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いま売られている4Kテレビで、『真田丸』を4Kで観ることはできない

境治コピーライター/メディアコンサルタント
テレビを取り巻く技術はどんどん進化するが視聴者はなかなか追いつけない(写真:ロイター/アフロ)

4Kについて、何がどこまで伝わっているのだろうか

この記事のタイトルを見てみなさんどう感じただろう。そんなの当たり前だろう、と思った人が多ければよいのだが、4Kについて基本的なところが伝わってないのではとかねてから懸念していた。4K放送はまだ本格的にははじまっていないことは、どこまで理解されているのだろうか。

そんな懸念もあってのことなのか、6月30日に総務省が”お知らせ”を発表した。

「現在市販されている4Kテレビ・4K対応テレビによるBS等4K・8K放送の視聴に関するお知らせ」と題したもので、詳しくはリンク先を読んでほしい。(→お知らせページ)ただ、読んでもどうもはっきりわからないかもしれない。

4Kについては私も詳しい人に何度も説明してもらうのだが、複雑すぎて聞いても聞いてもちゃんと理解できないのだ。

とにかく先の”お知らせ”を読み解くと、「現在売られている4Kテレビだけでは、4K画質で見られるものと見られないものがある」ということだ。

特殊な伝送方式のサービスは4K画質が楽しめる

現時点ですでにいくつかの事業者が4Kで映像配信をはじめている。スカパー!プレミアム、ケーブルテレビ、ひかりTV、アクトビラ、Netflix、dTVなどだ。これらはいま売られている4Kテレビで、4K映像が楽しめる。もちろん4Kで制作された番組ならば、ということだが。

↓これは総務省と経産省で監修した4Kに関するリーフレットの一部だ。

制作:一般社団法人電子情報技術産業協会、監修:総務省、経済産業省
制作:一般社団法人電子情報技術産業協会、監修:総務省、経済産業省

ここにある事業者は、特殊な方式で番組を送り届けるサービスだ。スカパー!以外は”放送”ではないし、スカパー!もプレミアムというハイグレードなサービスだ。4K番組を電波を使った放送で送り届けるにはいろいろ技術的な問題がある。だがケーブルやインターネット経由なら比較的ハードルが低いのだ。

だからそういう事業者は視聴者を引きつけようと、4Kに力を入れている。ひかりTVは数百本の4K作品を揃えている。Netflixは又吉直樹が芥川賞をとった『火花』を4Kでドラマ化している。ケーブルテレビ事業者は力を合わせて4K番組を制作している。これらのサービスを使っているなら、いま4Kテレビを買うとその高画質を堪能できる。

BS放送の4K番組は別途チューナーが必要になる

今回周知しようとしているのが、お知らせ文書の中にある「BS等4K・8K放送」についてだ。これはようするに、BS放送とスカパー!(110度・プレミアムではないほうのスカパー!)のことで、2018年つまり再来年から実用放送が始まる予定になっている。お知らせで呼びかけているのは、2018年からのBSとスカパー!の4K放送を、いま売られている4Kテレビで見るには別途チューナーが必要だということだ。

これもさっきのリーフレットの一部を見るとなんとなくわかる。(わかりにくいのだが)

画像

2018年以降のBSとスカパー!ではこれまでと異なる新しい伝送方式を採用するので、いま販売している4Kテレビで見るにはその伝送方式で受信できるチューナーを別に購入しないといけないということだ。

地上波放送で4K放送をどうするかは具体的に何も決まっていない

お知らせでは触れられていないが、リーフレットのほうでは最後にこんなことが書いてある。

制作:一般社団法人電子情報技術産業協会、監修:総務省 経済産業省リーフレットより
制作:一般社団法人電子情報技術産業協会、監修:総務省 経済産業省リーフレットより

「地上デジタルでは具体的な計画はありません」とある。

私はここが一番重要だと思う。地上波テレビで4Kが視聴できるかどうか、まだ何も決まっていないのだ。BSはいまの4Kテレビでもチューナーがあれば4K視聴できるわけだが、地上波はその前の段階でいつから4K放送が始まるかさえ決まっていない。いま4Kテレビを買う人の中には、そのうちNHKの大河ドラマが4Kという高画質で視聴できるんじゃないかと期待している人も多いのではないか。それに関しては誰も何も答えられない、というのが実情なのだ。

地上波テレビ局にとって微妙な4K放送

地上波テレビの4Kは、いま割り当てられている電波では帯域が足りず放送できない。そこをどうするかが決まっていないのだ。

それにテレビ局からすると、4K放送のためには大きな設備投資が必要になる。だが画質が上がったからと言っても広告費を割り増しできそうにない。それは地デジ移行の時に経験済みだ。とくにローカル局にとっては非常に重たい投資になりそうだ。

だが一方で、時代は4Kに向かっているのもまちがいない。ここで取り組んでおかないと、映像産業の中で遅れを取ることにもなりかねない。

ローカル局の中には、先行的な取組みとして4K制作の番組をレギュラー番組として放送している例もある。今後の二次使用やアーカイブとしての価値は出てくるかもしれない。

在京キー局はBSやCSにもチャンネルを持っているので、衛星放送では前向きに取り組むことになる。

また様々の工夫により、4K放送を可能にできないかとの議論も出てきていると言う。さらには5Gの時代になれば放送ではなく通信によって4K放送が実現できるというコペルニクス的転換を唱える人もいる。

いずれにせよ、地上波テレビ局にとって4Kは、やるべきか悩ましいがやらないわけにもいかない、微妙な領域のようだ。

消費者としては考え方、楽しみ方で決めればいい

こうして実情を書いていくと、カンジンの地上波放送で視聴できるかわからないのなら4Kテレビに意味ないよと思ってしまうかもしれない。だがそこは、考え方次第、テレビの楽しみ方によると思う。

地デジ化の時、映像の画質が格段に向上して驚いた人は多いだろう。4K映像はあの時と同じくらいの画質の差にもう一度驚くと思う。

そして、それほどの高画質が、ふだん見るニュースやワイドショー、バラエティなどにどこまで必要かはわからない。むしろ、映画や上質なドラマ、スポーツ中継などで効力を発揮するのが4Kだろう。

だとすると、そういう映像コンテンツを頻繁に楽しみたい人は、そして最初に挙げたようなすでに4Kが楽しめるサービスに加入しているのなら、いま4Kテレビを導入することに大きな価値を感じるはずだ。逆に、映画もスポーツも興味ないし画質にあまり価値を感じない人なら、いま4Kテレビを買う意味はないのかもしれない。

それからタイトルで「『真田丸』を4Kで観ることはできない」としたが、今後大河ドラマを4Kで観ることができるようになる可能性はある。ひょっとしてこれから大河ドラマが4Kで制作されるようになれば、地上波ではなくケーブルやインターネット経由で4Kで視聴できるようになるわけだ。放送よりオンデマンドサービスを通じて、テレビ局が4K番組を配信するようにもいずれなるのだと思う。

4Kにはいろいろややこしい課題がつきまとうが、それは要するに、今後変化するテレビの過渡期としての象徴なのだ。視聴者としては楽しみ方次第でうまくつきあっていけばいいと思う。

(文中4K・8Kといちいち表記するとややこしいので4Kのみで表記したが、8Kのことも含めて書いていると受けとめてもらえればと思う)

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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