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弾道ミサイル防衛システムの同時可能対処数は?

JSF軍事/生き物ライター
米ミサイル防衛局よりFTM-13「ステラーグリフォン」実験、複数目標同時撃破

ミサイル防衛システムは同時対処可能な数以上の敵ミサイルを一度に処理しきれないので、同時飽和攻撃を仕掛けられると弱いという問題点があります。そこでアメリカ軍の開発した弾道ミサイル防衛システムの同時対処可能な数はどれくらいなのか、軍事機密として正確な数値は非公表ですが、似たような装備の例を参考にしつつ推測することは出来ます。最初に結論を言うと、迎撃システム一つあたり十数目標に同時対処可能、数セットあれば数十目標に同時対処が可能であると推定します。

SM-3とTHAADは同時2目標迎撃実験を成功済みだが、これは上限数ではない

米ミサイル防衛局よりFTM-13実験
米ミサイル防衛局よりFTM-13実験

弾道ミサイル防衛システムのSM-3は2007年11月6日のFTM-13「ステラーグリフォン」実験で弾道ミサイル標的の同時2目標迎撃を成功、THAADは2011年10月5日のFTT-12実験で同様の実験を成功させています。

そしてこの2発という数字は上限を意味しません。もっと多くの目標を同時撃破可能ですが、複数目標対処能力を確認する為には2発で十分なのでこれで止めているだけなのです。最大迎撃可能数は軍事機密とされ公表されていません。

イスラエルのアロー2弾道ミサイル防衛システムは同時14目標に対処可能

イスラエルの弾道ミサイル防衛システム「アロー2」に付いては、同時14個の敵目標を追跡し対処することができるとされています。

Arrow 2’s command and control system is capable of tracking and responding to 14 targets at a time and it is able to detect and track missiles from 500km away with an intercept range of around 10km.

出典:Arrow 2 (Israel) | CSIS(戦略国際問題研究所)

また同じイスラエルのロケット弾迎撃システム「アイアンドーム」は、実戦で短時間のうちに次々と飛来するロケット弾の迎撃を成功させ、動画に収められています。

ロケット弾迎撃システム「アイアンドーム」による12発同時迎撃(2012年11月16日の筆者ブログ記事)

アロー2弾道ミサイル防衛システムが用いるEL/M-2080S「スーパーグリーンパイン」レーダーは、アメリカ軍のTHAADシステムが用いるAN/TPY-2レーダーと形状や大きさがよく似ており、おそらく電源の出力も似たようなもので、レーダーアンテナの素子なども同じ時期の技術を用いているので、近い性能を発揮するものと推定できます。アロー2が同時14目標に対処できるなら、THAADも同等かそれ以上の性能を持っている可能性は高いと言えるでしょう。

イージス艦が用いるSM-3迎撃ミサイルに付いても同じように推定ですが十数目標の同時迎撃が可能である事が言えると思われます。しかしSM-3は高価なミサイルの為、日本の海上自衛隊ではイージス艦1隻当たり8発しか装備されていません。そしてPAC-3はそもそも迎撃可能範囲が狭いので、守備範囲の付近に敵ミサイルが落ちてこない限りは対応できません。

北朝鮮ノドン弾道ミサイルのランチャー数は50基以下(2013年5月5日) - Y!ニュース

数年前の資料と少し古いですが、北朝鮮が日本向けに用意しているノドン弾道ミサイルのランチャー数は50基と推定されています。スカッドERも入れると、日本まで届く弾道ミサイルのランチャー数は最も多い想定で150基近くある可能性があります。ただしスカッドのランチャーは多くが韓国への攻撃にも用いる必要があるので、スカッド用ランチャー100基すべてが日本に使用されることは無いでしょう。それでも現状の日本の自衛隊だけでは対処の限界を超える可能性があるので、もしも北朝鮮有事が発生した場合には、在日米軍のイージス艦の迎撃協力、そしてハワイや米本土からのイージス艦の増援、THAADの空輸緊急配備などが求められます。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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