強豪ドイツに3-1の快勝で準決勝に進出!光ったヤングなでしこの臨機応変な対応力
【終始ペースを握っての勝利】
フランスで行われているU-20女子W杯で、U-20日本女子代表が2大会連続のベスト4進出を決めた。
準々決勝で、強豪ドイツに3-1の勝利。終始ペースを握る試合運びで、一時は3点をリードする強さを見せつけた。
過去8大会中3回の優勝を誇り、今大会も優勝候補の一角に挙げられていたドイツは、決勝Tに進出した8チーム中、グループステージ(GS)を唯一の3連勝で勝ち上がっていた。GS第3戦のハイチ戦では、主力9人を温存して勝利。コンディションに限って言えば、むしろ日本より分があった。だが、試合は日本ペースで進んだ。
池田太監督はこの試合で、GS第3戦のパラグアイ戦と同じスターティングメンバーを起用。GKスタンボー華、ディフェンスラインは左からDF北村菜々美、DF南萌華、DF高橋はな、DF宮川麻都。MF林穂之香とMF長野風花のダブルボランチに、サイドハーフは左がMF遠藤純、右がMF宮澤ひなた。2トップにFW植木理子とFW宝田沙織が並んだ。
「ボールを奪った後の(相手の)プレッシャーが速い中で、(味方同士の)距離感が良かったので、ダイレクトで縦に当てたり、タッチ数を少なくできたことが良かったです」(長野)
長野が試合後にそう振り返ったように、日本は全員が細かい動き直しを徹底。カウンターを狙うドイツにボールの奪いどころを与えず、4バックでじっくり回しながら、相手の守備網に隙が生じる瞬間を探った。前線では植木と宝田が虎視眈々と相手の背後を狙い、セットプレーではキッカーの長野が低くて速いボールとショートコーナーを使い分け、ワンチャンスを狙い続けた。
それは地道な作業にも映ったが、日本は一人として焦れる様子がなかった。
ドイツは平均身長が日本より8cmも高く、体も分厚い。それらの体格差によって生じるリーチやパワーの差は、ポジショニングとパススピードで凌駕した。パス回しが単調にならなかったのは、ボールを持った選手が近い味方だけでなく、逆サイドまで見ることができていたからだろう。サイドチェンジやロングボールを織り交ぜ、両サイドの宮澤と遠藤のドリブルもアクセントになっていた。
だが、前半は0-0で折り返す。流れの中からサイドを何度か崩し、31分と37分には決定的なチャンスを作ったが決められなかった。だが、選手たちの表情に不安要素は見当たらなかった。守備では相手のロングボールを最終ラインで跳ね返し、攻撃では前線への縦パスを積極的に通してチャンスを作った高橋は、こう考えていたという。
「ビルドアップでは焦れずに回してリズムを作っていこうと話していたので、焦ることはなかったです。前線の選手を信じていましたし、(このまま続ければ)絶対に点が入ると思っていました」(高橋)
後半の展開は、まさにその言葉通りになった。後半の45分間で、勝負の明暗は大きく分かれた。
最初に動いたのはドイツだ。トップ下のFWローラ・フライガングを一列上げ、4-3-3から4-4-2にシフトチェンジ。サイドがダメなら、シンプルに2トップでゴールを奪いに行くーーマレン・マイナート監督の狙いは明らかだった。だが、変化にはリスクも伴う。日本はドイツが晒したリスクを巧みについた。
1点目は59分。手薄になったドイツの左サイドを狙った宮澤のロングボールに走りこんだ遠藤のフィニッシュは、完璧だった。飛び込んできたソフィア・クラインヘルネをシュートフェイントで鮮やかに切り返してかわし、右足を一閃。綺麗なカーブを描いたシュートがネットを揺らす。利き足の左にこだわらず、右足でコースを狙う冷静さと技術が光った。
さらに、70分には宝田のパスを受けた植木が相手GKの股下を狙ったゴールでリードを2点差に広げる。その3分後には林が中央でタメを作り、左サイドをオーバーラップした北村に展開、クロスにゴール中央で宝田が合わせる完璧な崩しで3-0。
