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もしFA取得が前後逆だったら?ソトの大型契約で殿堂入りOBが「10億ドル」と考える大谷翔平の価値

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ソト選手の大型契約によりその価値が再評価されている大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【まだまだ高騰するかもしれないソト選手の大型契約】

 今更説明するまでもないと思うが、今オフ最大のFA選手だったフアン・ソト選手がメッツと正式に合意し、すでに入団会見も行われている。

 契約内容は15年総額7億6500万ドルに上り、昨オフ大谷翔平選手がドジャースと合意した10年総額7億ドルを大幅に上回ってため、日本でも「大谷超え」と大々的に報じられた。

 ただこの額はあくまで暫定であることをご存じの方は、どれだけおられるだろうか。

 MLB公式サイトが報じているところでは、今回の契約には別途7500万ドルの契約金が支払われる他、2029年シーズン終了後にソト選手にオプトアウト(契約解除)権が付与されている一方で、メッツは残り10年間に平均年俸額を5100万ドルから5500万ドルに引き上げることで、オプトアウト権を破棄できる条項も加えられているという。

 つまりメッツが2029年オフにオプトアウト権破棄を選択することになると、ソト選手の契約内容は15年総額8億500万ドルまで跳ね上がる可能性があるわけだ。

【あくまで市場原理の中で生まれた大型契約】

 この契約内容が明らかになって以降、米国では今尚様々な意見が飛び交っている。球界OBの中には「高過ぎだ」と疑問を呈する意見が飛び出しているものの、全体的にはソト選手獲得に成功したメッツを労うとともに、大型契約については「ソトのみならず野球界にとって朗報」という捉え方をする人が多いように感じる。

 自分も大方の意見に賛同的立場だ。MLBのFA市場も需要と供給のバランスで成り立っている。ソト選手を獲得したいと考える複数のチームが存在し、その中に球界最強の巨万の富を有するスティーブ・コーヘン・オーナーのメッツが入っていた。

 そんなコーヘン・オーナーの是が非でもソト選手と契約したいという強い意思があったからこそ、今回の大型契約が誕生したのだ。あくまで市場原理に基づいている。

【平均年俸額で上回ってもAAVで大幅に下回る大谷選手】

 また今回のソト選手の大型契約は、何かにつけ昨オフの大谷選手と比較されがちだ。

 契約年数に関しては、FAになった年齢が大谷選手29歳に対して、ソト選手が26歳。必然的にソト選手の契約年数が長くなってしまうのは仕方がないことだ(また大谷選手の契約最終年は38歳に対しソト選手は40歳と、ソト選手が上回っている)。

 ただ二刀流の大谷選手と野手のソト選手の選手としての価値を比較すれば、もちろん大谷選手の方が上だと誰もが考えている。その辺りが反映されているのが平均年俸額だろう。大谷選手が7000万ドルに対し、ソト選手は5100万ドル(あくまで現時点)と大きな差が開いている。

 だが米メディアはそうした単純比較をせず、ぜいたく税の対象となるAAV(「Annual Average Value」の略)で比較しようとする傾向が強い。

 大谷選手の場合、総額7億ドルのうち6億8000万ドルが契約期間終了後に後払いされることはあまりに有名だ。この支払いは無利子になっているため、10年後の市場価値(物価上昇率や経済成長率等で試算)では、実質6億8000万ドルよりも価値が少なくなってしまう。

 それらを踏まえて計算すると、大谷選手のAAVは約4600万ドルまで下がってしまう。一方ソト選手の契約には一切の後払いが含まれていないため、AAVは5100万ドルのままだ。

 そうした状況も踏まえて、米メディアはソト選手の大型契約に驚嘆しているのだ。

【市場価値比較ではA・ロッド選手の契約の方が上だった?】

 ただ今回のソト選手の大型契約について、面白い視点から論じているメディアが存在している。「the Score」のトラビス・サウチック記者は、過去の大型契約を現在の市場価値で試算し直して比較検討を行っているのだ。

 彼の記事によると、2000年オフに25歳だったアレックス・ロドリゲス選手がFAになり、当時としてはMLB史上最高額の10年総額2億5000万ドルでレンジャーズと契約に合意している。

 これを米国のインフレ率を基準に試算すると4億4500万ドルでしかないのだが、さらに2001年以降の平均年俸上昇率(120%)やMLBの収益増加率(223%)を加味しながら選手の年俸インフレ率を元に現在の市場価値に直すと、何と5億5400万ドルに達すると説明している。

 これをソト選手と同じ15年契約で考えると、ロドリゲス選手の契約はソト選手を上回る8億3200万ドルに相当するとしている。つまり契約そのもののインパクトとしては、ロドリゲス選手の方が高かったと論じているのだ。

【チッパー・ジョーンズ氏「10億ドルの価値がある」】

 このように様々な意見が飛び交う中で、ますます注目が集まっているのが大谷選手だ。今では大谷選手の契約が「安すぎだった」という見方が一般的になっているようだ。

 その端的な例が、野球専門ポッドキャスト「Foul Territory」にゲスト出演したチッパー・ジョーンズ氏の発言だ。彼はブレーブスに19年間在籍し、スイッチヒッターとして通算468本塁打を記録し、1999年にはMVPに選出されるなどの輝かしい功績を残し、2018年に殿堂入りを果たしている大物球界OBの1人だ。

 まずジョーンズ氏は「現役当時の最強選手は誰?そして現在の最強選手と比較すると?」という質問を受け、以下のように答えている。

 「自分がユニフォームを着ている中で最高の選手だと感じたのはバリー・ボンズだ。誰も寄せつけない圧倒的な存在だった。そして現在はオオタニがその領域にいると思う。

 ただオオタニは打者として上位、もしくは中軸打線を打てるだけでなく、投手としてローテーションのトップを任させられるまさにユニコーンだ。

 さらに二刀流ではなく野手としても、守備も含めてあらゆる面で平均以上のプレーができ、試合を支配できる存在だ」

 またジョーンズ氏は「もしオオタニとソトのFAの順番が逆だったら?」と尋ねられ、とんでもない額を予想しているのだ。

 「もしソトが先に7億6500万ドルで契約していたのなら、オオタニは間違いなく10億ドルの価値があると思う」

 ソト選手の大型契約があったからこそ、改めて大谷選手の価値の高さが世に再認識されているようだ。どうやらドジャースはとてつもなく幸運だったのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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