ビジネスにおける「言い訳依存症」の怖さ
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。そのため、現場の人たちに目標を達成させるための行動指標を宣言してもらい、やり切ってもらうことをよくします。ところが「やり切る」というのは、簡単なようで、意外と簡単ではありません。自分で宣言したにもかかわらず、いろいろな言い訳をする人がビジネスの世界にたくさんいます。
幼い子どもならともかく、30歳、40歳、50歳になっても、「それは言い訳でしょう」と指摘したくなるような発言をする人は多い。「たまに言い訳ぐらいしてもいいではないか」と思う人もいるでしょうが、言い訳を繰り返していると、ビジネスにおいて以下3つの問題が出てきます。
●「習慣化」する
●「思考」が歪む
●「マネジメントサイクル」を回すことができなくなる
言い訳をする人は、残念ながら「言い訳をしている」という自覚が乏しく「習慣化」する傾向があります。タバコやお酒に依存している人は自己認識があるでしょうが、「言い訳」常習者にはその認識がなく、問題を大きくする要因にもなっています。
また「言い訳」を繰り返していると、思考が歪んでくる、というのも無視できない問題です。変な姿勢でテレビを観ていると体が歪んできます。それと同じように、言い訳ばかりをしていると、まっすぐであったはずの思考も歪んでくるのです。
ここでは「認知的不協和」という言葉を使って解説していきましょう。たとえばXさんがやると宣言していた「作業A」が期限内にできなかったとします。その理由は「時間がなかったから」だとXさんは言います。このXさんの発言には3つのパターンがあることを覚えておきましょう。
(1)本当にやる時間がなかった
(2)よくよく考えると時間はあるのだが、時間がないと思い込んでいた
(3)「時間がないから、できなかった」という発言が習慣化している
当然、問題は(3)です。具体的にプロセスを見ていきましょう。
● Xさんは「作業A」を1週間後までに終えると宣言する
● Xさんは「作業A」にかかる時間が30分だと認識している
● しかしXさんは1週間経過しても「作業A」を終えられていない
● 1週間の業務を棚卸しすると「作業A」よりも重要度の低い作業のほうが多いという事実をXさん自身が認識している
● Xさんが「作業A」を1週間でできなかった理由は「時間がなかったから」だと認識している
このように、Xさん自身が認識していること、それぞれが矛盾しているので「認知的不協和」を起こしている、と他者は受け止めます。「時間があるのは認識しているのに、時間がなかったと口で言っている」からです。
「作業Aは30分ぐらいで終わると、自分ではわかってるよね? この1週間、その30分ぐらいの時間をとることができたよね? だから『時間がなかったからできなかった』というのは言い訳だよね?」
と他者から尋ねられ、
「ああ、確かにそうですね。申し訳ありません。言い訳をしてしまいました」
と素直に自分の発言を見直すことができれば、思考が歪んでいることはありません。「素直」で「誠実」であると言えます。ところが、
「30分ぐらい時間を作れないのか、と言われれば、確かに作ることはできたかもしれません。しかしですね、私はこの『作業Aをしろ』と言われたときから思ってたんです。これって本当に私がやるべきことなんだろうかって」
このように反論してきたら、「言い訳」依存症です。思考が歪んでしまっています。最初の言い訳を、完璧な理屈で論破されてしまったため、別の言い訳を持ち出して自己正当化しようと試みているからです。当然、このような「言い訳」をされると、聞いているほうは呆れてきます。
「あのね。この作業Aは、あなた自身がやると宣言したことですよ。まるで、誰かに押し付けられたかのような発言はよしてもらいたい。それに、最初は『時間がなかったからできなかった』と言ったではありませんか。その話はどうなったんですか」
このように理詰めで反論されたらXさんは逆ギレするかもしれません。思考が歪んでいる人は「一貫性の法則」が働きます。自分の言動は一貫して正当化したくなるという強いバイアスがかかるからです。
「そんなことは知りませんよ! 時間がなかったから時間がなかった、と申し上げただけです。ああ、そうですか、私が悪いんですか。わかりました。そうやって、何でもかんでも私のせいにすればいいじゃないですか。それで丸くおさまるんなら、私を悪者にすればいいでしょう!」
最悪の場合、このような発言を引き出してしまいます。しかし、幼い子ども同士ならともかく、ビジネスの世界では、ほとんどこのような問答に発展しません。お互い大人だからです。
Xさんの「時間がないからできなかった」という言い訳を聞いても、他者が「また言い訳をしてる」と思うだけで大抵は追及しないものです。追及をしないものですからXさんはますます「言い訳」に依存してしまうのです。そうすると、Xさんは「仮説検証」という論理的思考能力が欠けていき、何らかの目標を達成する、もしくは、何らかの問題を解決するための発想、手順、実行という部分で大きな問題を抱えることになります。思考が歪んでいるため、「どうしたらうまくいくのか」「どうしたらうまくいかないのか」を検証できない人になっていきます。
年齢を重ね、Xさんが中間管理職になると、長年積み重ねてきた「思考の歪み」が組織運営をも歪ませることになっていきます。私たちコンサルタントが現場に入り、その様子を目の当たりにして指摘しても、Xさんは「どこ吹く風」です。まるで理屈に通らないような発言を連発します。会話のキャッチボールができません。これまで周囲の人たちは追及してこなかったでしょうが、私たちコンサルタントはそれが仕事ですので、当然、理詰めでその発言の裏付けをとっていきます。
コンサルタントも大人ですから、相手のメンツを潰すような言い方はしませんが、相手が、
「外部のコンサルタントさんにはわからないんですよ。うちの業界は特殊なんで」
「なんでもかんでも論理的に考えればいいってもんじゃないでしょう」
「年寄りの言うことは聞くもんです。あなたみたいな若い人に何がわかるっていうんですか」
といった「言い訳」さえも放棄した「逆上型の反論」をしてくると、私どもは「この方では組織運営が難しい」と判断するしか道がなくなります。正しいPDCAサイクルがまわらず、組織運営が行き詰まっていくからです。
たかが「言い訳」、されど「言い訳」です。ビジネスにおいては、「言い訳なんかするな!」と厳しく指摘してくれる人はそう多くないものです。自分自身で律していきたいですね。