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民放各局の「夏ドラマ」注目ポイントをチェック!

碓井広義メディア文化評論家
『家庭教師のトラコ』でヒロインを演じる橋本愛さん(番組サイトより)

4月からの春ドラマが続々と幕を閉じています。そして、もう少しすれば始まるのが、夏ドラマ。

各局の新作、その注目ポイントをチェックしてみたいと思います。

脚本・俳優・制作陣

新たなドラマを見ようとする時、確認したい要素が3つあります。

まずは、どんな物語なのか。それを書く脚本家が誰なのかも重要です。

次に、出演者(キャスト)。どんな俳優さんが、どのような人物を演じるのか。そのマッチングも気になります。

そして、3番目に制作陣(スタッフ)を挙げたいですね。プロデューサーや演出などの作り手によって、出来具合も大きく変わるからです。

日本テレビ系『家庭教師のトラコ』

『家庭教師のトラコ』は、『家政婦のミタ』などで知られる遊川和彦さんのオリジナル脚本です。

ヒロインの「謎の家庭教師」を演じるのは、久しぶりの連ドラとなる、橋本愛さん。

誰もが気づくように、タイトルの『家庭教師のトラコ』は「家庭教師のトライ」のパロディです。

とはいえ、「お金と教育」というシビアな裏テーマもありそうで、遊川さんが何を仕掛けてくるのか、興味深いです。

日本テレビ系 土曜ドラマ『初恋の悪魔』

『初恋の悪魔』の注目ポイントは、何と言っても、脚本が坂元裕二さんであることに集約されます。

坂元さんが、あの『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)の次に、どんな作品を繰り出してくるのか。いい意味で、一筋縄ではいかないドラマになるはずです。

『初恋の悪魔』という、一見恋愛ドラマ風の可愛らしいタイトルと、「刑事コメディ」という中身とのズレが、見る側の想像を膨らませてくれますよね。

林遣都さんと仲野太賀さんのダブル主演で、そこに加わるのが松岡茉優さん。

演出は、『獣になれない私たち』などの大ベテラン、水田伸生さんです。

TBS系 金曜ドラマ『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』

金曜ドラマ『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』は、脚本・キャスト・スタッフの三拍子が揃った作品と言えるでしょう。

東大卒のパラリーガル「石子」と高卒弁護士「羽男」のコンビを演じるのは、有村架純さんと中村倫也さん。単独主演が可能な2人がダブル主演で臨む、「リーガル・エンターテインメント」です。

脚本は西田征史さん。NHK朝ドラ『とと姉ちゃん』や『怪物くん』(日テレ系)などを手がけてきた実力派です。

そして制作陣ですが、プロデューサーは新井順子さん、演出が塚原あゆ子さんという『アンナチュラル』などの名コンビなのです。この2人が担当すると聞いただけで、見たくなる1本となっています。

TBS系 日曜劇場『オールドルーキー』

視聴者の考察が盛んだった『マイファミリー』に続き、今月26日からスタートする日曜劇場が『オールドルーキー』です。

主人公は、現役を引退した元サッカー日本代表選手。セカンドキャリアとして、スポーツマネジメントの世界に挑戦します。

引退したスポーツ選手の話と聞けば、最近まで放送されていた木村拓哉さんの『未来への10カウント』(テレビ朝日系)と重なります。

脚本は、その木村さんの『HERO』シリーズなどで知られる、福田靖さん。

主演は、しばらくハードボイルド作品が多かった、綾野剛さん。

この2人が組んだら、どんな物語が展開されるのか。やはり注目です。

TBS系 火曜ドラマ『ユニコーンに乗って』

TBSの火曜ドラマ枠は、『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)や『恋はつづくよどこまでも』(20年)など、特に女性視聴者の支持を集めてきました。

この夏、登場するのは『ユニコーンに乗って』。

脚本は、昨年の『ナイト・ドクター』(テレビ朝日系)などを書いてきた、大北はるかさんのオリジナルです。

プロデューサーに、『私の家政夫ナギサさん』などの松本友香さん。

若き女性CEO(永野芽郁さん)と、転職してきて彼女の部下となる中年男(西島秀俊さん)の物語ですが、ふと、米映画『マイ・インターン』(15年)を思わせます。

アン・ハサウェイが社長を務める通販会社に、シニア・インターン制度で採用されたのがロバート・デ・ニーロ。

はじめは異質だった“おじさん”が徐々に存在感を増し、女性社長との信頼関係も生まれていきました。

西島さんが演じる、冴えないおじさんも、きっと周囲を変えていくのではないでしょうか。

何より、映画『ドライブ・マイ・カー』など、近年の西島さん出演作にハズレなしだと思っているので、期待しています。

フジテレビ系 月9『競争の番人』

そして、夏の「月9」が『競争の番人』。

坂口健太郎さんとさんのダブル主演で、「公正取引委員会」という珍しい舞台が興味を引きます。

原作は『元彼の遺言状』と同じく、新川帆立さんの同名小説。

脚本を『半沢直樹』や『下町ロケット』などの丑尾健太郎さんが担当するので、キレのいいアレンジが加わるはずです。

テレビ朝日系『六本木クラス』

『六本木クラス』も、かなり話題になっていますね。

人気の韓国ドラマ『梨泰院クラス』のリメイク、果たしてどんなふうに置き換えられるのか。

主演は竹内涼真さん。相手役が香川照之さんというのも期待大です。

かつては日本でヒットした映画が韓国や台湾でリメイクされることが多かったわけですが、その逆パターン。

成功すれば、今後も韓国などのヒット作の日本版が急増するかもしれません。

テレビ東京系『晩酌の流儀』『量産型リコ─プラモ女子の人生組み立て記─』

テレビ東京の深夜は、夏も見逃せません。

『晩酌の流儀』(金曜深夜)は、栗山千明さんがいかに美味しく晩酌できるかを追求する作品。時間帯的にも、一緒に飲みながら見るのは楽しそうですね。

乃木坂46・与田祐希さん主演の『量産型リコ─プラモ女子の人生組み立て記─』(木曜深夜)は、女子がプラモデルにハマっていくというテーマが新鮮です。

夏ドラマの楽しみ方

先日、ある雑誌記者の方から、「かつて、春や秋と比べると、夏ドラマは制作側に力が入っていないという説もありましたが、いかがですか」と訊かれました。

今も少しはその名残はあるかもしれません。しかし、その分、キャストやテーマで冒険できる面もあります。

思わぬ発見があったりするのは、夏ドラマの楽しみのひとつではないでしょうか。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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