ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン2015が今年も東京で開催されますが、そこに期待すること
ワールド・マーケティング・サミットが昨年に続き、2015年も10月に東京で開催されます。「マーケティングで世界をより良く」のスローガンを掲げ、マーケティングの巨匠フィリップ・コトラー教授が設立したものです。コトラー教授は昨今「マーケティング4.0」を提唱して注目を集めていますので、おそらく今回のサミットでも、「4.0」が取り沙汰されるのではないかと私は考えます。
「マーケティング4.0」とは、Self-Actualization=自己実現を喚起するマーケティングの考え方・あり方です。製品志向だった「1.0」、消費者思考だった「2.0」、価値志向だった「3.0」よりも、さらに上位概念の欲求を満たすことが、今後のマーケテイングに不可欠な志向である、ということでしょう。これは「マズローの欲求5段階説」から引用されていると考えるとわかりやすい。物質的な豊かさからの脱却を考えた場合、この「4.0」の方向性は自然な流れなのかもしれません。
ただ、現場でコンサルティングをしている身からすると、いつもこの学術的な側面から出てくる「マーケティング」という言葉の定義に違和感を覚えます。しっくりとこないのです。
コトラー本をはじめ、多くのアカデミックなマーケティング本に書かれている内容は「一般消費財が対象となるマーケティング」に著しく偏重しています。たとえば車であったり、住宅であったり、お菓子、ビール、洋服、コーヒー、スマホのアプリ、ネットサービス……など、多くの一般消費者になじみのある商材が対象なのです。
マーケティングをわかりやすく解説するモデルとしてはいいのです。車や住宅、家電製品、コーヒーチェーン店といったものなら、マーケティング理論を構成する4つの戦略――「プロダクト戦略」「顧客・チャネル戦略」「プライス戦略」「プロモーション戦略」をうまく表現できるからです。
しかし、鋼材の表面処理をする下請けの町工場であったり、プラスチック製品を成形する工具のメーカーだったり、製紙原料の問屋だったり……は、顧客ニーズに合わせて取扱い製品を自在にカスタマイズしたり、ネットやSNS、テレビなどの広告、パブリシティなどのプロモーション戦略をとることはできません。価格もほとんど変えられませんし、売る先もそう簡単に変更できません。
こういった企業も当然マーケティングは重要ですが、起業時か、事業を大きく転換させるときでない限り本気で考えようがありません。まさに「机上の空論」なのです。現場で強く求められるのは「マーケティング」ではなく「セリング」です。商材も、価格も、顧客像も、売る方法も、すべてほとんど変更しづらい。現場でできることは、お客様との泥臭い関係構築からはじまる昔ながらの営業行為なのです。ここに新しいも古いもありません。
部品や素材などの中間財を扱うメーカーや商社や代理店、問屋、物流……など、日本のみならず、世の中には「一般消費財」以外の商材を扱う企業のほうが圧倒的に多い。そういう現場感覚を持っている私からすると、そういう視点に立ったワールド・マーケティング・サミットも見てみたいなと思っています。