音楽ストリーミングTIDALが再生回数を水増しか ノルウェー新聞社が報道、権利団体が警察通報へ
TIDALとDN紙とは?
音楽ストリーミングサービス「TIDAL」は、北欧ノルウェー発祥、オフィスは首都オスロにある。オーナーがジェイ・Zであることで有名だ。
ノルウェーで硬派なジャーナリズム報道に定評がある、右派産業紙DN(Dagens naeringsliv)。
DN紙の読者にはビジネスマンも多く、現地新聞社の中でも、購読料が他社のおよそ2倍と高め(月およそ8400円)。
ノルウェーでは、今でも政界でのMeToo報道が続いているが、その幕開けとなったスクープ報道をしたのもDN紙だった。
ノルウェーのメディアは、日本人からすると、ほとんどが左派寄りに感じるだろう。その中でも、DN紙は数少ない右派メディアだ。
簡単に説明すると、他社と比較して、右派産業紙DNや国営放送局NRKが報道した、長期取材に及ぶスクープは、スクープされた側にとっては大打撃となる。
DN紙は購読料を払う読者によって運営を支えられている。そのため、ネットでのクリック数を狙うようなタイトルや記事も少ない。スクープには、高い信頼性が伴うことが多い。
9日のDN紙のあらたなスクープは、音楽業界を騒がせている。
ビヨンセとカニエ・ウェストのストリーミング再生回数に疑惑
同紙によると、ビヨンセとカニエ・ウェストのストリーミング再生回数が、TIDALでは偽造されている。
ビヨンセの夫であるジェイ・Zは、TIDALを買収した現オーナーだ。音楽家であるカニエ・ウェストは、妻がキム・カーダシアンであることでも知られている。
水増しとみられる再生回数は3憶2000万回に及び、利用されたユーザーアカウント数は170万個以上。
データ偽造が目立つ2016年には、ビヨンセのアルバム『レモネード』、カニエ・ウェストのアルバム『The Life Of Pablo』がリリースされていた。
水増しデータの結果、2人のスーパースターは、他のアーティストに支払われるはずだったロイヤリティー収入を得ているというものだ。
ジェイ・Zは、SpotifyやAppleよりも多くのロイヤリティーをアーティストに支払うと約束していた。
DN紙は内部からデータを入手し、ノルウェー科学技術大学NTNUにデータの分析を依頼した。
データによると、リスナーらは、聞いていないはずの時間帯に、ビヨンセとカニエ・ウェストの音楽を聞いていたことになる。
該当のリスナーらにもDN紙は取材しており、彼らは「そんなに聞いていない」、「ビヨンセは好きだが、1日に11時間も聞いていない」と驚愕している。
レコード会社などは、以前から再生回数に何かがおかしいとは感じていたが、金のなる木でもあるTIDALをあえて批判することはできない雰囲気だったという。
左派新聞ダーグスアヴィーセンのジャーナリストも、自分のアカウントが水増し行為に利用されたひとりだ。
11日のコラムでは、「DN紙から自分のデータを見せられた時、『私は、夜中の2時や5時に、ビヨンセとカニエ・ウェストを聞いていない』と、答えるしかなかった」と記している。
この件は北欧他国やガーディアン紙などでも報じられている。
TIDALは否定
TIDAL側は、水増し行為を否定している。
「DN紙はデータを変えて、さらに嘘をデータに加えて、大学に提出した」というのがTIDALの主張だ。
同紙と科学技術大学NTNUを訴えると、TIDAL は弁護士を通じて争う姿勢をみせている。
現地での反応
DN紙の報道は、ノルウェーの大手メディアで一斉に伝えられた。
現地の音楽業界関係者からは、ノルウェーのアーティストたちへの業績評価や得られるはずだった利益が奪われていたとすると、「盗難であり、犯罪だ」というようなコメントを得た。
偽造が事実だとすれば、アーティストたちにどれだけの影響を及ぼしたのか、調査が進む動きがでている。
ノルウェーの作詞・作曲家の権利を守る団体TONOは、失われた利益分を返却するようにTIDALに求める方針。
関係団体らは、TIDAL側に、新聞社の記事が嘘だと言い張るのであれば、全てのデータを公開するようにと求めている。
TIDAL、警察に通報される
14日、TONOは、TIDALを警察に通報したことが明らかとなった。
Photo&Text: Asaki Abumi