ダイヤの原石が勢ぞろい! 育成年代最後のW杯で初タイトルを狙うU-20女子代表に高まる期待
【日本は優勝候補の一角】
8月5日にフランスで開幕するU-20女子W杯を控え、U-20日本女子代表がイングランド遠征を行った。
実質4日間の弾丸スケジュールとなった今回の遠征は、最終日の23日(土)に、U-20イングランド女子代表とテストマッチを実施。4月のフランス遠征から期間を空けずに欧州遠征を行うことで、欧米選手のパワーやリーチに慣れておく狙いもあったが、池田太監督はもう一つのテーマを掲げた。
「積み上げてきたものを自分たちで確認し合って、(選手同士が)お互いにコーチになれるか。ピッチの中でも生活面でも、『勝つ』ために行動できるか、生活できるか、モノを言い合えるか、ということがテーマでした」(池田監督)
個々の技術は申し分なく、その多彩なアイデアを生かす連係もある。一方で、気持ちの強さを内に秘めるタイプの選手が多いこともあってか、選手同士が厳しく要求し合う場面はそれほど多くないように見受けられる。
指揮官が求めたテーマには、W杯を獲るためにチームとしてもう一皮むけてほしい、というメッセージが込められていた。
テストマッチはイングランド側の意向で完全非公開となったため、内容も結果も知ることはできなかったが、試合後、池田監督は「手応えはありました。遠いところまで来た甲斐があった」と、明るい表情を見せた。U-20女子W杯に向けて積み上げてきたものを、強豪イングランド相手にしっかりと発揮できた手応えの表れと見ていいだろう。
今回のテーマだった味方同士のコーチングについても、「ディフェンスラインなど、しっかり声が出ていた」(池田監督)と、評価している。
日本はU-20女子W杯のグループリーグで、アメリカ(北中米カリブ海予選1位)、スペイン(欧州予選1位)、パラグアイ(南米予選2位)の3カ国と対戦する。このグループで2位以内に入ることが準々決勝進出の条件だ。さらに、その先の準々決勝では、ドイツやナイジェリアなど、大会上位の常連国が勝ち上がってくることが予想される。
日本の初優勝への道のりは、一筋縄ではいかないだろう。
しかし、前回大会のU-20世代同様に、今大会も日本が優勝候補の一つであることは間違いない。このチームは、2016年のU-20女子W杯王者であるU-20北朝鮮女子代表をアジア予選で下し、同大会で準優勝だったU-20フランス女子代表とは、4月のテストマッチで1勝1敗と互角。また、同年代のアメリカ女子代表とも親善試合を重ね、一歩も引かない戦いを演じてきた。
この年代は、U-20女子W杯が終われば、来年のフランス女子W杯や2020年東京五輪の代表候補に加わる可能性がある。豊かなポテンシャルを持った原石揃いの日本が、今大会で旋風を巻き起こす可能性は決して低くない。
イングランド遠征は、ロシアW杯のグループリーグの日程と重なっていたこともあり、夜のミーティングでは全員でクロアチアとアルゼンチンの試合を観て、本大会へのイメージを膨らませたという。DF小野奈菜は、
「自分の国のために戦うという強い気持ちがすごく伝わってくるので、同じW杯という舞台で、それを示していきたい」(小野)
と、W杯戦士たちに刺激を受けていた。
【粘り強さを支えるもの】
トレーニングが行われたのは、イングランド中部のバーミンガムから約50kmほどの北西にあるナショナルスポーツセンター。ラグビーやクリケット、アーチェリーなど、様々なスポーツが行われる広大な施設の一角にある、広々としたグラウンドだ。
トレーニングでは、攻守を細部まで詰めていく作業が中心となったが、その中で、このチームの最大の強みである粘り強さも、自然と発揮されていた。それは、同じ作業を淡々と続けられる集中力や「我慢強さ」とも言い換えられるだろう。
このチームの粘り強さを表すエピソードとして、サイドバックのDF牛島理子は、2017年のAFC U-19女子選手権(U-20女子W杯アジア予選)を例に挙げた。
