障がい者も十人十色であることを認める場所に出合って。「教科書的な福祉映画にはしたくなかった」
東京都大田区にある、バリアフリー社会人サークル・colorsを500日間にわたって撮影している現在公開中のドキュメンタリー映画「ラプソディ オブ colors」。
障がいのあるないにかかわらず、さまざまな人が集い、言いたいことを言い合い、表現するユニークな場所になっているこの場を撮影し続けた佐藤隆之監督に訊くインタビューの後編へ。前回のインタビューでは、主に撮影に至った経緯から、「colors」という場を佐藤監督はどうとらえたかを聞いた。
ここからも引き続き作品について聞く。
よくある障がい者映画や福祉映画にはしたくなかった
「colors」の代表を務めるのは石川悧々さん。前回伝えたように彼女は頚椎損傷と脳の血種による障害者で、現在DET(障害平等研修)のトップファシリテーターとして活躍している。障害者の支援に携わる当事者である。ただ、いい意味で障がい者支援に携わる人間のイメージを覆すというか。 ともすると当事者であるがゆえに出てきてしまう義務にとらわれたり、正義を振りかざすようなところが一切ない。
障がい者うんぬんではない、困っている人がいるから助ける。問題があるから、改善を求める。そんなシンプルなスタイルで障がい者に関する問題に向き合っているように映る。
だから、障がい者に対して必要以上に同情しない。向き合い方がフラット。それは健常者に対しても変わらない。
「いい意味でも悪い意味でも、石川さんは自然体。好きは好きだし、嫌いは嫌い。
『colors』のような場所を作ったら、ふつうは誰でも気軽に来られる場所になるようにする。 もちろん『colors』はそういう場なんですけど、石川さんは必ずしも万人に開かれた場所にしなくてもいいと思っているようなところがある。
要は気に入った人は来ればいいぐらいのスタンス。『嫌いな人は来なくていい』と容赦なく突き放してしまう。 下手な温情はかけないし、善人ぶらない。自分の要求もストレートにぶつける。それにはなかなか抗えない。だから『魔女』と呼ばれちゃうわけです。
でも、こういう人がいてもいいんじゃないかなと思うんです。
すべてのことを平均化してしまうと、行政がやっていることみたいな杓子定規のようなことになってしまう。その人の好みとか趣向とか一切無視されて、画一的なものに押し込まれてしまう。そうじゃなくて、自分たちの色のようなものを出して、それを気に入ってくれた人たちを確実にフォローする。
なにか福祉や障害に関する事というのはみんながみんな満足するものにしようとして、なんだか窮屈で規則でがんじがらめになっているケースが多いように見える。でも、みんなが満足するものってそう簡単じゃない。
その中で、『colors』のような形があっていいんじゃないかなと思うんですよね。出入り自由で合わないようだったら無理に引き止めることもなければ、無理に付き合う必要もない場所が。
だから、この映画も、よくある障害者映画や福祉映画にはしたくなかった。こういう映画は、どうしても教科書みたいにレクチャーするものか、感動物語に持っていこうとしてしまう。
まあ、石川さんと中村さんが登場した時点で、そうならないんですけど(笑)。
だから、この作品に関しては批判があるかもしれない。障害者や福祉について『こんな意識でいいのか』とか、『障害者に対してこの向き合い方でいいのか』といったことを言う人もいると思うんですよ。
でも、僕はいい人ぶった感動物語にするつもりはみじんもなかったですね。そもそも僕にはそんな知識も経験もない。僕が興味をもった人や『colors』での出来事で感じたことを素直にまとめただけと思っています」
確かに佐藤監督が興味をもった人を思うがままに追いかけていったような印象がある。
難病にありながら百人一首に曲をつけ、動画配信をするジョプリン氏、元デリヘル経験がある車いすユーザーのMayumiさんなど、一度見たら目が離せなくなる石川さんや中村さんに負けない個性き際立つ「colors」に集う面々が登場する。
「これはもうみなさんが、僕の考えに賛同してくれて、撮影を許してくれました。だから、これだけいろいろな人に登場してくれることになった。
承諾してくれたのは、ほとんどがなにかしら表現することにトライしている人だったからかもしれない。一方で、みなさん自身の何かしらの存在証明になる可能性があるって思っていた気もします。みなさん『何とか映画にしてほしい』と思っている気持ちは密かに感じていました。
まあ、僕自身最初は『映画になるかどうか分かんないよ』と言ったり、『公開できるかも分かんないから、あんまり期待しないでほしい』となんとなく逃げ道を作ってはぐらかしていたんですけどね。
いま作品が完成して、劇場での公開の運びになって、その期待と気持ちにひとつ応えられたかなと思っています」
多様な視点を提供できるものになっていたらうれしい
いまこの500日に渡った撮影の日々をこう振り返る。
「撮影・取材といいつつも、あまりその意識はなかったというか。ただ楽しくて、酒が飲めるから行っていたというのが正直なところかも(笑)。
障害者に対するレッテル貼りというか、カテゴライズというか、そういうことからいっぺん自由になって、世界や社会をみて、自分の視点も見直す。
この作品がそういう多様な視点を提供できるものになっていたらうれしいです。
あとは、『colors』という場所ですね。今も場所を移して存在はしている。でも、あの場所・あの時の『colors』はまた別の存在で。建物が取り壊されたとき、同時にやっぱり無くなったものがあったんですよ。
先に触れたように僕の視点は、あの場所から、だんだんあそこに集う人たちに移っていった。 だけど、無くなってしまうと、『ああ、あの場って、すごい磁力があっていろいろな人にとって大切な場所だったんだ』ということを痛感したというか。
あの場所に『colors』が無くなってしまった事の大きさを今になって実感しています。
なにかこの世の儚さというか、『諸行無常』を感じています」
映画「ラプソディ オブ colors」
監督・撮影・編集:佐藤隆之
出演:石川悧々 中村和利 新井寿明 上田繁 Mayumi ほか
ポレポレ東中野ほか全国順次公開中
公式サイト:https://www.rhapsody-movie.com/
筆者撮影以外の写真はすべて(C) office + studio T.P.S