「五輪ボランティア」や「学生インターン」にも、給料が発生する場合がある!
2020年東京五輪・パラリンピック大会組織委員会は、2年後の東京オリンピック・パラリンピックにむけて、今月26日から「大会ボランティア」の募集を開始する。ボランティアの内容は観客の案内や選手のアテンドなど多岐にわたるが、メディアではその要件の厳しさに注目が集まっている。
1日8時間、最低でも10日拘束が要件となっている8万人の大会ボランティアには、賃金も滞在費(宿泊費)も支払われず、交通費分として1日あたり1000円のプリペイドカードが現物支給されるだけのようだ。さらに、国はボランティアが確実に集まるよう大学に対して、授業や定期試験がオリンピックの開催期間と被らないように要請までしている。
国家的プロジェクトとなっているオリンピックだが、そもそも、賃金を一切支払わずに「ボランティア」や「インターン」をさせることは、合法なのだろうか? ここでは、最近話題となっている「ブラックインターン」の事例を踏まえながら考えていきたい。
急増する学生インターン
マイナビの調査によれば、近年、学生のインターン参加率は急増している。2019年卒の学生のうち78.7%は何らかのインターンに参加しており、平均して4社ものインターンを経験している。
「インターンは就職に有利」と大学のキャリアセンターでも何かと紹介されるが、今やほとんどの学生はインターンに行っているのだ。
これは多くの人にとっては驚きかもしれない。というのもわずか数年前まで、インターンは「意識高い系」の学生が行くものだと考えられていたからだ。
5年前の(2014年卒学生)インターン参加率は32.1%、平均参加企業数1.7社であり、ここ数年間での急増ぶりは一目瞭然だ。
同じく急増する「ブラックインターン」
過労死を引き起こすブラック企業や、学生を長時間労働で使い潰すブラックバイトが蔓延する中、「インターン」と称して無給で長時間単純労働をさせる「ブラックインターン」が増えている。
昨年にも、商品開発のインターンのはずがショッピングセンターで販売商品の売り子をさせられたというブラックインターンの事例を紹介したところである。
ヤフー記事:学生を騙す「ブラックインターンシップ」の罠 実態と対処法
そして今年に入り、私が代表を務めるNPO法人POSSEにインターン中のトラブルの相談が昨年以上に寄せられている。
しかも、最近のインターンに共通するのは「インターン」や「職場体験」と称して、普通は社員やバイトが行うような単純労働を課すものが多いということだ。例えば以下の事例を見ていただきたい。
事例(1)
大学のキャリアセンターで紹介された結婚式場でのインターン。わずか30分の休憩で1日9時間、結婚式場の設営を1週間行ったが、椅子やテーブルを配置するだけで特になにかスキルが身につかなかった。仕事の内容も正社員と全く同じものだったが、「無給インターン」として給料が1円も支払われない。
事例(2)
1週間の無給インターン。商品開発に携われるという内容に魅力を感じて応募したが、実際には朝9時から夜6時までひたすら商品の袋詰作業という単純作業を他のパートや正社員の社員と行った。3日目で辞めたいと思って相談。
これらの事例からわかることは、明らかに「労働」で業務であるにもかかわらず、「インターン」や「職場体験」と称してタダ働きを学生にさせる企業が実際にあるということだ。
設営や袋詰は高度な技術は不要でわざわざ「体験」する必要はない。実際、彼らと同じ業務を行った他の人はみな、給料を受け取って仕事している労働者だったのだ。
そもそも、何がインターンかは行政の通達では次のようにされている。少々長いが、重要なのでそのまま掲載しておこう。
「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる」(旧労働省平成9年9月18日基発第636号)。
つまり、その活動が企業の利益となったり普通の社員・バイトのような使用従属関係があれば、どう呼ばれていようが「労働者」として扱われるべきということだ。この定義からしても、上記の事例(1)や事例(2)がインターンでないことは明らかだろう。
インターンには当たらず、労基法上の「労働者に該当する」ということは、賃金の支払い義務が生じるということであり、働いた時間すべてに対して最低賃金の請求が、事後的に可能になるということだ。
