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ブーイングが止まなかったWBAミドル級タイトルマッチ

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Rey Del Rio/Premier Boxing Champions

 現地時間9月14日に行われた、WBA/WBC/IBFスーパーミドル級タイトルマッチ、サウル・"カネロ"・アルバレスvs.エドガー・ベルランガ戦は、メキシカンファンを中心に大きな盛り上がりを見せた。

 だが、WBAミドル級タイトルを懸けたセミファイナルは、第2ラウンドの終盤から試合終了までブーイングが止まなかった。T-Mobile Arenaを埋め尽くした20,312名のファンからは、「早く終われ!」「もう見たくない!!」なる野次が飛んでいた。

Rey Del Rio/Premier Boxing Champions
Rey Del Rio/Premier Boxing Champions

 確かに41歳のキューバ人チャンピオン、エリスランディ・ララと、36歳の挑戦者、ダニー・“スウィフト”・ガルシアはパンチの交換が極端に少ないままラウンドを重ねた。敢えて述べるならマスボクシングのような一戦だった。

 両者は共に2階級を制しているが、ララがスーパーウエルター、ミドルのベルトを巻いているのに対し、挑戦者はスーパーライトとウエルターでタイトルを獲得した元王者である。体躯もパンチ力にも差があった。加えてガルシアは、2年2カ月ものブランク後の試合であった。

 しかしながらララの試合運びも慎重過ぎた。何もできないガルシアの、一体何を警戒していたのか。

Rey Del Rio/Premier Boxing Champions
Rey Del Rio/Premier Boxing Champions

 決め手のないままダラダラとラウンドが進む中、大枚をはたいた観客たちは、フラストレーションを溜めていく。彼らが目にしたいのは、あくまでもメインイベントだが、前座にもそれなりの歯応えを求めるのが消費者だ。

 第9ラウンド終了直前にララの左ストレートを浴び、力無く膝をついてTKO負けを告げられたガルシアは、ハッキリと限界を示していた。

Rey Del Rio/Premier Boxing Champions
Rey Del Rio/Premier Boxing Champions

 試合後、ララは語った。

 「私の攻撃でガルシアはダメージを負っていた。フィニッシュとなったあの一発は、ビッグショットだった。

 自分は美しいボクシングをした。まさに、ピカソのような芸術作品さ。私はダニーが持っているすべてを打ち消した。彼は私と同じように、将来殿堂入りするであろう偉大なファイターだ。だから今回、サイドの動きを多用した。キューバで基礎を習った頃のように、『ジャブを打ってビッグショットを決める』スタイルで戦ったんだ」

 この発言を信じるファンがどこにいるのか。また、試合内容に納得した者が何人いるか。 

Rey Del Rio/Premier Boxing Champions
Rey Del Rio/Premier Boxing Champions

 敗者も言った。

 「私の体は大丈夫です。ブランク明けに、素晴らしいパフォーマンスを見せようと努力しましたが、自分の夜とはなりませんでした。言い訳はしません。自分のリズムを掴めなかったですね。ララのジャブは強く、うまく距離を保っていました」

写真:中島敏
写真:中島敏

 9月2日から5日間、ララが師事するイスマエル・サラスの下でトレーニングした横山葵海(あおい)は話す。

 「ララは間合いや距離感が非常に優れていましたね。相手の警戒が緩んだ瞬間を狙ってパンチを当てる技術があるため、ガルシアからすると非常にやりづらい選手だと感じました。特に、ディフェンス面が堅実で、相手の攻撃を封じ込める能力が高かったですね。

 挑戦者がやりにくそうに見えたのは、ララのスタイルがガルシアの戦術に対して効果的だったからです。試合放棄と捉えられるほど、精神的なプレッシャーやララの術中にハマってしまったのでしょう。

写真:中島敏  横山(右)のスパーを見守るララ(中央)
写真:中島敏  横山(右)のスパーを見守るララ(中央)

 直接知り合ったチャンピオンが、あれだけの大舞台で輝く姿を見ることは、非常に刺激的で、自分自身のモチベーションにもなりました」

 拓殖大学3年次に全日本王者となり、2024年3月に同校を卒業した横山は、7月7日に2ラウンドKOでデビュー戦を飾った。近くプロ2戦目のリングに上がる。横山は、サラス、ララの助言をいかに生かすか。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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