障害者と健常者が忖度なしに言い合う。ありそうでない超個性派揃いのバリアフリーサークルと出合って
現在公開中のドキュメンタリー映画「ラプソディ オブ colors」は、東京都大田区にある、バリアフリー社会人サークル・colorsを500日間にわたって撮影している。
「colors」があるのは古い3階建てのシェアハウス&イベントスペース「トランジット・ヤード」内。1階がイベントスペース「Transit Cafe Colors」となり、colorsとNPO法人「風雷社中」が協働運営し、定期的にイベントを行い、障がいのあるないにかかわらず、さまざまな人が集う場となっていた。
2階はカメラマンやヘルパーさん、ミュージシャンがルームシェアしており、3階には重度知的障害のあるげんちゃんが1人暮らしをしている。
colorsの代表を務めるのは、頚椎損傷と脳の血種による障害者でシングルマザーの石川悧々さん。DET(障害平等研修)のトップファシリテーターとして活躍する彼女のもとには、その人柄もあって障がい者のみならず実に多様な人々がやってくる。
作品は、この場所に集う個性豊かな人々と、入居する建物の突然の取り壊しが決まり閉鎖されるまでの日々が合わせて記録されている。
本作を手掛けた佐藤隆之監督はかつて大林宣彦、黒木和雄、鈴木清順らの助監督として活動。その後、テレビやネット配信の作品で監督脚本を手掛けながら、45歳でタクシードライバーに転職し、いまはドライバーを続けながら個人製作のドキュメンタリーを発表している。異色の経歴をたどる佐藤監督のインタビューを2回に分けてお届けする。
「へぇ、こういう場所があるんだなぁ」と思いました
まず佐藤監督は「colors」という場との出会いをこう明かす。
「今回の『ラプソディ オブ colors』にも登場してますけど、友人の写真家、柴田大輔さんが、あの建物の2階に住んでいた。
それで、彼が前作『kapiwとapappo~アイヌの姉妹の物語~』をcolorsで上映したいと言ってくれて。その打ち合わせで初めて『colors』を訪れました。2017年の9月でした」
そのときの印象をこう語る。
「へぇ、こういう場所があるんだなぁと思いました。石川(悧々)さんも強烈な個性を放っていた。『打てば響く』と言うか。声もでかいしね(笑)」
ただ、すぐに撮影を申し出たわけではなかったという。
「翌年、長年温めている映画のシナリオをちょっと直そうと思って。そのシナリオの主人公というのが知的障害のある設定だった。
そこで、知的障害について実際をもっと勉強したいと思っていたところで、『colors』のことが頭に浮かんだんです。あそこに行けば、いろいろな障害を抱えた人が出入りしている。いろいろな話をきいて、参考にしたいなと。ということで、たとえばバーベキューとか、『colors』が開いているイベントに遊びがてら、行くようになりました。
そのうちに、石川さんと、彼女の相棒というか、同志というか。『Transit Cafe Colors』を協働で運営するNPO法人『風雷社中』理事長の中村(和利)さんに惹きつけられた。
まあ映画をみてもらえればわかりますけど、石川さんは白黒はっきりした性格で、多くの人に慕われる一方で、気に入らない人は一刀両断で突き放す。劇中でも言われてますけど、『魔女』と称されるぐらい個性的で異様に押しが強い(笑)。
中村さんも地域の障害福祉の立役者で、やっていることはすごい。福祉や障害者の自立について語ることは舌鋒鋭くいずれも正論。役所が太刀打ちできないくらいやり手の人物ではある。でも、いつもくたくたのTシャツ・無精髭姿、歯を磨かなかったりとだらしなくて、とてもそんな人には見えない(笑)。
この二人から目が離せなくなって。二人を中心にしたこのコミュニティを撮ったら、なにか見えてくるものがあるんじゃないか。単純に『面白いものが撮れるんじゃないか』と思ったんです。
それで、『映画になるかどうかはわからないけど、周りの人も含めてまずは撮らせてもらえないかな?』と二人に話したのが2018年の5月ぐらい。こうして『colors』に通っての撮影が始まりました」
同じ障害がある人同士でも気が合う合わないはある。そういう当たり前のこと
前提で、障害者も健常者も付き合っている感じが『いいな』と思った
撮影をはじめた当初、「アンチ感動ポルノ」といったコンセプトがあった。だが、途中からそういうことも意識しないようになったという。
「代表の石川さんからしてそうなんですけど、健常者とか障害者とか分け隔てることがない。世間一般には、障害者は守られるべきもの、可愛想な存在といったイメージがあって、なにか軽く触れてはいけないような風潮がある。もちろん、彼らが困っていることがあれば手を差し伸べるのは普通のこと。でも、彼らだって常に正しいわけではなく、間違うこともあって決して聖人ではない。colorsに集まる人々を見ていると、みんな言いたいことを言い合っている。 『障害者同士は互いに分かり合える』ようなことをこちらは勝手にイメージしますけど、そんなことないわけで。