このことは裁判でも明らかになっている。一定の手当と住居費が与えて海外の領事館にシニアを「ボランティア」として派遣するという「領事シニアボランティア」が労働者に当たるかが争われた裁判(大阪高裁平27(行コ)82号)で、ボランティアの「労働者性」が認められているのだ。
この事件では、ボランティアが「領事館の業務の一環」を担い「勤務場所や勤務時間について拘束を受けて」おり、さらに国が「領事シニアボランティアに対して、実質的に労働の対償である賃金を、海外手当及び住居費という名目を借りて支払っていた」として、裁判所はボランティアと呼ばれていても労働者になりうると判断した。
では、オリンピックの場合はどうか。最終的には具体的な活動内容によるが、実際に起こりうるのは1日1000円のプリカをもらっているのだから絶対1日8時間はいないといけない、とか、10日間何があっても行かないとといけない、という事態だろう。
さらに、ボランティアの期間はずっと拘束されており、仕事内容ややり方は組織委の決める方法に従うことが義務付けられれば、労基法上の「労働者」であると判断される可能性が高い。
確かにオリンピックでの観客の案内は商品の販売ではないかもしれないが、とはいえ、案内係がいなければ大会運営に支障が出ることを考えると利益を上げる活動に組み込まれているといえるだろう。
実際、もし必要な人数のボランティアが集まらなければ、派遣やバイトとして募集をかけるのではないか。こう考えると、オリンピックボランティアも労働基準法違反に当たる可能性があるという批判も的外れではない。
これは、逆に言えば、オリンピックという「商業事業」の雇用機会に「ボランティア」を大量に強制動員することで、国内の雇用を抑制し、その分IOCやJOC、そして関係企業の利益を増大させる、という構図にあるともいえる。
オリンピックが景気拡大のための事業であるならば、雇用拡大に結び付けられないのは、はなはだ倒錯した事態であろう。
とはいえ、もちろん、「自発的」に協力したい人は自由に参加すればよいと思う。一番問題となり得るのは「学校での強制動員」という事態である。
「インターン」でも実質的に仕事であれば給料を請求できる!
もし会社側が「インターンだから給料は出ない」と言ってきても諦める必要はない。その活動が、給料が支払われる労働かどうかは会社が一方的に決められることではないからだ。POSSEに寄せられた学生からの相談でも、実際に賃金を請求して取り返したケースがある。
理系の大学院生だった男性は、ITエンジニアとしてパソコンソフトのプログラミング作業を行っていた。無給ではなく、有給インターンとして毎月5万円が支払われる約束だったが、途中から仕事をしても対価が支払われず挙げ句の果てに一方的に首になってしまった。
この事例の場合は、インターンだったが実質的なプログラミング作業は一人で行っており(手取り足取り教えてもらうような研修でもない)、直接会社の利益になることから労働だと判断される可能性が高かった。
また、そもそも何時間働いても月5万円という契約自体おかしく、その上作業を行ったのに対価が支払われないのは契約違反であるから、会社に未払い賃金として請求した。
請求すると、会社側はすぐに男性の主張を全て認めて、未払い賃金を数日以内に振り込んできた。会社の方も違法だと認識していたが、請求されないのであれば払わなくていと考えていたのだろう。その後、男性はこう語っている。
「給料が支払われないことや急にやめさせられたことは明らかにおかしいと思いながらも、未払い賃金請求の方法なども知らず、ほとんど諦めていました。しかし自分一人で悩むよりまずは相談してみようと思い、POSSEに相談しにいきました。話を聞いていく中で、今までなんとなくおかしいとしか思っていなかった賃金未払いが確実に違法であり、請求すべきと感じるようになりました。請求前は(インターンだから)支払ってこないのではないかなど、不安もありましたが、最終的に請求書を送るだけで支払われました。このような自分一人では何もできないときには、まずは相談してみるということが大切だと思います。」
このような「ブラックインターン」の事例が非常に増えているが、きちんと対応すれば会社側に非を認めさせて未払いの賃金を支払わせることができる。「インターンなのにやっている仕事は社員と同じ」、「給料が払われるべきではないか」と思ったら、一度私たちのような労働問題の専門家に相談してほしい。
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