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光った柴崎岳、ハマらぬコウチーニョ。 2人の違いでバルサが大苦戦に

杉山茂樹スポーツライター
柴崎岳対コウチーニョ(バルセロナvs.ヘタフェ)(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 柴崎岳が所属するヘタフェ。リーグ戦第22節までで9位と健闘しているが、サッカーはけっしてモダンではない。どちらかと言えばロングボールが多く、後ろで守ろうとする、いわば専守防衛型。バルセロナにとっては本来、戦いにくいチームではないはずだ。

 弱者がいくら後ろを固めても、強者のアタック能力が増したため、守り切ることができなくなった――とは、攻撃的サッカーが世界の主流を占めることになった大きな理由のひとつだが、長きにわたりその流れをリードしてきたのが、ほかならぬバルサだった。

 スペインリーグ第23節。しかしバルサは、そのヘタフェに0-0で引き分けてしまう。しかもホーム、カンプノウで。偶発的な出来事だとは思えない。バルサは1週前の第22節エスパニョール戦(アウェー)でも引き分け(1-1)。さらに第21節のアラベス戦(ホーム)でも大苦戦を強いられている。決勝ゴールを奪ったのは84分。きわどい2-1の辛勝だった。

 それはフィリペ・コウチーニョの加入と密接な関係がある。そう言わざるを得ない。今年1月6日、リバプールから1億6000万ユーロ(約218億円)でバルサに移籍したブラジル代表選手。問題なのはその実力というより、ポジションの適性、収まりどころだ。どこで起用すべき選手なのか。

 コウチーニョはリバプール時代、4-3-「3」の「3」の左を中心に、4-「4」-2の「4」の左、あるいは4-2-3-1の3の真ん中(1トップ下)でプレーすることもあった。また、ブラジル代表では4-3-「3」の「3」の右でプレーすることが一番多い。

 よく言えば、どこでもできる選手。ともすると、監督にとって使い勝手のいい選手に見える。だが、けっしてユーティリティではない。収まりどころが難しい、どこに置いてもしっくりこない選手であることが、このリーグ戦3試合で明らかになった。

 バルサには外せない2人のFWがいる。リオネル・メッシとルイス・スアレスだ。そして、エルネスト・バルベルデ監督がシーズン当初から最も多く採用している布陣は4-4-2だ。したがって、コウチーニョがこの枠内でプレーする環境は、4-「4」-2の左右、いわゆるサイドハーフに限られる。

 実際、コウチーニョはこれまでのリーグ戦3試合、そのいずれかでプレーしているが、ポジションに相応しい役割を果たしたとは言い難い。いつの間にか真ん中周辺でプレーしているのだ。その結果、左サイドハーフ役を任されたはずだったヘタフェ戦では、左サイドはサイドバックのジョルディ・アルバがほぼ1人でカバーする事態になった。

 監督がバルベルデになり、基本布陣が4-3-3から中盤フラット型4-4-2に変化したバルサ。3FWというクラブの伝統は途絶えた格好になっている。3FWで戦う理由と重要性について、ヨハン・クライフから懇切丁寧に、延々とレクチャーを受けたライターにとって、これは大きな出来事に映る。

 今季、パリSGに移籍したネイマールは、バルサに加入した当初(2013~14シーズン)、スタメンフル出場を果たせなかった。ベンチからは、真ん中に入りたがる傾向があるそのポジショニングについて、厳しく注意されていた。ほぼ1シーズン、ネイマールはブラジル時代とのギャップに苦しむことになった。

 だがクラブもベンチも、その後任として加入したコウチーニョに、そうした縛りを掛けていない。4-4-2上で4-3-3的なバルサ的テイストを維持するためには、両サイドハーフが、ポジションワークに気を配る必要があるというのに、だ。

 真ん中に入りたがるコウチーニョのプレーを見て想起するのは、4-2-2-2を基本布陣に戦ったひと昔前のブラジル代表だ。中盤フラット型4-4-2に比べてプレスがかかりにくい布陣であり、両サイドを各1人でカバーする形になる両サイドバックの負担が大きくなりがちなサッカーだ。

 そのサッカーはなぜ消えていったか。バルサ的なサッカーが主流になったからだ。ブラジルはその結果、バルサ的サッカーに従うことになった。しかし、いまそのバルサが、かつてのブラジルになりつつある。本末転倒が起きている。その将来を案じずにはいられない。

 監督がバルベルデに変わった今季初めから、バルサは無敗を続けている。ヘタフェ戦の引き分けを含めれば国内リーグは23戦無敗。チャンピオンズリーグ(CL)でもグループリーグの6戦を4勝2分で首位通過。今季のバルサはともすると、かなり強いチームに見える。スペイン国内では、レアル・マドリードが早々に優勝争いから脱落しているだけに、なおさらそう見えるのだろう。現地から聞こえてくるのは、いい話ばかりだ。

 バルサらしさの喪失という、本来、成績以上に重要な問題も大きく取り沙汰されていない。よって、日本で語られることも少ない。だが、英国に拠点を置くブックメーカーはそうではない。そのCL優勝予想は厳しめだ。バルサには、マンチェスター・シティ、パリSG、バイエルンに次ぐ4番手という低評価が下されている。

 なにより、サッカーが美しくない。「美しいサッカー(娯楽的サッカー)と勝利をクルマの両輪のように追求する」バルサらしさはどこへやら。かといって、コウチーニョ加入後の3試合は、その対極に位置する「現実的なサッカー」でもない。穴の多いサッカーになり下がっている。マンCの方が、何倍もバルサらしく見える。

 一方でこの試合、ヘタフェ(中盤フラット型の4-4-2)の左サイドハーフで起用された柴崎は、コウチーニョとは対照的だった。優れたポジションワークで勝ち点1奪取に貢献。メンバー交代を機に2トップの一角とポジションを入れ替わるそのユーティリティ性は、チームにプラスの効果をもたらしていた。

 決定的に近いチャンスにも2~3度、絡んだ。そのうち1本でも得点に繋がっていれば、柴崎の名前はバルサの無敗記録を止めた選手という付加価値(前々回のクラブW杯決勝、鹿島アントラーズ対レアル・マドリード戦のような)がついて、世の中に広まっただろう。代表選考レースでも断然、優位な立場に立ったはずだ。惜しいことをした。

 バルサが国内リーグで次に対戦するのはエイバル(アウェー)。乾貴士にとってはチャンス到来だ。不敗記録を止めるスコアラーになれるか。その後にはCLチェルシー戦(アウェー)も控えている。このあたりで初黒星を喫する可能性はけっして低くないのである。

(集英社 Web Sportiva2月13日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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