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「どうする家康」最終回の古沢良太節へ思うこと 後半支えた作間龍斗、森崎ウィン、原菜乃華、松山ケンイチ

武井保之ライター, 編集者
NHK「どうする家康」公式サイトより

 NHKにとって若い世代に向けた挑戦だったであろう今年の大河ドラマ『どうする家康』が最終回を迎えた。従来の大河ドラマとは大きく異なる、登場人物の現代人的なメンタリティとそれに基づいて起こる史実の解釈への違和感から、早々に離脱した大河ドラマファンは多かったようだ。

 とくに前半の徳川家康の極端なキャラクター設定、瀬名の最期となった信康・築山殿事件の描き方に、鼻白む時代劇ファンは少なくなかったようだが、後半に入ってからは史実の描写よりも登場人物の人間ドラマにフィーチャーする脚本が映えていたように感じる。

 そのカギになったのが、豊臣秀頼(作間龍斗)と徳川秀忠(森崎ウィン)。お互いに偉大な戦国大名を父に持つが、その性格や言動は正反対の人物として対照的に描かれる。秀頼の物静かな立ち居振る舞いから圧倒的なオーラがにじみ出る存在感を作間が自然体で体現し、大きすぎる父の存在への劣等感から常に焦りをにじませる秀忠の弱さを森崎が好演した。

 加えて、秀忠の娘(家康の孫)であり、豊臣家に嫁いだ千姫の葛藤と決意を熱量高く演じた原菜乃華、海千山千の怪しい男だが家康の天下取りを長きに渡って側で支えた本多正信を怪演した松山ケンイチ。とくにこの4人が最終回前話までのドラマに見応えを与えてきた。

若い世代へ向けた取り組みがどう評価されるか

 そして最終回は、脚本家の古沢良太氏らしさが存分に表れたラストになった。ドラマの最後の戦として描かれる大坂夏の陣は、真田信繁が徳川家康の首を狙うための布陣や策略はほぼ描かれず、ふたりが合戦中に直接対面するシーンが差し込まれてあっという間に終わる。一方、年老いた家康の最期の回想シーンが、最終回のメインになるほどの尺となった。

 古沢良太氏は、映画『レジェンド&バタフライ』(2023年1月公開)では、濃姫との人間ドラマを主軸として織田信長の生涯を描いている。そこでは、本能寺の変での信長の最期のシーンには、従来の時代劇に新風を吹き込むような解釈を投じ、観客に驚きと感動を与えた。

 今回の『どうする家康』のラストシーンにも、それと通ずる古沢良太氏らしさがにじんでいる。これまでの大河ドラマの路線でいけば、家康が事切れたところで終わり、そのあとは視聴者の余韻に任せていただろう。しかし、古沢良太氏は十分な尺をとってしっかりと描いた。

 ただ、そこの古沢良太節が抑えられているとも感じられた。『レジェンド&バタフライ』ほど振り切れていない。やはりNHK大河ドラマという国民的な枠だからだろうか。古沢良太氏のファンからするとどっちつかずに思えたかもしれない。

 また、本作を振り返ると、家康が現代人的なメンタリティを強く持ち、ことさらに瀬名と平和への思いを口にするのは、現在の紛争が続く不穏な世界へのメッセージのように感じることもあった。しかし、大河ドラマに時代性に即したメッセージは必要だろうかとも思う。

 それも若い世代へ向けたドラマ作りの取り組みであれば、新たな試みとしてそれがこれからどう評価されるかだろう。『どうする家康』は賛否のある大河ドラマではあったが、新しいことに臨んだ意義のある作品であることは間違いない。この結果を精査し、これからに活かしてほしい。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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