「ジェネリック(後発薬)と薬不足」問題をどう解決するか。医薬品政策に詳しい坂巻弘之氏に聞いた
ジェネリック医薬品(後発薬)の製造や販売などを行う172社の自主点検結果報告では、製造販売承認書と異なる製造が4割を超える品目にあったことがわかった。一方、感染症の流行が長引き、薬不足が慢性化している。これらの問題について医薬品政策に詳しい坂巻弘之氏に話を聞いた。
中小が多いジェネリック医薬品の製薬会社
日本製薬団体連合会(日薬連)が厚生労働省の会議で報告したジェネリック医薬品(後発薬)を扱う製薬会社の製造実態の自主点検の結果で、8734品目の4割を超える3796品目で製造販売承認書と異なる製造があったことが明らかになった。品質や安全性には影響はないとのことだが、ジェネリック医薬品に対する信頼性が揺らいでいる。
一方、数年前から医療機関や薬局・薬店で一部の薬が不足する状態が続いている。日薬連による調査では、2024年10月末の時点で医療用医薬品の約10%で出荷調整(限定出荷)が行われ、7.8%が供給停止となっていることがわかった。この6割以上はジェネリック医薬品で、解熱剤、せき止め、痰を切る薬などが含まれている。
こうした問題について、医療経済学や医薬品政策が専門の坂巻弘之氏に話をうかがった。
──今回、明らかになったジェネリック医薬品ですが、製造している会社にはどんな問題があるのでしょうか。
坂巻「まず最初にジェネリック医薬品を製造している製薬業界について理解する必要があります。ジェネリック製薬会社の多くは、資本規模や供給力が小さく技術力も低く、設備投資に資金を多く投入できないといった特徴があります。ジェネリック医薬品は新薬と比べて原材料費の占める割合が高いため、不採算のお薬も多いといえます。その原材料も調達が供給国に依存しているために製造コスト面での不安定さもあります。一方で、ジェネリック医薬品の価格は、毎年引き下げられていて、中小のジェネリック医薬品の製薬会社の多くは、利益が出にくいお薬を増産するインセンティブが少なくなっている状況になっているのです」
──ジェネリック医薬品の製薬会社の規模の問題は、薬不足とも関係があるということでしょうか。
坂巻「規模の問題というより、技術力の問題といってもいいかもしれません。お薬不足問題の原因は複雑に絡み合っています。しかし、現在のお薬不足の中心となっているそもそもの原因は、製薬会社の不祥事です。具体的には、ジェネリック医薬品を中心に、製造販売手順書と異なる製造が行われ、品質不正がありました。品質不正があったお薬は出荷停止になり、同じ成分のお薬を作っている他の製薬会社に注文が殺到し、その結果、需要をまかないきれないというようなことが起きています。品質不正などの不祥事は2021年以降相次いで発覚していますが、現在まで改善がみられていません。不祥事が改善されないことについて、私もずっと指摘してきましたが、ようやく今年初めに厚生労働省も『膿を出し切れ』と日薬連に自主点検を求め、その結果が先日出た内容です。いずれにしても、品質不正の背景には、正しい手順で求められる品質の製品を作るための技術力の不足があったと考えられます」
中小製薬会社の低い技術力なども問題
──ジェネリック医薬品の製造販売承認書と異なる製造や品質不正などが影響し、薬不足が起きているということですね。
坂巻「そうです。造販売承認書にはお薬の製造手順書が含まれますが、需要が増えると新たな手順での製造が必要なこともあります。この場合、新たに手順書を作り直さなければなりません。また、従来の手順書で量を増やそうとすると規格(品質)が変化してしまうことがあって、そのまま従来手順で製造した製品を出荷すると品質不正になります。規模の大きくないジェネリック医薬品の製薬会社には、こうした手順書を作り直したり、増産するだけの技術力や体力がないため、品質不正したお薬はもう作るのをやめてしまったり、今製造しているお薬も増産できないという状態になっています」
──しかし、薬がないと困る患者も多いと思います。
坂巻「おっしゃる通り、お薬の手順書を書き換えている間は、供給が止まってしまうわけです。業界も品質軽視の傾向があったことは認めているように、ジェネリック医薬品の製薬会社の中には、患者さんが困るのなら多少は製造販売承認書と異なる製造でお薬を作ったとしても安全性に問題がなければ市場へ供給しようと考えたところもあったのだと思います」
誰も市場を正確に把握できていない
──市場のニーズに合わせて増産はできないものでしょうか。
坂巻「確かに大手企業を中心に増産しています。しかし、増産しても供給量には限界があり、1社に注文が殺到すれば、やはりお薬不足になってしまいます。日本の流通は、ある病院での患者数に応じた必要量を供給できるかどうか関係なく、契約だけしてしまう。その結果、多くの病院や薬局から1社の製品へ注文が殺到すれば、その会社の製品が不足に陥ることになります。メーカーや卸が病院や薬局と契約するときに、その会社はどのくらいの量を供給できるか確約して契約する形に変える必要があります」
──気温が下がってきて感染症の患者も増えています。
坂巻「感染症関連のお薬不足は2023年の夏頃から深刻化し、当時の厚生労働大臣が製薬会社約20社を集め、増産を指示したものの、実際に増産できているのは8社にとどまっているようです。感染症の患者さんが増えれば需要も増えますが、それをまかなえるだけの供給量がないという状態です。行政が製薬会社にお薬を増産させることは可能だと思いますが、大手の製薬会社に増産してもらおうとしても、ご多分に漏れず製薬会社も人手不足で難しい環境にあります」
──どうしたらこの問題を解決することができるのでしょうか。
坂巻「実は、お薬不足の問題では、いったいどのお薬が足りなくて何のお薬をどれだけ増産したらいいのか、正確に把握できていないという問題もあります。ジェネリック医薬品の供給不足は日本だけの問題ではなく世界共通の課題ですが、日本の場合、品質問題の他に薬価や流通制度との関係もあります。さらに、原材料が足りないのか、上流からのサプライチェーンに問題があるのか、残薬を含むお薬の使い方の問題はどうなのか、供給不足の実態を把握して、原因分析をしなければ問題の解決にはつながらないと思っています」
厚生労働省は製薬会社に対し、薬の安定供給をするための責任者を置くことを義務づける方向で動いている。しかし、坂巻氏が指摘するように、製薬会社や製薬業界の構造を変え、薬の需給状態の可視化などができなければ根本的な解決にはならないだろう。
坂巻弘之(さかまき・ひろゆき)
北海道大学薬学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科で修士(経営学)、慶應義塾大学大学院医学研究科で博士(医学)。一般社団氷人医薬政策企画P-Cubed代表理事、公立大学法人神奈川県保健福祉大学シニアフェロー。