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食糧問題解決の鍵は畜産問題にある

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

米国の干ばつに端を発した穀物価格の世界的高騰は一時、シカゴ先物相場はトウモロコシ、大豆で史上最高を記録するまでになった。現在相場は一段落しているものの、不安定さはぬぐえず、先行きは不透明だ。さらに長期的には世界の穀物需給はひっ迫の度合いを高めている。

穀物価格の上昇は全量を輸入に依存する飼料価格の高騰となって畜産 農家を直撃する。同時に、肉や卵、乳製品を作るために大量の穀物を消費する構造が、今や10億人に迫ろうとしている世界の飢餓・栄養不足人口を一層の飢えに追いやることも確実だ。食糧問題解決の鍵は畜産問題にある。

工業型畜産の歩み

狭い畜舎に家畜を閉じ込め、高カロリー・高蛋白の背後い飼料を与えて、より効率よく、より多く、畜産物の生産をめざす工業型畜産が、世界の土地、大量の穀物、伝統的農業・家族農業、食の安全、自然環境を食いつぶしてきた。日本では1960年代、米国から肉どりでいえばハイライン、デカルブ、、豚のランドレースなど穀物で効率よく卵や肉を生産する近代畜種が輸入飼料穀物をセットで入ってきたことから始まる。

当時、近代畜産を志した農民は飼料穀物と畜種を一手に握る大手商社とその傘下の飼料会社に次々統合されていった。当時、このことをインテグレーションと呼んだ。畜産農民はゴールなき規模拡大競争に追い立てられて淘汰された。借金を背負い夜逃げや自殺した農民は数え切れない。1970年代初めの世界的な穀物価格の高騰は、そのまま飼料価格の高騰につながる。家畜は餌を絶やすわけにはいかない。大規模畜産では飼料代のつけがあっという間に何千万、何億円となる。畜産農民の死屍累々の上に、いまの少数の資本に系列化された日本畜産がある。

大規模畜産の構造

大量生産のシステムに乗った肉、卵、乳製品は値段が下がり、高根の花だった畜産品が一般労働者世帯で普通に食べられるようになった。自動車労働者が車を買えるフォードシステムが車の大量生産で新しい米国型資本主義を切り開いたと同様の仕組みが農業にもちこまれたのだ。

米国発の大量生産・大量消費・大量廃棄資本主義はカジノ資本主義へと進み、人びとの貧困化を環境・資源の壁に突き当たって衰退しつつある。非正規化された労働者にとって肉や乳製品は再び高根の花となり、輸入屑肉で値下げ競争に走る牛丼屋へ。

牛丼屋は労働者の賃金と屑肉を買いたたくことで一層の安値を追求。低賃金低農産物価格の古典的命題がいま蘇る。かつて自動車工場労働者は車を買えたが、現代の牛丼労働者は牛丼さえ食べられない。

高カロリーの穀物を与え、身体を動かすこともままならない狭いケージで大量密飼いする現代畜産は今三つの壁にぶつかる。恒常的な穀物不足による飼料値上がりとグローバル化する家畜伝染病の蔓延。口蹄疫、鳥インフルエンザ、牛海綿状脳症。そして貧困化の拡大による需要減と価格低落。

それはそのまま原発依存の世界の仕組みに行きつく。家畜が大量に穀物を消費する一方で世界の飢餓・栄養不足人口は確実に増大している。人はそんなに大量に肉や卵や乳製品を食べる必要はあるのか。肥満と飢餓、過剰と不足が同時に存在するシステムを暮らしの足元から変えることはできないのか。

畜産のこれから―農民技術の再生を

要は土とのつながりを取り戻すこと。すでに技術も方法論も出来上がっている。有畜複合、水田酪農、山地酪農、放牧養豚、林間放牧、草地養鶏。いずれも1950年代以来、農民と農民とともに歩いた研究者が共同でつくりあげてきた農法であり土地利用形態だ。

有畜複合とは水田・畑と小規模畜産を組み合わせた、この列島の零細だが豊かな農業生産力をフルに発揮させる経営形態。有機物の循環でも理想的。糞尿からメタンガスを自給する農家もいた。しかい、この試みは60年代以降の経済成長に合わせ国が進めた農業の大規模化・効率化・モノカルチャー化のなかで消滅した。

欧州生まれの酪農を日本の農業の中に根付かせる酪農家の苦闘から生まれたのが水田酪農と山地酪農。水田裏作の飼料と稲ワラで飼える小頭数の酪農。里山に牛を放し、山シバなど日本独自の飼料作物も発見。列島の農業風土に酪農を溶け込ませた。これも大規模化と輸入乳製品との競争の中で消滅した。

山と森と畜産を組み合わせたのが林間放牧や放牧養豚。林業との共存共栄の技術も完成している。これらの技術は土地利用や自然との共生では優れているが効率面で劣り、生産コストが高くて値段が高いため、輸入穀物で大量生産する大規模工業型畜産に道を譲った。こうした畜産を蘇らすには、生業として成り立つ支えが必要。日ごろの肉や卵を食べる量を減らし、減らした分を上乗せして、値段は少し高いが、自然と共生する畜産物買って食べることだ。ボールは食べる側にある。メタボが減って健康になり、国の医療費の引き下げにもつながる。

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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