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ロシアW杯11日目。こんな強い日本は初めて。ポーランド攻略はサイドから。イングランドの“追い風参考”

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
柴崎と乾の大活躍でヘタフェ、ベティスも大喜び。日本人のリーガ移籍の道が開けるかも(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

マッチレビューではなく大きな視点でのW杯レポートの10回目。観戦予定の64試合のうち大会11日目の3試合で見えたのは、本当に強くなった日本と、レバンドフスキが消える仕組み、楽勝イングランドの“参考試合”。

日本対セネガル(2-2)、この試合の最大の収穫はリードされた状況で2度追いついたこと。

日本に住んでいる人と比べて観戦数が少ないので恐縮だが、率直に言うと、「こんな強い日本は初めて見た」。逆境でこそチームの本当の強さが出る。コロンビア戦で勝ち越してからの逃げ切り方にも、今までと違う日本を感じたが、このセネガル戦で確信した。日本のレベルは1つ上がった。

セネガルの先制点の取られ方は、誰もが指摘していると思うが、セオリーに反するミスが重なった。

第1に、外にクリアせず中に入れたこと、第2に、あんな低い弾道、膝をつくほどのシュートなのにパンチングにいったこと。こういう信じられないミスが出るところは、“今まで通り”。だが、ここからが違った。普通、フィジカル上位でスペースを与えると脅威の相手に先制されると、失点の確率はぐっと高まる。

案の定、セネガルはラインを下げてリズムを落としカウンターの態勢に入った。

後ろでゆっくりパスを回されると、失点を挽回せざるを得ない日本は前に出るしかない。日本のプレスを感じるとセネガルはGKへバックパスし、それをGKは前線へ大きく蹴る。普通は、そんなアバウトなロングキックは脅威にならないが、日本のラインが上がっていて後方にスペースがあり、セネガルのスピードスターたちが待ち構えている状況なら、十分武器になる。彼らなら日本の選手を弾き飛ばして突進できるし、ファウルをもらったりCKになれば圧倒的な高さも生きる。

プラン外&逆境を跳ね返してこそ“強さ”

凡ミスで1-0になった時点で、日本の当初のプラン、昨日の韓国、スウェーデンにも見られたコンパクトに引いてカウンター、は水の泡。だが、そんな最悪のシナリオの下、奪った1点は0-0での1点とは価値が違う。プランを台無しにされた上での同点ゴールは、プランが的中しての先制点とは重みが違う。

もちろん、プランを台無しにされない=凡ミスをしないのが「最強」であり、日本の場合は「ベスト」ではなく「ベターの強さ」ではある。とはいえ、あのまま崩れて追加点、というシナリオを覆したことは高く評価できる。セネガルの得意な形に持ち込まれながらも、守備で粘りつつ攻撃の手も休めない。それは攻守両面で充実していないとできない。しかも、それを2度もやったのだから……。

セネガルの2点目は、まあそんなこともあるだろうな、という取られ方だった。

ペナルティエリアにボールを送り込まれる寸前の、酒井の足を開いたどっしりとした構え方は、あれでは横への対応が遅れるのでは、と気になったが、日本のミスというよりも相手のプレーが的中しての結果だからしょうがない。

その前に大迫と乾の2度のチャンスがあり、完全に日本のペースだったのに失点となると「なぜだ?」となって逆に落ち込む可能性もあったが、そもそも日本ペースになっていたことがより重要であって、そのペースを維持したまま“必然の結果”として同点ゴールが生まれた。

この2度の同点劇を見て、コロンビア戦後の反応にあったような“日本はラッキーだった”という見方をする人はいないだろう。内容ではコロンビア戦よりもこの試合の方がはるかに評価できる。

レバンドフスキを孤立させるには?

ポーランド対コロンビア(0-3)では、コロンビアに対しては「やはりこのグループで最強だった」という言及だけで、あとは日本の次の対戦相手ポーランドについて書こう。

ポーランドの2試合を見て、“どうした、レバンドフスキ?”と誰でも思うのではないか。

レバンドフスキが孤立しボールが入らない。世界有数のCFもボールが無ければ怖くも何ともない。システム上、ポーランドは3トップとなっている。だが、その3トップと後ろの8人が分断してしまっている。3バック+2ボランチで守っている間はサイドアタックという選択肢があり、サイドからのセンタリングは脅威になり得る。

しかし、相手にサイド攻撃を仕掛けられてウイングが押し込まれ5バックで守っている形になると、単純な裏へのロングパスしかレバンドフスキへの接点が無くなる。こんな時2ボランチが3トップへの接点となれればいいのだが、彼らは守ることはできても“作る”ことはできない。

引き分けでもグループステージ突破の日本のプランは、セネガル戦と同じ引いてカウンター、となるのだろう。

だが、カウンターの狙い目はサイドとすべきであり、セネガル戦の1-1後に見せたような、マイボール時にはボール支配に時間をかけるような戦い方も併用すべきだろう。日本ボールを積極的に追い続けられるほど敗退済みのポーランドのモラルは高くない可能性があるからだ。

パナマの空中戦が悪過ぎた

イングランド対パナマ(6-1)は力の差があり過ぎた。特に空中戦。イングランドにとって攻略法とはパナマゴール前にボールを上げるだけで良かった。パナマの選手にとってマークとは相手にしがみつくことでPKの危険と背中合わせ。凝ったトリックプレーをしなくても容易にマークを見失っていて、セカンドボールではイングランドの選手はほぼフリーでシュートができていた。

得点のためにプレーを構築する必要がなかったことで、この試合は言わば“追い風参考記録”のようなもの。強さの評価は次のベルギー戦にお預けとしたい。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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