82分にドイツのスローインからMFヤニーナ・ミンゲに1点を返されるものの、そのまま試合は終了。ドイツ優勢の下馬評を多彩なアイデアと連係で覆した日本に、客席から口笛や拍手が送られたのは一度や二度ではない。試合後、オランダのユニフォームを着た、いかにも目の肥えた紳士が、「いいものを見せてもらった」とでも言いたそうな表情で目配せしてきた。
【ドイツを凌駕した日本の対応力】
「すごいですね、選手たちは本当に。いろいろなプレッシャーの中で戦って、しっかり結果を積み上げて成長していると思います」(池田監督)
勝利の余韻覚めやらぬ試合直後、池田監督はいつも通り、コーチングで枯らした声で選手たちを労った。
日本が勝利を手繰り寄せた決め手は、ピッチに立った選手たちが示した、変化への対応力だろう。ドイツの守り方によって、日本の選手たちはプレーの判断を柔軟に変えていた。それは、意図的にドイツの陣形を崩して決めた3つのゴールにも象徴されていた。
ドイツのマイナート監督は試合後、「日本はとても強いチームで、勝ったのも当然です。日本に対して組織的に守ろうとしたけれど、うまくできませんでした」
と語っている。
A代表で活躍するストライカーを育て、U-20ドイツ女子代表の監督としてW杯で2度のタイトルを獲得した彼女が、この試合で攻撃面の良さを出せなかったことではなく、守備の出来について言及したことは印象的だった。同監督が率いた2012年のドイツ(準優勝)は得点力のあるチームで、日本は0-3で完敗した苦い過去がある。今大会のドイツも、前線には力のあるタレントが揃っていた。だが、この試合では守備で日本の良さを消しきれず、攻撃でも自滅してしまった印象だ。
日本も、GS初戦のアメリカ戦では守備がうまくはまらず、この試合のドイツと似た状況に陥りかけた。しかし、危ない場面は体を投げ出して相手のシュートを防ぎ、最後は林のロングシュートという、ある意味「狙い通り」の一発で、優勝候補のアメリカを下した。試合の主導権を握ることはできなかったが、粘り強い守備で勝利の女神を振り向かせた。
変化への対応力は、言い換えれば「様々な状況に対応できる引き出しの多さ」=「即興力」とも言える。
W杯は4年に一度、各国がサッカーを披露し合う品評会の場に喩(たと)えられることがあるが、音楽に喩えてみても面白いかもしれない。
各国が自国産の個性的な楽器を持ち寄り、その場に合ったとっておきの一曲を即興で披露し合う。決まった演目や楽譜はなく、どんな音色が好まれるかは観客の反応によっても変わるし、楽器の組み合わせ方も重要だ。
弦楽器や木管楽器をバランス良く奏でる国があれば、様々な打楽器を使ってリズムを刻み、シンプルなメロディーで観客を虜にする国もあるだろう。ソロのパートを入れるのもありだし、トリオやカルテットを加えてもいい。一度しかない舞台で最高の演奏を披露するために、いろいろな状況を想定し、万全の準備をして臨む必要がある。
そこで問われるのは、環境の変化に柔軟に対応するアドリブの力だ。今大会で、日本は琴や笛など、繊細で個性的な和楽器を揃え、邦楽をジャズやブルースにもアレンジできるチームになりつつあるのではないかと思う。
厳しいGSを経て、日本の選手たちはそれだけの引き出しの多さを手に入れたのではないか。危なげない試合運びで勝利を収めたこの試合を見て、そんなイメージがふと頭をよぎった。
【勝てば初の決勝進出が確定】
日本のU-20女子W杯での最高成績は、2012年と2016年の3位。中2日で迎える20日のイングランド戦に勝てば銀メダル以上が決定する。負ければ、3位決定戦に回る。いずれにしても、この貴重な舞台であと2試合を戦えることが決まったのは大きい。
日本は、イングランドとは今年6月の遠征で対戦し、3-2で勝利している(試合は非公開だったが、その後、結果が公開された)。お互いに手の内は知り尽くしているはずだ。ドイツとの準々決勝同様に相手の出方を窺いながら駆け引きを楽しみ、結果もついてくれば最高だ。
新たなステージで、ヤングなでしこがどんな“即興”を見せてくれるのか、楽しみにしたい。
準決勝のイングランド戦は、8/20(月) 23:00(日本時間)キックオフ。フジテレビNEXTで生中継される。