「お先真っ暗」北朝鮮国民の大部分が収入を失う危機
北朝鮮の人々は、市場の営業時間の延長や短縮に、非常に敏感に反応する。営業時間が長くなればその分儲けが増え、短くなれば儲けが減るからだ。
市場の営業時間は最も長かった時代で、午前9時から午後9時までだったが、当局は様々な理由を付けて時間を短縮する。コロナ禍では1日2時間に短縮されたが、商人の猛反発を食らって再び延長された。
平安北道(ピョンアンブクト)人民委員会は、各市・郡の人民委員会(市役所)の商業課に、市場の営業時間を短縮する方針を伝えた。水害復旧作業に参加する人が減って、支障が出るからとの理由からだ。これが反発を招いているが、反発を越えて不安心理が広がっている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
成川(ソンチョン)の市場の先月の営業時間は午後5時から午後8時までの3時間だったが、今月1日からは午後4時から午後8時半までに延長する代わりに、毎週金曜日は休業にするとの通告が市場の入口に貼り出された。
先月よりは長くなったものの、依然として短く、商人は口々に不満を述べている。特に槍玉に上がったのは金曜日の休業だ。先月までは他の日より短くとも営業ができていたが、これができなくなった。
市場の営業時間が長期にわたって元に戻らないことから、生活に支障をきたしている商人も少なくなく、今後「夜だけ営業」で固定化するのではないかという懸念と不安心理が急速に広がっている。
国営企業や機関では今年に入って大幅な賃上げが行われたものの、依然として生活するには充分な額とは言えず、勤め先を持っていない女性が市場に出て商売をし、一家の生活を支えてきた。
しかし、営業時間の短縮だけではなく、販売可能な品目の大幅な減少など市場に対する締めつけが厳しくなり、「これでは生活が成り立たない」と窮状を訴える人が急増した。
「今回の水害で多くの人がすべてを失い、再スタートを切ろうというのに、市場に出て毎日熱心に商売をしても糊口をしのぐのがやっとだ。営業時間が短いままではお先真っ暗だ」(情報筋)
一方で、国営商店は盛業中だ。新義州(シニジュ)、塩州(ヨムジュ)、龍川(リョンチョン)などで国営商店は終日営業しており、商品も豊富だ。市場は営業時間を減らされたままであるのに、国営商店は盛んに営業しているのを見て、「国営商店が市場に成り代わるのではないか」と心配する声が上がっている。
まさに、これが北朝鮮当局の狙いだ。2000年代以降、市場はカネと最新トレンドが集まる街の中心、経済の中心だったが、当局はそれを効果的にコントロールできなかった。それが、市場の商人たちを中心に韓流などの海外文化が蔓延する結果も生んだ。
だが当局は最近になって、穀物や電化製品、加工食品など多くの品目の市場での売買を禁じ、国営商店での販売のみを認めるようになっている。当局は市場を、余剰農産物だけを扱い、あくまでも「オマケ」に過ぎなかった1980年代以前の状況に戻そうとしているものと思われる。
(参考記事:「見てはいけない」ボロボロにされた女子大生に北朝鮮国民も衝撃)
しかし、国民の多くが現金収入を得ていたのは市場であり、勤め先の機関や国営企業ではない。市場で収入が得られないとなれば、単にモノが売れなくなるだけだ。そればかりか必要最低限の食べ物すら充分に確保できなくなり、人々は飢えに苦しんでいる。
国が経済のすべてをコントロールし、活気が失われた社会となるのか、無秩序でありながらも、活気に満ち溢れた社会に戻るのか。北朝鮮経済は重大な岐路に立っている。