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黒田投手の引退表明に寄せて…

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
2016年も黒田投手の自主トレ取材で幕を開けた

10月18日、ロサンゼルスの自宅で目を覚まし、いつものようにベッドに寝転びながらスマホでニュースのチェックをした途端、真っ先に飛び込んできたのが黒田投手の引退表明だった。

(やっぱりそうなるか…)

驚きはまったくなかった。すぐに動画サイトで会見の模様もチェックしたが、晴れ晴れとした表情を浮かべながら質問に答える黒田投手の姿も、まさに自分の想像通りだった。チームは25年ぶりにリーグ優勝を果たし、黒田投手の中に現役選手としての未練、心残りは何一つ残っていないのだから当然だ。これ以上完ぺきな引き際は考えにくいほど、見事すぎる花道だった。

ここ5年、自分の本格的な仕事始めは黒田投手の自主トレ取材だった。ヤンキース時代は1対1で、広島に復帰してからは合同取材というかたちでオフの再契約に至った経過や心境の推移について、いろいろ話を聞かせてもらってきた。

黒田投手はこれまで長年日本人メジャー選手を取材する中でも、かなり希有な存在だった。最近の選手たちはアスリートとして年間を通してほとんど休まずトレーニングを欠かさないのが一般的だが、黒田投手はシーズンの苦闘から解放されるように、シーズンが終了するとすぐに心身ともに野球を一切謝絶してしまうタイプだった。

理由はそうしないと心身ともにリセットできないからだと打ち明けてくれた。その上で自分と改めて向き合いながら今後のことを決めていくというが、ここ数年の繰り返しだった。ヤンキースに移籍後はずっと単年契約に固執したのもそのためだったし、ここ数年は常に引退と背中合わせの現役生活だった。

それではなぜここまで心が折れずに現役を続けてこられたのか?昨年の場合なら最後のマウンドは広島のファンの前で立ちたいという心残りであり、今年ならば前田投手が抜けた投手陣を見放してチームを去ってはいけないという責任感だったと思う。

あくまで憶測だが、今年優勝できていなかったとしても、黒田投手は引退を決意していたという思いが強い。ただその引退会見は今回のように清々しいものではなく、自分の責任を果たせずに涙をみせていたことだろう。

日本シリーズ前の引退表明は、結果的にチームに新たなモチベーションを与えることになった。戦術的にも素晴らしいタイミングになった。だが黒田投手としては、シリーズ終了後に「あれが最後の登板でした」と事後報告するのではなく、チームメイト、ファンにすべてを認識してもらった上で最後の登板を見届けて欲しかったという純粋な気持ちからだったはずだ。

そんな黒田投手の思いをしっかり受け取りながら、広島ファンのみならず日本中の野球ファンが黒田投手の最後のマウンド姿を目に焼き付けて欲しい。

お疲れ様でした…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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