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F1は70年で最大のピンチを乗り切った/2020年シーズンの10大ニュース(10位〜6位)

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
F1 70周年グランプリ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

12月13日に開催されたアブダビGPで「F1世界選手権」の2020年シーズンが閉幕した。

今季は新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、当初22戦で開催を予定していたスケジュールが大幅変更となり、全17戦の開催に縮小となった。

五大陸を転戦する自動車レースの最高峰シリーズはヨーロッパと中東を転戦する形式に変更。異例づくしのシーズンは無観客でのレース開催など苦渋の選択をしながら、何とか形になった。

折しも今年は1950年に「F1世界選手権」がスタートしてから70周年という節目の年であったのだが、そんなタイミングで起きたコロナショックはF1の拡大路線に急ブレーキをかけることになったと言える。

今回から2回に分けて、「2020年の10大ニュース」を取り上げながら、激動の2020年シーズンを振り返ろう。

10位:直前でオーストラリアGPが中止

2020年が始まると同時に世界中が危機感を示し始めた新型コロナウィルス。しかし、F1は開幕戦・オーストラリアGPの開催に向けて粛々と準備を進めていた。ところが、レースウィークになって「マクラーレン」のスタッフが体調不良によりPCR検査を受けたところ、新型コロナウィルスの陽性反応が出た。

F1は主催者やチームと協議し、オーストラリアGPの中止を決定。発表されたのはなんと金曜日のフリー走行開始の2時間前。サーキットの外では観客が入場を待っているタイミングでの中止決定はあまりに直前すぎた。

F1オーストラリアGPの中止を発表する主催者とF1首脳陣。マスク無しで取材するメディアの姿が象徴的だ。
F1オーストラリアGPの中止を発表する主催者とF1首脳陣。マスク無しで取材するメディアの姿が象徴的だ。写真:ロイター/アフロ

このドタバタ劇はコロナ前のF1を象徴する出来事だったといえよう。3月になって世界中のあらゆるスポーツイベントが中止を決定する中、F1はオーストラリアGPを強行開催する構えだった。現地では中止を促す抗議活動が空から行われたりしていたにも関わらずである。

F1では余程の悪天候や災害に見舞われない限り、決まった時間に世界中に向けたテレビ中継が行われる。いわゆる放映権ビジネスであると同時に、世界中の都市やサーキットが誘致合戦を行う開催権ビジネスも重要な収入源である。それだけに中止という決断は難しかったのは確かだが、その後F1はテレビの放映権料収入を確保するために1カ国1開催の原則に捉われない新スケジュールで7月から開幕することになった。

9位:フェルスタッペンが70周年GPで優勝

新型コロナのニュースが世の中を支配し、コロナ前の記憶が薄れつつあるが、2020年シーズンは王者メルセデスレッドブル・ホンダの一騎打ちとなり、昨年以上にその差が縮まると予想されていた。

昨年のオーストリアGPでホンダが2006年以来14年ぶりの優勝を飾ってからは、日本国内でも元F1ファンらも注目するようになり、レッドブル・ホンダの動向は久しぶりに世間的な関心を集めていたと言えるのではないか。

しかし、7月に昨年勝利したオーストリアGPでシーズンの幕が開くと、メルセデスの速さが変わらず際立っていることが徐々に明らかになっていく。

第4戦・イギリスGPまでバルテリ・ボッタスが1勝、ルイス・ハミルトンが3勝。メルセデスの2人が開幕から4戦連続のポールトゥウインを飾ったという事実は日本のファンに現実の厳しさを突きつけたが、歓喜の瞬間は意外なタイミングで待っていた。

歓喜のチェッカーを受けるマックス・フェルスタッペン
歓喜のチェッカーを受けるマックス・フェルスタッペン写真:代表撮影/ロイター/アフロ

第4戦・イギリスGPと同じシルバーストーンサーキットで開催された第5戦・70周年GPで、ハードタイヤでスタートしたマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)の作戦が見事に的中し、メルセデスの2人を従えて今季初優勝。2週連続同一サーキットでの開催ながら、70周年GPではコンパウンドが違うタイヤが使用されており、メルセデスはペースアップできず、フェルスタッペンが2位のハミルトンに対して11秒以上の差をつけて優勝。今後への期待感を大いに掻き立てられる優勝だったと言える。

しかしながら、レッドブル・ホンダとしては今季12戦で表彰台に立ったものの、優勝は最終戦・アブダビGPまで無く、年間2勝(昨年は3勝)でシーズンを終えることになった。

喜ぶフェルスタッペンとチームクルー
喜ぶフェルスタッペンとチームクルー写真:代表撮影/ロイター/アフロ

8位:フェラーリ、1000レース目を迎えるもムジェロは大荒れ

2020年はF1が70周年であると共に、1950年の初年度から参戦するフェラーリにとっても70周年の節目だった。それに加えて、フェラーリはF1参戦1000レース目を迎える年になり、今季のマシンはそれにちなんで「SF1000」と命名された。

フェラーリSF1000(トスカーナGP)
フェラーリSF1000(トスカーナGP)写真:代表撮影/ロイター/アフロ

フェラーリにとってもシャルル・ルクレールが在籍2年目となり、実質的なエースとして高いポテンシャルを発揮する期待が大きかった。しかし、蓋を開けてみると、「SF1000」は厳しいポテンシャルで、好調だった昨年の予選タイムを上回れない状況が続く、そんな中、フェラーリは自社所有のサーキット、ムジェロサーキット(トスカーナGP)で1000レース目の節目を迎えた。

ムジェロでのトスカーナGP
ムジェロでのトスカーナGP写真:代表撮影/ロイター/アフロ

今年はコロナ禍の影響で、ムジェロアルガルヴェ(ポルトガルGP)など通常はF1が開催されないサーキットでグランプリが開催された。混乱したシーズンならではの特別感とレース予測が難しいワクワク感があったと言えるだろう。

