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高橋大輔の代表辞退会見全文「若手のレベルアップを願う気持ちと、自分が活躍したいという気持ちは…」

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
世界選手権代表辞退について述べる高橋大輔(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 全日本フィギュアスケート選手権最終日。世界選手権代表に選ばれた選手たちの会見が終わると、日本スケート連盟の司会者から「高橋大輔選手から、世界選手権代表辞退について皆さんに話したいということで、この後、高橋選手が来ます」とアナウンスがあった。

 高橋はすでに全日本選手権男子シングル1、2、3位選手による会見を終えており、会見前にはミックスゾーンでの対応もしていた。それだけに、予定にはなかった会見をエキストラで開くことには、驚きを感じた。

 おそらく、コメントを紙で配布することで済ますことも可能だった中で、自分の口からしっかり説明したいという思い、後輩たちへの思いやりが伝わってきた。報道陣の前にわざわざ再び現れて一から説明する姿に、高橋選手の人となりが出ていた。会見でのコメントそのものにも、彼一流の潔さがあった。説明は分かりやすく誠実で、臓腑にスッと落ちた。

 以下に世界選手権辞退についての会見全文を紹介する。

■「世界と戦う覚悟を持ちきれなかった」

「やはり、気持ちとしては、もし選ばれるのであれば行きたい気持ちはありますが、世界と戦う覚悟を持ちきれなかったというところもすごく大きな(辞退の)理由です。

 今シーズンは、現役復帰すると決めたのも遅かったですし、練習を始めたのもすごくギリギリなところで、この全日本選手権でどこまでいけるかをまったく想像できない中での戦いでした。

 現役復帰したときに世界選手権のことは頭にありませんでした。それにやはり、僕自身もトップで戦ってきて、世界で戦うことの難しさや精神力の必要性を経験しているうえで、その覚悟を持てないのに、選ばれたからと言って出るべきではないと考えました。

 そして、僕もいろいろと世界と戦ってきて、他の国の方たちと試合で一緒の空気の中で過ごすことで成長できる部分、経験できる部分があることを知っています。

 僕自身、32歳でこの先に希望があるかというと、正直、ないと思います(苦笑)。その中で若手というか、今、日本を引っ張っている選手たちが、世界選手権という一番大きなプレッシャーを感じる大会で経験をたくさん積むことによって、今後、日本のスケートが盛り上がることにつながる。そのために若い選手がその舞台を経験することの方が大きいと考えたので、今回、辞退させていただきました」

■「まずは、来季をどうしようかと考えようと思います」

 冒頭で辞退の理由を述べたのに続き、質疑応答となった。

Q:今回は辞退ですが、来年以降にチャレンジする気持ちはありますか?

 高橋はドっと苦笑いを浮かべた。カメラのシャッター音が鳴り響いた。

「そうっすね。すごく考えるところではあります。(というのは、)今回の世界選手権は埼玉であるじゃないですか。埼玉での世界選手権といえば5年前にあって、本当なら出たかったんですけど、出られなかった。(※注:ソチ五輪から1カ月後の14年3月、右膝の負傷により欠場)

 だから、今回の現役復帰が今年じゃなく2年前に決断していたら、もしかしたら狙っているかもしれないし、覚悟を持って挑んでいたかもしれません。

 きょうのフリーみたいな演技では絶対に勝てないし、SPでも4回転を入れていないので勝てるというところはないのですが、それでも、2年前に決めていたら狙ったかもという意味では、もし来年も続けるとなったら、狙うかもしれません。

 でも、(島田)高志郎もそうですし、ジュニアもどんどん成長してくるので、普通に世界を狙える位置にはいないと思います。それでも、もし来年続けているとしたら、気持ちだけは世界を目指して狙うかもしれないですね。でも、わかんないです」

Q:後進に代表を譲るという決断は高橋選手の優しさだと思うが、譲らなくても良いのでは?

 この質問に対して高橋はしばし考えてから回答した。

「うーん。でもやっぱり、僕の覚悟は、世界と戦うプレッシャーに打ち勝てるほどのものではないと思います。今、自分にそこまでの自信がないのも大きな部分です。それに、さきほども言いましたが、やはり、世界選手権でしか経験できない空気感があると思うんですね。

 僕はフィギュアスケートが好きで、それを素直に言えます。今、(後進の選手が)どんどん続いて成長して欲しいという気持ちと、自分が頑張って勝ち取りたいという気持ちは同じくらいなんです。後輩たちが成長して羽生君を抜かしていく。昌磨を抜かしていく。そんなふうにこれから出てくる若い人たちがどんどん抜かしてレベルアップして欲しい気持ちが、自分が活躍したいという気持ちと同じくらいあります。

 そのうえで冷静に判断して、僕じゃないだろう、と。若い選手たちがいろいろな経験をすることが大事だと思います」

Q:チャレンジ大会などB級大会に出る意思はありますか?

「とりあえず今はもう何も考えていないですね。来シーズンをどうしようかというところをまず考えようかなと思っています。今シーズン、試合に出ることはもうないと思います」

 司会者が「大丈夫ですね、本人の気持ちが皆さんに伝わったと思います」と言うと、会見場全体に柔らかい空気が漂った。

 高橋が立ち上がる。

「ありがとうございました!」

 力強い声を響かせながら出口へ向かう。自分の気持ちにどこまでも潔いその表情を切り取るべく、カメラのフラッシュが無数に光った。

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サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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