【フィギュアスケート】新しい高橋大輔のいる全日本選手権が、始まる
軽やかなジャンプを次々と見せた。指先の動き一つで感情の綾を伝える表現力は以前と変わらず際立っていた。高橋大輔が5年ぶりに全日本フィギュアスケート選手権に帰ってきた。
12月20日、大阪・東和薬品ラクタブドームでの公式練習。開幕を翌日に控え、観客のいない、ひんやりとしたリンクに上下黒の練習着をまとった高橋が姿を表すと、ズラリと並んだカメラが一斉にレンズを向けた。3連覇の懸かる宇野昌磨や、2年連続2位の田中刑事、初の表彰台を狙う友野一希、上位を目指す山本草太らと同じグループとあって会場には緊張感が漂っていたが、高橋が醸し出す空気にはどこか丸みがあった。
曲をかけての練習はグループ内の6人中5番目。十分に体の温まった状態でショートプログラムの「ザ・シェルタリング・スカイ」を流し、一つ一つのジャンプを丁寧に確認しながら跳んだ。トリプルアクセルや3回転ルッツ、コンビネーションジャンプなどをスムーズに決めた。
中でも最も目を引いたのは、曲の後に跳んだ4回転トーループだ。踏み切りから回転、着氷まですべてが高品質のパッケージ。それは練習後に高橋自身が「さっき動画で見たんですけど、めっちゃ良くて。自分でもびっくりしています」と屈託のない笑みを浮かべるほどだった。高橋は、驚きの進化を遂げていた。
■進化したジャンプ
「以前に跳んでいた4回転よりもうまくなっていると思います。基本的にジャンプ自体のスキルは、4、5年前より全体的に上がっているんじゃないかな」
その要因は何か。高橋は、「どうなんでしょうね」と笑みを浮かべながら、いくつかの理由を挙げていった。
最初に語ったのは、「シーズンをスタートしたときに、一からジャンプを作り直そうという気持ちでスタートしたこと」である。
二つ目に挙げたのは、一つ目とも関連しているが「元々持っている自分の感覚よりも、今の自分の体にどれが合っているかを常に考えながら練習してきたこと」。これには「陸でダンスをするなど、いろいろなことを経験していく中で、自分の体はどういうものなのかが、4年前より一層、分かってきている」という補足説明もあった。
そして。もう一つは精神面。一度現役を退いてからのカムバックということで、「ストレスフリーというのがあるかもしれない」と加えた。
ちなみに、4回転ジャンプに関しては「やっているのはトーループだけ」で、入れるとしても「1つだけ」と言いながら、サラッとこんなことも明かしていた。
「トーループは以前は苦手で避けていました。左足をすぐ痛めて軽い捻挫になってしまうくらいうまくなかったのですが、(復帰後に)やってみたらトーをつくときの負荷が前より少なくなっていた。これはもしかしたらいけるかもと思って練習したら、結果的に成功することができました」
現役を退いていた時間が、“ニュー大輔”を育てていた。
■刺激を受ける選手たち
高橋と同じグループで公式練習を行った選手たちは、それぞれが大いに刺激を受けていた。
田中刑事は「いつもと違う雰囲気の中で滑ることが出来ました。全日本が緊張する舞台というのは変わらないのですが、(高橋がいることで)少しだけワクワクする気持ちも混じっているのかなと思って滑っていました」と言った。
西日本選手権ですでに一度、同じリンクに立った友野一希はこのように語った。
「練習を見た限り、西日本のときよりもさらに仕上がっているように見えました。練習していて楽しいというか、やる気が出ました。目標としている選手の一人。実際に見て吸収していきたいと思います」
山本草太も「アップの時から同じ会場にいるんだなと実感しました。スケートも本当に素晴らしいので、僕も頑張らなくてはならないという気持ちになりました」と表情を引き締める。
「このところ良い演技ができていないので」という宇野昌磨は「(復帰した高橋に)意識を向けることができるくらい余裕をもっていければいいと思う」と話した。
■「頑張ってきたことを本番で」
高橋は言う。
「現役復帰してからここまで、今考えるとあっという間だった。このなみはやドーム(東和薬品ラクタブドーム)は全日本でも何度かやっていて良い印象。復帰の全日本がこのなみはやで出来るのはうれしいです」
ショートプログラムでは4回転を入れる予定はないが、フリーではスタートポジションに立つ直前まで自分の状況を見極めながら4回転トーループを入れるかどうかを決めるというのが今のプランだ。
「今シーズン頑張ってきたことをすべて本番で出せればな、と思います。それで結果がついてくればいい」
5年ぶり13度目の全日本選手権で見られるのは新しい高橋大輔。軽やかで温かみのある滑りに期待したい。