「相手が堅く守ってきて、なかなか点が入らなくても、粘り強くやるべきことを全員がやり続けたことで、後半に点が入る試合が多くありました。(前半に決まらなくても)焦(じ)れることなくやり続ければ大丈夫、という自信がありました」(牛島)
この大会で、日本は全5試合で21得点を挙げて優勝したが、その8割超の18得点が後半に決まっているというデータは興味深い。その数字から見えてくるのは、前半は相手の出方をうかがいながら徐々にギアを上げ、後半に仕留めるという勝利パターン。グループリーグ第2戦のオーストラリア戦は先制されたが、後半に5ゴールを奪って快勝したように、リードされた試合でも、その粘りと勝負強さは発揮されていた。
このチームの粘り強さの根底には、90分間、ハードワークを続けられる体力と、精神面のタフさがある。
それは、生活面にも通じる。選手たちは日本からイングランドまで、30時間以上の移動をものともせず、時差にも柔軟に対応していた。年代別代表経験が豊富な選手が多く、海外遠征に慣れた選手が多いことも、国際大会では強みになる。
練習中、常に選手たちに熱い調子で声をかけ、一体感を大切にする池田監督の色も、このチームの個性だ。
「(このチームは)ずっとチャレンジャーです。ハードワークして、泥臭く戦う。だって、俺が監督ですから(笑)」
指揮官は冗談めかしてそう言い、「あとは、(チームの)明るさ(も大事)ですね」と、付け加えた。
【各ポジションに有望なタレントが揃う】
戦術面に目を向けると、堅守をベースに、中盤から前線の多彩な攻撃にも着目したい。
狭いスペースを突破できるコンビネーションプレーは強みだが、広いシュートレンジからシュートを狙う選手が多く、ダイナミックなゴールも多い。U-19女子選手権では、様々な攻撃パターンから、11人の選手がゴールを決めた。
中央でゲームをコントロールするのは、MF宮川麻都、MF林穂之香、MF長野風花ら、年代別W杯のタイトルホルダーたち。そして、2列目にはMF今井裕里奈、MF佐藤瑞夏、MF宮澤ひなたら、チャンスメイクからフィニッシュまでをこなすユーティリティプレーヤーが揃う。中盤は複数のポジションでプレーできる選手が多く、組み合わせによって変化するコンビネーションを楽しみたい。
前線では、U-20女子W杯アジア予選で決勝ゴールを挙げたFW植木理子が抜群の嗅覚でゴールを狙う。
所属の日テレ・ベレーザでは、なでしこジャパンの主力選手たちから精度の高いラストパスを引き出し、ゴール前での駆け引きを制してきた。U-20女子W杯に向けては、
「後半に強いのはこのチームのいいところですが、早めに先制点を取れればチームに与える安心感も違います。大事な試合で点を取りたいし、W杯の舞台でチームを勝利に導くゴールを決めたいです」(植木)
と、力強く語った。
年代別代表でGKからFWまで全てのポジションでプレーしたという異色の経歴を持つFW宝田沙織も、大器の予感を漂わせるアタッカーだ。FWには他にも、意表を突いたミドルシュートやポストプレーを得意とするFW村岡真実や、身体の強さと懐の深いキープで起点となれるFW鈴木陽(はるひ)らが候補に名を連ねており、攻撃の引き出しを増やす。
最終ラインは、171cmのDF南萌華を筆頭に、空中戦に強い長身選手がズラリと顔をそろえる。丁寧なラインコントロールとフィード力に加え、セットプレーではその高さが武器になる。相手FK時に築く分厚い壁は壮観。
GKは、それぞれにタイプは違うものの、誰が出ても、コーチングの質は保証されるだろう。GKスタンボー華とGK福田まいの2人に、今回の遠征には参加しなかったGK鈴木あぐりが加わり、ハイレベルな正守護神争いになると予想される。
今回のU-20女子W杯は、ピッチの横幅が通常よりも4m狭い64mで開催される(縦の長さは同じ)ため、日本のテクニック、俊敏性などの特性がより生きる可能性が高い。その点も、日本は大会初優勝に向けて追い風としたいところだ。
U-20女子代表はこの後、7月中旬に最終メンバー21名が発表され、8月6日(月)にグループリーグ初戦のアメリカ戦を迎える。