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コロナ疲れの不安やイライラを、ひとりで解決しようとしなくていい

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
市民の負担を減らすための、ノルウェーの取り組みとは(提供:アフロイメージマート)

新型コロナの影響で、自粛期間が続くノルウェー。第三の規模の街トロンハイムでは、市民のストレス解消になるようにと、特別な電話サービスが開設された。

怒っていますか?

フラストレーションがたまっていますか?

イライラしていますか?

不安ですか?

嫌な気分は、他の人にも伝染してしまいます。

今、世界中で起きていることは、私たちが今まで一度も体験したことがないことです。

だから、困ったと感じても、いいのです。怖がったり、怒ったり、とまどうことは、自然なことです。

自分ひとりで解決しようとせず、誰かと話したほうがいいこともあります。

市の専門家は、あなたと電話で話すことができると待っています。

ちょっとおしゃべりすることで、毎日の生活がちょっと楽になるかもしれません。それは、あなたにとっても、あなたの周囲の人にとっても、きっといい方向へとつながります。

出典:トロンハイム市のFacebook

取り組みは「怒りの電話」として、現地ニュースなどでも報じられた。

私はトロンハイム市にメールで取材をした。

「電話を開設したのは3月19日で、これまでに40人ほどが電話をしてきています。通話時間に制限はありませんが、平均は30分ほどです」

※市の人口は19万9千人。

市民は匿名を希望することができ、大抵は大人が電話してくるようだ。

「この特別な状況で、病気になる可能性や将来を怖がり、不安を感じている人が多くいます。感染を防ぐための決まりを、守ろうとしない人に憤りを感じている人もいます。自宅待機で孤立状態になったり、不安定な経済状況などに、いらだちを覚える人もいます」

「他の公共の関連サービスの回線も混んでいるため、不安を発散させたい人が、私たちに電話してきているようです」

※メンタルヘルス専門の電話相談窓口には、1日で897件もの電話が殺到(公共局NRK)

トロンハイム市では、電話で「怒りのコントロール、アンガーマネジメント」の方法を提供しているという。それはどのようなアドバイスなのだろう?

「人によって、アドバイスは異なります。通常は、私たちが質問をして、その人がどのような状況にいるのか振り返り、解決策を自分で見つけるように手助けします」

「自分達がすでにもっている資源に改めて気づくことも役立ちます。怒りや暴力的な気分が起きやすい状況を把握し、それを避けるためには何ができるか?」

「今気になっていることから意識を外す手助けもしています。他の人に怒りをぶつける前に、ぐるぐると考える時間から一旦休憩し、自分を落ち着かせましょうと」

「たっぷりと寝て、食事をして、体を動かし、自分を思いやることも、多くの問題を解決してくれます」

「敷居が低い相談窓口を設けることで、暴力が起きる可能性を抑制できればと思っています」と、市のアーンフィン・グルベッケンさんは答えた。

自宅で過ごす時間が増える中、家庭内暴力の増加、メンタルヘルスの悪化、子どもの相談窓口が減ることなどは、ノルウェーでも問題視されている。

今のような環境で、不安を感じるのは、当たり前。自分一人で解決しようとせずに、誰かと話す。周囲の人に怒りや不安をぶつける前に。

自粛期間が続く中、私も友人たちと電話で話す時間が明らかに増えている。今の時期は、メールやチャットだけのやり取りだけではなく、口で言葉にして交流することが、より必要とされているのかもしれない。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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