当たり前ですけど、同じ障害がある人同士でも気が合う、気が合わないはある。そういう当たり前のこと前提で、障害者も健常者も付き合っている感じが『いいな』と思ったんです。
で、当事者たちにいろいろと聞くと、やっぱり自分たちの存在が『感動物語』にまとめられることにかなりの不満をもっている。僕自身もそういった障害者を感動ポルノ的な扱いをするテレビ番組、ドキュメンタリー番組には常々批判的で。
平たく言うと、ある健常者がある障害者と出会って、『彼はこんなハンデがあるのにこんなに頑張ってます』といった内容を伝えて、それにみんなが感動するというのはいかがなものかなと。
それを見た当事者が『自分ももっと頑張らないといけない』と思うようなことになりかねないのも危ういし、世間が『障害者はこういう存在』と短絡的にとらえてしまうのも危ういと思っていたんです。
そもそもマジョリティの側から見てマイノリティを規定するということがすごくエゴイスティックなことだと思うし、どっちがマジョリティで、どっちがマイノリティっていう考え自体がおかしい。 そういうことをとっぱらった作品にしたいと思いました。
そういう意味で、そのような『感動ポルノ』的なものになるのは絶対に避けたかった。
でも、それと関係なく最初に掲げていた『アンチ感動ポルノ』うんぬんといった旗印は撮影を進めるうちにだんだん薄れてきた。刺激的な人物が次々と現れるから、自分の興味の赴くまま彼らを追っているといった感じで。『撮りたいから撮る』みたいなことになってました」
作品は「colors」で行われるイベントが中心に構成されている。中でも、音楽イベントを注視した印象があるがその理由をこう明かす。
「『colors』ではほんとうにいろいろなイベントをやっていて。しかも、とても全部に足を運ぶのは難しいぐらいの回数をやっているんですよ。だから、撮影者としては全部に付き合うことはとてもじゃないけどできない。こちらもタクシー運転手の仕事で食っていかないといけないので(笑)。
それでどうしようかなと思ったんですけど、僕の中では、とりわけ音楽イベントが目にとまったんですよね。ご覧になってもらえればわかりますけど、『colors』のイベントに参加している人たちの歌は、上手い人もいれば下手な人もいる。プロもいればアマチュアもいる。通常のコンサートやライブというのは、歌う人がいて、それを聴く人がいる。多かれ少なかれ、歌い手は与える側で、聴き手は与えられる側になる。
でも、『colors』のあの場はちょっと違って限りなく対等というか。あそこでは歌い手と聴き手が入れ替わる、それこそオープンマイク。そういう自由な場で。これが『colors』という場を象徴しているような気がしたんですよね」
ただ、その中であっても強烈な印象を放つのが、石川さんと中村さんだ。
「強烈でしょう(苦笑)。いや、二人ともに強烈なんですよ。僕にとって二人は撮影の当初、ナビゲーターだったんです。取材したいと思った人の連絡を頼んだりおすすめの人をコーディネートしてもらったりして。あくまで作品の案内人だった。でも、撮影を進めれば進めるほど、『この二人が一番おかしいんじゃないかな』と(笑)。 それで、映画の中でもだんだんあの二人にフォーカスがいっちゃったんですよね。
二人は『知的・精神』の分野でいうと健常者に入ると思うんだけど、ここに登場する中で一番変で迷惑な存在なのは、実はこの二人じゃないのかと。
そうこうするうちに、僕は二人に取り込まれちゃって。さっきも言いましたけど、二人を見ることで、障害と健常っていう分け方、それ自体を疑ったほうがいいとの思いがさらに強くなった。
それでまったく意識していなかったんですけど、前作『kapiwとapappo~アイヌの姉妹の物語~』ともつながったんですよね。
前作も根底にあるテーマは『ラプソディ オブ colors』と同じで。アイヌと和人というカテゴライズして分けて考えることを疑ってみようという作品でした。
もっと広く言えば、マジョリティとマイノリティの関係。そこに自分の意識があるんだなと二人にフォーカスしたことで気づきました」
(※後編に続く)
映画「ラプソディ オブ colors」
監督・撮影・編集:佐藤隆之
出演:石川悧々 中村和利 新井寿明 上田繁 Mayumi ほか
ポレポレ東中野ほか全国順次公開中
公式サイト:https://www.rhapsody-movie.com/
筆者撮影以外の写真およびビジュアルはすべて(C) office + studio T.P.S