないが、データ分析チームは10人で50万人の顧客の取引を分析できる」と書かれてある。
日本の銀行では考えられない。
AIに営業させるどころか、デジタル人材の育成(リスキリング:学び直し)さえ進んでいない状況だ。
以前、銀行系のシンクタンクから講演依頼があった。コロナ対策を徹底するから、リアル会場で実施したいとのこと。そのこと自体は問題ないのだが、よくよく聞いてみると、
「オンラインの講演とかセミナーって、まだ怖くてやれないですよね」
と担当者が言うではないか。顧客ニーズに合わせてリアルにするのならともかく、「withコロナの時代」に入ってからもう2年以上が経つのに、オンラインにまだ慣れていないから怖くてできないという言い分には耳を疑った。
■「AI営業」VS「どぶ板営業」
かつて「どぶ板営業」という表現があった。銀行や証券会社でよく使われた営業スタイルだ。
多くの顧客の家を訪ねるのに、ひとつひとつドブ板を踏んでいくぐらいの地道な行動を指す。表通りに面した大きな家だけではなく、裏通りの小さな家も訪れるという意味も含まれ「どぶ板営業」と呼ばれた。
このスタイルは、金融業界以外でも広く採用された。「ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たる」という意味合いもあるが、汗をかいて何度も足しげく訪れる営業の姿に「誠実さ」や「マジメさ」を感じる人が多かったせいだろう。
しかし、時代は変わった。
HubSpot Japan(株)の「日本の営業に関する意識・実態調査2021」では、「買い手にとって誠意がある営業担当者とは?」の質問に対し、
「足を運び、対面で話してくれる」
と答えた人は「23.9%」で、12項目中の10位。コロナ前より急減していた。デジタル技術の進化と、オンライン文化の浸透により、必要な情報はメールで送ってほしいし、会話が必要ならオンラインでいいと考える顧客が増えたのだ。
しかし相変わらず営業は対面での訪問活動にこだわっている。
買い手の思考が変化しているのに、売り手が環境変化についていけていないのが日本の実態である。
■企業は変化にどう対応すべきか?
ただ、私は「どぶ板営業」がまったく不要とは思っていない。少なくなったものの、ちゃんと顔が見たい、膝をつき合わせて会話したい、という顧客もまだ存在するからだ。「テレビの時代は終わった」と言われるが、テレビ好きがゼロになったわけではないし、ラジオだってまだ健在だ。
大事なことは、人の価値観が多様化している、ということ。
本質はいつも変わらない。「相手の立場に立って考える」のが本質だ。
顧客の思考や行動パターンはドンドン変わっている。【A】から【B】に変わったというわけではなく、かつて【A】しかなかったものが、【A】も【B】も【C】も【D】も選べる時代になったということだ。
そう考えると、多くの顧客に対応しなければならない大企業は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、多様性へのきめ細かい対応が不可欠だ。人間の経験や勘では、対応しきれないからだ。
いっぽう中小企業はというと、顧客のセグメント化をよりいっそう進めるべきだ。ニーズのみならず、どのような思考、価値観の顧客に照準を合わせるか。そこをより明確にすることだ。「どんな顧客にも売りたい」という発想だと、DBSのような最先端のデジタル技術を活用する大企業に勝てない。
企業は単にデジタル化に尽力すればいいわけではない。戦略から見直し、どこにリソースを集中させるのかを考えるべきだ。そうしないと、これからは生き残っていけない。とくにグローバルで闘う企業はそうだ。