しかしながら、MotoGPも開催するが、4輪にとっては超高速コースとなるムジェロでのレース、第9戦・トスカーナGPは大荒れに。オープニングラップから多重クラッシュが発生し、さらにセーフティカー導入後もリスタートでまた多重クラッシュが起こり、完走できたマシンは12台という近年にしては完走率が低いレースになった。

ちなみにフェラーリはシャルル・ルクレールが何とか8位、セバスチャン・ベッテルが10位と何とかポイントを獲得している。

7位:アロンソ復帰発表。ベッテル、ライコネンも現役続行

7月の開幕戦・オーストリアGPの直後にフェルナンド・アロンソのF1復帰が発表された。来年40歳になるアロンソはルノー(来季からアルピーヌ)のドライバーとしてエステバン・オコンのチームメイトになり、F1は2年のブランクを経ての復帰だ。

フェルナンド・アロンソ(2006年)
フェルナンド・アロンソ(2006年)写真:アフロ

アロンソは2018年に一旦F1での活動を終了したものの、いつかはF1に戻ってくるだろうと誰もが思っていたため別段驚きはないが、本当ならトヨタと共に2連覇したル・マン24時間レース総合優勝に加えて、インディ500での優勝も果たし、F1モナコGPと合わせたトリプルクラウン(三冠)を達成して復帰するはずだっただろう。

しかし、インディ500では2019年がまさかの予選落ち。2020年のインディ500ではほとんどテレビ中継に映らない順位を走るという試練を味わった。古巣のルノー(アルピーヌ)での復帰はアロンソにとっておそらくF1でのキャリアの締めくくりとなるだろう。

インディ500にも挑戦したアロンソ
インディ500にも挑戦したアロンソ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

2021年はアロンソの復帰に加えて、キミ・ライコネン(アルファロメオ)が残留、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)はアストンマーチン(今季までレーシングポイント)に移籍する。これでルイス・ハミルトンと合わせて4人のワールドチャンピオン経験者が戦うことになる。

コロナ禍で通常通りの有観客で開催できたグランプリが一つもなかった2020年。ワクチンが流通する2021年は有観客での開催を見込んでいるが、上記の4人のワールドチャンピオンは興行面では欠かせない存在。彼らが引退するまでにF1としては次のスターを育てたいところだろう。

キミ・ライコネン(中央)
キミ・ライコネン(中央)写真:ロイター/アフロ

6位:ガスリー、ペレスが大金星の優勝

新型コロナウィルス感染拡大で混迷を極めた世界。スタジアムで観戦が難しい無観客でのスポーツイベント開催。F1をはじめとする興行型スポーツにとって厳しい1年になった2020年だった。

しかし、究極の領域で選手たちが戦う最高峰のスポーツでは、人々の心を大きく動かす感動的なシーンにめぐり合うことがある。その一つがスポーツ界の下克上、ジャイアントキリングだ。

イタリアGPで優勝したガスリー
イタリアGPで優勝したガスリー写真:代表撮影/ロイター/アフロ

今年、最も多くのF1ファンを感動へと導いたのは、やはりピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)のイタリアGP優勝だろう。シャルル・ルクレールのクラッシュにより赤旗中断もあり、大荒れの展開となったレースでミディアムタイヤを履いたガスリーが好走、そのまま逃げ切って優勝した。

アルファタウリの前身であるトロロッソ時代にセバスチャン・ベッテルが優勝して以来12年ぶりの優勝。そのさらに前身はイタリアの愛すべきプライベートチームのミナルディであり、小規模体制チームの優勝はメルセデス圧勝のシーズンにおいて素晴らしい大金星だった。

そして、ピエール・ガスリーは2019年にレッドブル・ホンダから参戦しながらも成績不振でシーズン途中にトロロッソ・ホンダに降格させられた身。昨年のブラジルGPの2位に続く、自身の速さを示す会心の一撃は多くのファンを感動へと導いた。特に日本ではスーパーフォーミュラで走っていた時代から多くのファンを獲得しているだけに、まるで身内のように喜んだ勝利だった。

メキシコ人としては50年ぶりの優勝を飾ったペレス
メキシコ人としては50年ぶりの優勝を飾ったペレス写真:代表撮影/ロイター/アフロ

そして、セルジオ・ペレス(レーシングポイント)のサヒールGPでの優勝も感動的な大金星だった。ペレスはスタート直後の接触で最後尾に落ちたものの、そこから追い上げ。3番手走行中にメルセデスの2台がピットインするも、タイヤのミスがあって後退。ラッキーな部分はあったものの、ドラマティックなレースでの優勝だった。

ペレスは今季、新型コロナウィルスの感染が発覚し、第4戦と第5戦の2レースを欠場。しかしながら、出場したレースのほとんどでポイントを獲得する活躍で年間ランキング4位を得た(これまでの自己最高は7位)。決して派手さはないが、チェコの愛称で親しまれ、今やF1に欠かせない存在であるペレスにとって、F1デビュー190戦目での勝利だった。

そんな今年の頑張った人、ガスリーとペレスだが、ガスリーはレッドブルへの昇格はなくアルファタウリ・ホンダの残留が発表。そして、ペレスはこれだけの好成績を残しながらもチーム離脱が決定し、来季の行く先はまだ決まっていない。

F1は速いだけでは生きていけない厳しい世界かもしれない。しかし、F1がこれからも、頑張った人がちゃんと報われる世界であって欲しい、と思った2020年だった。

次回の記事では2020年シーズンの10大ニュース(5位〜1位)を紹介します。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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