台風15号が非常に強い勢力で小笠原諸島へ テレビで気象衛星画像動画の初放送は45年前の10月10日
3台風15号の北上
マリアナ諸島の大型の台風15号が北西へ進んでいます(図1)。
台風は、台風発達の目安とされる海面水温27度を上回る海面水温29度という海域を進みますので、発達しながら次第に進路を北よりに変えて、10月12日(木)には非常に強い勢力で小笠原近海に達する見通しです。
小笠原諸島では最新の台風情報入手に努め、警戒してください。
静止気象衛星「ひまわり」からみると、台風15号は取り巻く雲バンドや眼の形から、10月10日0時の中心気圧は980ヘクトパスカル、最大風速30メートル、最大瞬間風速45メートルと推定されています(図2)。
地球の自転と同じ周回周期をもっている静止気象衛星は、地球上からは赤道上空に静止してみえます。
このため、時々刻々と観測場所が変わる他の衛星と違い、連続して同じ場所を観測することができることから、動画を作ることが可能です。
一枚の画像からでも台風に関する多くの情報が得られますが、動画にすると細かい動きや雲の盛衰がよくわかりますが、静止気象衛星「ひまわり」が最初に打ち上げられたころは、コンピュータの性能が足りずに、動画にすること自体が大変なことでした。
しかし、現在では、コンピュータの性能が飛躍的に向上し、気象衛星データの高度な利用によって、台風予報精度は飛躍的に向上しています。
宇宙に花開けと命名「ひまわり」
昭和50年(1975)9月9日に人工衛星打ち上げ技術習得用の衛星が打ち上げられ、宇宙開発事業団(現在の宇宙航空研究開発機構JAXA)は、菊の節句にちなみ愛称を「きく」としました。
その後、昭和51年(1976)の電離層観測衛星「うめ」、昭和52年(1977)の気象衛星「ひまわり」など、愛称が花の人名(ひらがな)でつけられています。
これは、「宇宙に花開け」との願いをこめてですが、気象に密接な関係がある太陽とイメージが重なる「ひまわり」は、今では国民生活にすっかり定着しています。
「ひまわり1号」が最初に画像を送ってきたのは、昭和52年(1977)9月8日12時の可視画像で、沖縄の南海上に台風9号の雲が見えます(図3)。
台風9号は、その後、勢力を落とさずに9日23時前に沖永良部島を直撃、907.3ヘクトパスカルという、日本最低気圧を観測したことから、気象庁は「沖永良部台風」と命名しました。
その後、台風9号は北上して九州上陸という予報に反して東シナ海を西へ進み、東シナ海で漁船が多数台風に巻きこまれました。
これは、日本東方の太平洋高気圧が急速に勢力を強め、西に張り出してきたためで、このとき「ひまわり1号」が運用していればとの指摘がありました。
このため、「ひまわり1号」の機能チェック作業などのスケジュールが前倒しとなり、予定より早い11月4日に宇宙開発事業団から気象庁に運用が移管、翌年4月6日から本運用となりました。
現在、「ひまわり9号」が運用中であり、令和4年(2022)12月13日に余裕をもって引退した「ひまわり8号」が待機中という2機体制になっています。
これは、気象衛星の重要性が増し、長期間の欠測を避けるための措置です。
テレビで気象衛星動画
テレビやインターネットなどで気象衛星の動画アニメーションを、どこが始めたのかということについては諸説あります。
ただ、テレビ番組の中ではっきり取り上げたのは、今から45年前の昭和53年(1978)10月10日にTBSテレビで放送された「天気予報総点検」です。
「ひまわり」が打ち上げられてから2年目のことです。
当時、10月10日は昭和39年(1964)の東京オリンピック開会日を記念した体育の日という祝日でした(体育の日は10月第2月曜日のスポーツの日の前身)。
TBSテレビは、7時から8時10分までのJNN系列特別番組として放送した「天気予報総点検」の中で、3か月分90枚(一日一枚)の紙に焼き付けた雲画像写真を使い、パラパラ漫画の手法で作った動画を放送しました(図4)。
当時は、90枚の画像写真を16ミリフィルムで一枚一枚コマ取りして作成したのですが、日本列島の位置をきちんと合わせるのに苦労し、雲画像写真に穴をあけて台に固定して撮影したといわれています。
そして、動きがギグシャクしないように、一枚から次の一枚をディゾルブ(溶融)してつなぐという工夫をしています。
TBSテレビが、この番組を作ろうとした発想は、この年の夏の太平洋上に並んだ3つの台風の動きをわかりやすくみせようということだったといわれています(タイトル画像)。
番組担当ディレクターの一人であった柴野浩一郎さんら番組スタッフが、東京都清瀬市にある気象庁の付属機関である気象衛星センターを訪ねたときの話が気象新聞に載っています。
昭和53年(1978)の台風7・8・9号
昭和53年(1978)は、7月26日3時に南シナ海で台風9号が発生し、天気図上には右から(東側から)台風7号、8号、9号と並びました(タイトル画像)。
台風が3つという状態は、台風9号が華南に上陸して熱帯低気圧に変わった7月30日15時まで続き、その後は、台風7号と台風8号がともに日本へ接近してきました。
7月31日は、東シナ海の台風8号が九州へ、小笠原諸島の東の台風7号が関東へ接近する予報でした(図5)。
この時の衛星画像をみると、小笠原諸島近海の台風7号の雲はコンパクトな円形をしており、東シナ海の台風8号の雲は大きな楕円形で、特に九州近海には発達した積乱雲が見られます(図6)。
一枚の画像でも、多くの情報が得られるのですが、これが動画になると、細かい雲の動きや盛衰までがはっきりとわかったのです。
テレビに映し出された動画は、多くの国民に新しい時代の天気予報を強く印象づけました。
気象衛星画像の動画
TBSテレビの気象衛星画像の動画は好評で、NHKは昭和55年(1980)4月から毎日8枚の画像を使った動画を放送するなど、各局が追随しています。
気象庁も、TBSテレビの放送によって気象衛星画像利用の新しい可能性を感じ、動画利用を意識した観測や解析に変わっています。
それほどインパクトのあった気象衛星画像の動画でした。
その後、コンピュータの飛躍的な発展もあり、気象衛星画像の動画での利用はあたりまえになっています。
そして、気象庁からテレビ各局へ紙に焼いた気象衛星画像写真を届けるバイク便があったことや、その写真を一枚一枚コマ取りするという苦労をしながら動画にしていたことなどは、昔話になっています。
タイトル画像の出典:デジタル台風、国立情報学研究所ホームページ。
図1、図2の出典:ウェザーマップ提供。
図3、図4、図5、図6の出典:饒村曜(昭和61年(1986))、台風物語、日本気象協会。