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Kh-22/Kh-32超音速巡航ミサイルの不発弾頭をウクライナ北東スーミ州で回収、爆破処理

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ警察よりスーミ州で発見されたKh-22/Kh-32巡航ミサイルの弾頭

 1月8日、ウクライナのスーミ州の警察は不発となって着弾したロシア軍のKh-22/Kh-32超音速巡航ミサイルを発見し爆破処理したと発表しました。同日の攻撃でロシア軍が攻撃で使用した8発のKh-22/Kh-32超音速巡航ミサイルのうちの1発だと思われます。

Національна поліція України

 なおウクライナ警察の公式発表では「Kh-32巡航ミサイル」「弾頭の重さはほぼ1トン」とあり混乱が見られます。Kh-22の改良型がKh-32なのですが、弾頭重量を軽くした分だけ射程を伸ばしており、Kh-22(弾頭重量1トン)とKh-32(弾頭重量500kg)という関係です。公式発表では二つが混同された説明でどちらか特定できません。

ウクライナ警察よりスーミ州で発見されたKh-22/Kh-32巡航ミサイルの弾頭
ウクライナ警察よりスーミ州で発見されたKh-22/Kh-32巡航ミサイルの弾頭

ウクライナ警察よりスーミ州で発見されたKh-22/Kh-32巡航ミサイルの弾頭
ウクライナ警察よりスーミ州で発見されたKh-22/Kh-32巡航ミサイルの弾頭

 Kh-22/Kh-32巡航ミサイルの弾頭です。斜めにカットされた断面に窪みがありますが、これは成形炸薬のライナーになります。起爆するとライナー部分が圧縮され超高圧で融解しながら前方に打ち出される金属噴流(メタルジェット)となります。これは本来は対艦弾頭です。

Kh-22/Kh-32巡航ミサイルの弾頭構造の推定(筆者作図)
Kh-22/Kh-32巡航ミサイルの弾頭構造の推定(筆者作図)

 ミサイル自身が斜めの角度で急降下突入すると、斜めに取り付けられている成形炸薬のライナーは真下の方向を向きます。艦船の甲板を上から下に最短距離でメタルジェットで撃ち抜き、超音速で突入したミサイル自身の速度が合わさって横方向に船体を切り裂きます。

 大型の対艦弾頭に成形炸薬を採用したのは第二次世界大戦でのドイツのミステル(親子式遠隔操作自爆突入機)と日本の桜弾(四式重爆撃機に搭載した特攻兵器)があり、戦後のソ連が初期の対艦ミサイルに幾つか採用した例がありますが、直ぐに廃れた形式です。成形炸薬は対艦用にはあまり効果的ではないと評価されたのでしょう。

 Kh-22は1962年に運用開始された古い設計の対艦攻撃用の超音速巡航ミサイルです。成形炸薬弾頭も液体燃料ロケットエンジンも対艦ミサイルとしては今や主流から外れた古い旧式の設計の兵器です。また本来が対艦ミサイルなので対地攻撃では慣性誘導しか使えず、命中精度は著しく悪くなってしまいます。

 ただし精密誘導を最初から目的としない都市部への無差別爆撃として使用された場合は脅威ですし、弾頭重量1トンは一般的な巡航ミサイルの弾頭の2倍の重量となる大きな破壊力を持ちます。そして最大速度マッハ4は短距離弾道ミサイルに近い高速性で、パトリオットのような弾道ミサイル防衛システムでないと満足に迎撃できない問題があります。

関連:ウクライナ軍がKh-22巡航ミサイルの撃墜に成功(2022年5月31日)

動画:ДСНС України (2022年6月8日)

ウクライナ非常事態庁よりKh-22巡航ミサイルの弾頭(2022年6月8日、ミコライウ)
ウクライナ非常事態庁よりKh-22巡航ミサイルの弾頭(2022年6月8日、ミコライウ)

ウクライナ非常事態庁よりKh-22巡航ミサイルの弾頭(2022年6月8日、ミコライウ)
ウクライナ非常事態庁よりKh-22巡航ミサイルの弾頭(2022年6月8日、ミコライウ)

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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