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マクラーレン・ホンダが衝撃的なカラーリングで登場!オレンジと黒、白にイメチェンした理由は?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
発表になったマクラーレンの2017年用マシン「MCL32」(写真:ロイター/アフロ)

2月20日からF1の新車発表が相次いでいるが、日本のファンが期待を寄せる「マクラーレン・ホンダ」の新車「MCL32」が姿を現した。そのカラーリングはこれまでのイメージを大きく覆す、「オレンジ」と「黒」が中心で「白い」ラインの入ったなかなか奇抜なカラーリングだ。

2017年、伝統のオレンジが復活

3年目のシーズンとなる名門「マクラーレン」と日本の「ホンダ」のコラボレーション。何とも大きなイメージチェンジを施したニューマシンが登場した。

今季から大きく車両規定が変わり、全体的にサイズアップしたF1マシンだが、これまで発表になった「ウィリアムズ」「ザウバー」「メルセデス」「フェラーリ」など細部には多くの変化が見られるものの、やはり予想通り全体的なイメージとしては昨年までのものから遠くは離れていかないデザインになっている印象だった。それが「マクラーレン・ホンダ」に関してはカラースキームを一新したため、パッと見ではまるで別チームのマシンのような印象さえ受ける。

マクラーレンMCL32 【写真:McLaren】
マクラーレンMCL32 【写真:McLaren】

昨年まで割と地味な黒やガンメタリックのカラーリングを纏っていただけに、今季のカラーリングはなかなか衝撃的だ。なぜ「マクラーレン」がオレンジを選択したかはチームの歴史を紐解いていけばすぐに分かる。そう、オレンジこそ同チーム伝統のカラーリングなのだ。

「マクラーレン」の創始者、ブルース・マクラーレン(1937年〜70年)が自分のチームを立ち上げた初期に纏ったカラーリングがオレンジ(黄色に近い橙色)だった。この時代のF1はスポンサーのカラーリングではなく、各チームが国ごとに決められた母国のカラーリング(ナショナルカラー)を纏って出場するのが当たり前の時代。フェラーリはイタリアの赤、メルセデスは銀色。これらのナショナルカラーは現在もそのメーカーのイメージカラーとなっている。

1968年 マクラーレンM7A
1968年 マクラーレンM7A

では、ニュージランド出身のブルース・マクラーレンが立ち上げた「マクラーレン」が纏ったオレンジはニュージーランドのナショナルカラーなのか?というところだが、実はニュージーランドのナショナルカラーはグリーンとシルバーがベース。実際に1966年に「マクラーレン」として初出場した年のマシンは白地に緑という決められたナショナルカラーに近いものだった。

マクラーレンF1は当初ニュージーランドのナショナルカラーだった(1966年)
マクラーレンF1は当初ニュージーランドのナショナルカラーだった(1966年)

ブルース・マクラーレンが1970年に事故死して以降、テディ・メイヤーによって引き継がれたチームは徐々にスポンサーカラーを纏うようになる。代表的なのは1974年から全盛期となる90年代に至るまで使っていたマールボロの赤と白のカラーリングだが、マールボロがメインスポンサーに就く前、1970年代前半の「ヤードレイ・チーム・マクラーレン」の時代に「白・オレンジ・黒」のカラーリングを纏っていたことがある。

脱ロン・デニスの表れ?

今年「マクラーレン」は新体制になってから最初のシーズンを迎える。長年、「マクラーレン」の総帥として君臨してきたロン・デニスが昨年末の株主総会でマクラーレン・テクノロジー・グループのCEO職を辞任。事実上の失脚となり、45歳のアメリカ人ビジネスマン、ザック・ブラウンがエグゼクティブ・ディレクターに就任。スポーツカーメーカー、エレクトロニクス企業、そしてF1の名門チームである「マクラーレン」はお家騒動を経て、再スタートを切ることになった。

1998年のテスト時に登場したオレンジのカラーリング MP4-13
1998年のテスト時に登場したオレンジのカラーリング MP4-13

その再出発の表れは2017年の新車の名称にも見て取れる。「MCL32」という名前だ。同チームは長年、MP4という名前を車名につけてきた。これは1980年代に「マクラーレン」がロン・デニスのチーム「プロジェクト4」と合併し、デニスが実質的なチーム代表の座を掌握した際に「マクラーレン(M)」と「プロジェクト4(P4)」を合わせて作った車名である。MP4は2016年のマシンMP4-31まで残ったが、デニス失脚と共にその名は今季から消え去ったということだ。外国ならではのドライな世界である。

マクラーレンMCL32 【写真:McLaren】
マクラーレンMCL32 【写真:McLaren】

まさに脱ロン・デニス体制と言わんばかりの車名変更、カラーリングの原点回帰を経て再出発するマシン「MCL32」は今季のトレンドとなっているシャークフィン(エンジンカバーからリアウイングに伸びる垂直尾翼のようなパーツ)を装備する。横から見た印象はここ数年のマクラーレンのマシンと様々なトレンドを踏襲するものに見える。大胆な変化というよりはこれまた正常進化形と言えるものだ。

アロンソとバンドーン【写真:McLaren】
アロンソとバンドーン【写真:McLaren】

今季は3年目となるフェルナンド・アロンソと1年目のフルシーズンになるストフェル・バンドーンのベテランと若手のコンビ。アロンソはホンダのパワーユニットの進化を辛抱強く待ち、いよいよ勝負をかける年になる。期待は高まるが、今季は新体制の1年目。ホンダにとってもいよいよ言い訳のきかない大事な1年となるだけに万事うまくいくことを期待したい。

見慣れるまでに時間はかかりそうだが、伝統のカラースキームを纏った「マクラーレン」の再出発に注目だ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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