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無敵だったヘビー級チャンプーータイソンが発した重い言葉

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:REX/アフロ)

 当初7月20日に予定されていたマイク・タイソンvs. ジェイク・ポールの2分×8ラウンドは、11月15日に再セットされた。Netflixが生中継するそうだ。

 確かに全盛期は図抜けた存在だった、”IRON MIKE”だが、果たして58歳となった今日、まともに戦えるのか?

 「ポールを葬ってやる」と繰り返しているが、およそ1年前の発言から、筆者はタイソンが戦う理由が見えたように感じる。

写真:REX/アフロ

 伝説の男、タイソンは昨夏、ポッドキャストに出演し、ジョー・ローガンの質問に答えるなか、「ボクサーになりたい」と語った息子――アミール・タイソンに釘を刺した。この時のタイソンは、少しヒステリックだった。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 元統一ヘビー級チャンピオンは言った。

 「16歳の長男がプロボクサーになりたいってさ。でも、俺は応じたよ。『止めておけ、お前は私立学校に通っていた子だ! ボクサーになるなんて無理だ。ヨーロッパに旅行に行ったり、世界中を旅してきた。そんな暮らしをしていた男は、戦闘機にはなれないんだよ。俺みたいな男と戦いたいか? 野獣と戦えるのか? 自分の子供たちにそんな経験はさせたくない。非常に屈辱的なことだ。ボクシングってのは、何も持たないヤツがやるものなんだ』ってな。

写真:ロイター/アフロ

 この競技は、多くの犠牲――痛み、苦しみのうえに成り立つ。子供たちがそんなことをしなくても済むように、俺はリングの上でパンチを受けてきた。息子の通う高校で、中流階級の子供たちが自分のやりたいことをやっている姿を目にする。ボクシングってのは、他者を圧倒し、頂を目指すことだ。俺は、息子たちにそんなプレッシャーをかけたくない」

写真:Splash/アフロ

 ニューヨーク、ブルックリンの貧民街で生まれたタイソンは、当初、気弱な児童で、小学校低学年の頃からかけねばならなかった眼鏡を笑われ、苛めの対象となる。鳩を飼うことが唯一の楽しみだった。

 ある時、愛した鳩をイジメっ子に殺され、怒りに震えた拳が爆発力を持っていることに気付く。自らのパンチが当たれば、どんな相手も簡単に倒せることを理解したのだ。以来、暴力の道に進んだタイソンは9歳から12歳までの間に51回も逮捕される。ボクシングの手解きを受けたのは少年院においてだった。

 「何も無かった」タイソンは怒りを武器に、時代の寵児となったのだ。

写真:ロイター/アフロ

 元統一ヘビーチャンプが毛嫌いするジェイク・ポールは、YouTuberとして財を成したが故にリングに上がっている。”IRON MIKE”は、ボクサーとは、いかなる職業であるかを、ポールに教えてやりたいのだろう。

 さて、試合は本当に行われるのか。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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