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目標は患者数ゼロではなく、大流行させないこと

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:アフロ)

日本では、新型コロナウイルスの流行が収束しました。欧米諸国でも、苛烈な流行を経験しましたが、何とか収束に向かっているようです。一方で、南アジア、南米での流行が収まりません。アフリカでも流行しているようですが、検査が十分に行えておらず、実態が見えていないと考えられます。イランなど中東諸国では、再流行が始まっているようです。

私たちは、否応なく「新型コロナウイルスのある世界」で暮らしています。4月の流行とは、日本が経験した最初の流行に過ぎず、今後も繰り返されることでしょう。都会と地方の違いに着目しつつ、今後の備えについて考えてみます。

―― なぜ、4月に日本各地で流行を認めたのか?

春休みがあって、新年度の入学・就職など県境を越えた人の移動が活発な時期がありました。その結果、散発的ながらも全国で流行したのだと思います。

たとえば、沖縄県では、3月18日から流行を捉え、月末までに12人の診断をしました。そのうち渡航歴がある方が7人(東京3人、大阪2人、海外2人)でした。残りの5人は渡航者と接点のある方々でした。

手洗いが足りなかったわけでも、マスク着用が甘かったわけでもなく、人の移動が活発だったことが最大の原因です。とくに、流行地域からの渡航自粛は守られるべきでした。これは間違いなく次に活かされるべき教訓でしょう。

―― 北九州では、ふたたび流行が起きてしまった。

感染者を確認しない状態が3週間以上続いたとのことで、いったんは市中流行を封じ込めていたのでしょう。ただし、今回、同時多発的に感染経路不明の感染者を発見してしまいました。おそらく、その1~2週間前から、くすぶるように市内で流行していたと考えられます。

ただ、北九州市では、症状の有無によらず濃厚接触者に対してPCR検査を行っています。ですから、これまでの流行と量的に比較することは適切ではありません。検査対象を拡大して提出件数を増やせば、確認する患者数が増えるのは当たり前のことです。

4月中の流行において、もし、私たちが無症候の濃厚接触者にまで検査を行っていればもっと多くの感染者を発見していただろうと思います。いずれにせよ、確認した患者は氷山の一角にすぎません。

―― 無症候の濃厚接触者に検査する意味はあるか?

もちろんあります。全数把握ができなくとも、把握できる感染者が多ければ、それだけリスクを減らすことができるでしょう。とくに濃厚接触者は感染している可能性が高く、発症する2~3日前から感染力があることも分かってきたので、キャパシティがあるならば検査を行った方がよいと思います。

少し気になるのは、今回、小学生の集団感染を確認していること。今後、無症候の小児を発見することは増えるだろうと思います。症状もないのに隔離するのか、大人と同様に人権制限を行ってよいのか、本当に代替的な方策はないのか、十分に検討してから検査した方がよいと感じています。「感染者は隔離するのが当たり前」という風潮があるとすれば、感染症医としては抵抗があります。

―― 夏までには、国内での流行は封じ込められるか?

難しいと思います。いま、全国では、数十人程度の感染を毎日確認しており、患者数が下げ止まっている状況です。一定の人口があると感染症はリザーブされてしまうもの。日本がとっている現行の対策においては、これが定常状態なのかもしれません。そのうえで、ときどき北九州のような流行を認め、その都度、封じ込めることが繰り返されるのでしょう。

つまり、これが私たち社会のゴールと考えておいた方がよいと思います。くすぶっている状態で自粛を解除したわけですが、このまま消える生活様式には到達していませんでした。

とくに、大都市の「夜の街」において、見え隠れしながら流行が続いています。働く人と客とのあいだの密接さもありますが、接客スタッフを維持する(他店に引き抜かれない)ために店を閉めるのが難しいこともあるようです。

今後、多くの業種が営業を再開していきます。そうなれば、「夜の街」に限らず集団感染を認めることになるでしょう。やはり、都会で封じ込めることは、極めて難しいのだと思います。

理屈上はゼロとすることも可能です。それを達成している国や地域もあります。ただ、そのために犠牲となる経済がありますし、達成したとしても交易で成り立つ日本がコロナフリーを維持することは容易ではありません。

とすれば、今後の目標とは、患者数をゼロとすることではなく、大流行させないこと、死亡者をできるだけ出さないことではないでしょうか?

―― 冬に大きな流行が来ると予測する専門家が多い。

もともとコロナウイルスとは冬風邪の原因ですから、この新型ウイルスも冬に流行しやすい可能性はあります。今後、大きな流行があるとすれば、秋以降なのかもしれません。ただし、それを前提とせず、大流行させないことを目指すべきだと思います。

諸外国との比較により、早期発見と隔離、治療こそが爆発的流行の予防になるということが見えてきました。中国に近いこともあり、日本では流行への警戒感が住民にも医療現場にも早くからありました。これが欧米との違いを生んだと私は考えています。ロックダウンの厳格さが明暗を分けたのでなく、早期に流行を覚知できたかどうかが大きかったのです。

ですから、渡航者および渡航者と接点のある人に症状を認めたときは、今後も速やかに検査を受けるよう求めていくことが大切です。集団発生リスクのある医療・介護関係者においても、症状を認めるときには同様に求めた方がよいでしょう。

―― そうした取り組みをすれば、4月のような流行は回避されるか?

はい、回避することは可能です。ただ、もう少し細かく言うと、都会と地方では取り組みは異なると私は思います。というのも、都会では、ウイルスがリザーブされており、いつもくすぶっていると考えるべきです。一方、地方では、ウイルスを排除した状態を維持できます。

いま、私は東京で仕事をしていますが、感染管理の観点からは、いろいろリスクを感じる瞬間があり、やはり沖縄での暮らし方とは違うと感じています。人ごみが避けられませんし、公共物に触れる機会も多いです。つまり、マスクと手指衛生を常に意識する必要があります。

一方、私の自宅がある中城村(人口2万人)では、ウイルスはリザーブされないでしょう。持ち込まれたとしても、不特定多数へと広がりやすい環境にはありません。今後の分析を要しますが、北海道や沖縄での流行から読み取れる現象だと私は感じています。

―― 地方では、新型コロナへの感染対策が必要ないのか?

いいえ、そうではありません。地方でも、ウイルスが持ち込まれる可能性はあり、広げないための生活習慣が求められます。ただ、そもそも地方では、一定のソーシャル・ディスタンスのある暮らしなのですね。

もちろん、それでもクラスター対策が及ばず、流行することはあるでしょう。そのときは、封じ込めのための行動を住民全体に求める必要があります。その判断は速やかに下すことが大切です。3日待てば、それだけ封じ込めに時間がかかります。7日遅れれば、もはや流行が抑え込めなくなるかもしれません。

こうした対策が年に数回、都会ではとくに繰り返される可能性があります。ただ、これを地道に繰り返すことで大きな流行を回避することができるのです。

おそらく、急に予定を変えなければならないことが発生します。予定していた行事が延期になったり、旅行がキャンセルになったり…。これは都会でも、地方でも同じ。予測不能な「新型コロナウイルスのある世界」において、受け入れるべき最大のポイントかもしれません。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミック対策や地域医療構想の策定支援に従事してきたほか、現在は規制改革推進会議(内閣府)の専門委員として制度改革に取り組んでいる。臨床では、沖縄県立中部病院において感染症診療に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ、主として急性期や終末期の在宅医療に取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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