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軍事パレードに登場した尹錫悦大統領の首を狙う北朝鮮の偵察部隊と特殊作戦部隊

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
偵察総局部隊(朝鮮中央テレビから)

 人民軍創建75周年閲兵式(軍事パレード)は金正恩(キム・ジョンウン)総書記の第2子とみられる「主愛(ジュエ)」という名の娘とパレードで最後に登場した固体燃料使用の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)が脚光を浴びていた。また、昨年11月に試験発射に成功したばかりのICBM「火星17」が11基も登場したことも目を引いていた。しかし、パレードで行進した部隊についてはあまり注目されることはなかった。

特殊作戦軍部隊(朝鮮中央テレビから)
特殊作戦軍部隊(朝鮮中央テレビから)

 金正恩政権(2012年~)下での軍事パレードは今回で12回目となるが、時間の長さからする、最も長かった2015年10月10日の労働党創建70周年のそれよりも1時間ほど短縮されていた。秋の午後3時にスタートした党創建70周年のパレードと違って、2月の真冬、それも気温が零下3の夜9時前後に始めたので無理もないが、動員数及び規模では上回っていた。ちなみに午前11時に始まった5年前の健軍70周年の時は軍人が延べ1万3千人、平壌市民5万人が金日成広場に集結していたが、今回パレードに登場した軍人の数は倍以上、また平壌市民も2倍の10万人が集っていた。

 今回は75周年の式典ということもあってかつての独立歩兵師団をダブらせた複数の部隊が健軍に寄与した元パルチザンや朝鮮戦争で戦死した司令官及び金日成(キム・イルソン)―金正日(キム・ジョンイル)と2代にわたって忠誠を誓い、人民軍の発展に貢献した将軍らの肖像画を抱え、先頭で行進していたが、やはりメインは正規軍の行進であった。

 今回のパレードでは「金正恩決死擁護!」が叫ばれていたことからもわかるように過去の軍事パレードと同様に党中央保衛処、国務委員会警衛局、護衛司令部所属の部隊が真っ先に登場していた。どれもこれも金総書記の護衛隊、親衛隊であるが、警護部隊は米韓の「斬首作戦」などを警戒して年々補強されている。なお、護衛司令部はクーデターや人民蜂起を鎮圧する部隊でもある。

 警護隊に続き、第1軍、第2軍、第4軍、第5軍の順で軍団が金日成広場に現れたが、江原道・淮陽郡に駐屯している第1軍団は戦時での南浸の主力部隊で、韓国の第3軍団と向かい合う。第2軍団(黄海北道・平山郡に駐屯)は軍隊内で最初に「一当百」(一人で100人を倒す)のスローガンを掲げた先鋭軍団で、相手は韓国の第6軍団である。第4軍団(黄海南道・海州に駐屯)は西部戦線、韓国との海の軍事境界線(NLL)に近い離島を含む西海岸の防衛を任務としており、韓国の第1軍団と対峙している。第5軍団(江原道・伊川郡に駐屯)は東海岸の防御任務にあたっている。

 第5軍団の後に金ミョンシク司令官(大将)が率いる海軍、金グァンヒョク司令官(大将)が率いる空軍、金ジョンギル司令官(上将)が率いる戦略軍、そして米韓の特殊部隊に対抗して2017年に創設された、李ゴンチュン司令官(上将)が率いる特殊作戦軍の部隊が登場していた。北朝鮮の軍事パレードは2017年4月の金日成主席生誕105周年のパレードの時から軍団長及び海軍、空軍司令官らはそれぞれの部隊を率いて、先頭に立って行進している。

 特殊作戦の部隊の後から再び軍団の行進が第91軍団(平壌に駐屯)を先頭に高射砲軍団、第3軍団(平安南道・南浦に駐屯)、第7軍団(咸鏡南道・咸興に駐屯)、平壌西側と慈江道に集中している軍需基地を防御する第8軍団(平安北道・塩州郡に駐屯)、第9軍団(咸鏡北道・清津に駐屯)、男女混合の第10軍団(江原道・元山に駐屯)、そして白衣とマント姿の第12軍団(両江道・恵山に駐屯駐屯)の順で行われていた。

 第91軍団は首都防衛軍団で、2018年2月の人民軍70周年の時は当時の軍団長であった金ミョンナム上将が閲兵司令官を務めたこともあった。ちなみに6軍団と11軍団は消滅している。第6軍団は1995年前後にあった軍団内の反乱事件で解体され、第11軍団は2017年に特殊作戦軍に改編されている。

 軍団の行進が終わると、タンク装甲師団、ソウル柳京105戦車師団、第425機械化歩兵師団、第108機械化歩兵師団、第815機械化歩兵師団、第806機械化歩兵師団の隊列が続き、その後方から顔を炭で塗り、草で覆われた偵察総局第191指揮情報旅団、第21工兵旅団、ガスマスクを装着していた第22核化学大隊第208戦略攪乱戦大隊、それに唯一女性の隊長が引率した第1機動病院大隊の隊列が続いていた。

 新たに登場した第191指揮情報旅団の前身は通信隊で、男女混合で編成された第208戦略攪乱戦大隊も2020年10月10日の党75周年のパレードでは電子攪乱作戦部隊と呼称されていた。偵察の部隊も通信部隊、電子攪乱作戦部隊も健軍70周年の軍事パレードから登場していた。

 今回のパレードでは金日成軍事総合大学、金正日軍政大学 金日成政治大学 金正淑(キム・ジョンスク)名称海軍大学 金策(キム・チェク)名称空軍大学 姜建(カンゴン総合軍官学校)、呉振宇(オ・キジヌ)名称砲兵総合学校、それに革命学院の学徒らも非正規軍の一員としてパレードに加わり、総長、学長らを先頭に一番最後に行進していた。

 なお、2018年9月9日の建国70周年軍事パレードに出てきた板門店警務部隊,近衛第2魚雷軍団、近衛第56追撃機連隊、第518砲兵師団、それに「一当百海兵隊」と称される海兵隊は登場しなかった。また、2020年10月の党創建75周年に登場した地上狙撃部隊、海上狙撃部隊、航空狙撃部隊の姿も見えず、山岳歩兵部隊も姿を表してなかった。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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