沖縄で「ブラック企業」が蔓延する構図
沖縄では今、辺野古新基地建設をめぐる県民投票に社会的関心が集まっている。沖縄の地域社会のあり方に関わる問題だけに、関心が集まることは当然のことだろう。
一方で、沖縄が抱える社会問題はもちろん基地問題だけではない。「ブラック企業」に象徴される労働問題も、沖縄では深刻化しているのだ。また、大人の労働問題を反映して、「子供の貧困率」が全国で最も高いことも知られている。
そこで今回は、沖縄が抱える労働問題について考えていきたい。
沖縄の労働問題に関するデータ
まず、沖縄の労働問題に関連するデータを見ていこう。
(1)第三次産業への偏重
沖縄が全国のなかで特殊なのは、観光業を中心とする第三次産業に産業構造が偏重しているということだ。
産業3部門の就業者数は、日本全体で第一次産業3.8%、第二次産業23.6%、第三次産業67.2%であるのに対し、沖縄ではそれぞれ4.5%、13.8%、73.5%となっている(「平成27年国勢調査」)。
その背景としては、米軍の占領統治などにより製造業(建設業を除く)が発展しなかったことが挙げられる。代わりに基地・観光・公共事業が経済の中心となり、「3K経済」などと言われることもある。
ただし、県民総所得に占める基地関連収入の割合はいまや5%であり、「基地経済」への依存度はかなり低下していると言っていい。
このような産業構造は、「ブラック企業」を蔓延させる基盤となっている。「ブラック企業」を私は以下のように定義している。
「新興産業において、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業」
「新興産業」とは、例えばIT、介護や保育などの福祉、コンビニやアパレルなどの小売などで、これらは主に第三次産業だ。
第三次産業は構造的に生産性の向上になじまず、利益を上げるために人件費の削減が行われやすい。人件費削減の手法として、「ブラック企業」の労務管理やあるいは非正規雇用が用いられるのである。
たとえば、「ブラック企業」では労働者を長く、安く働かせるために、「月給」に30~100時間もの残業代を含みこませて募集する。
「月給20万円」などと募集しながらも、実際にはそこに過労死ラインを超えるような残業時間分が組み込まれている、ということが広く行われているのだ。
このように、第三次産業に偏重しているということは、「ブラック企業」や非正規雇用のワーキングプアが広がりやすい構図にあるということだ。
(2)低賃金・長時間労働のワーキングプアの多さ
実際に、非正規雇用の割合については、全国で37.8%であるのに対し、沖縄では39.0%と、やや多くなっている(「平成30年労働力調査」)。
そして、非正規雇用は最低賃金ギリギリの賃金であることが少なくないが、沖縄の最低賃金は全国最低クラスの762円である(東京は985円)。
その結果、県民所得は国民所得に比べてかなり低い。一人当たり国民所得319万円に対し、県民所得は全国最下位の217万円に過ぎない。その格差は102万円である(内閣府「平成27年度県民経済計算」)。
低賃金であるだけでなく、労働時間も長い。「平成29年毎日勤労統計調査 地方調査」によれば、事業所規模5人以上の総実労働時間が全国平均では月143.4時間だが、沖縄では月148.8時間と、全国平均以上の労働時間となっている。
このように、沖縄では低賃金・長時間労働のワーキングプアが広がっている様子がデータから見て取れる。
なお、沖縄では最低賃金の水準が全国最低であるが、コンビニの商品の販売価格は基本的に「本土」と変わらない。商品価格が変わらない中で、最低賃金が低すぎる構図は、明らかに「ブラック企業に有利な環境」を作り出している。
沖縄の労働問題事例
実際に、POSSEにも次のような相談が寄せられている。
金融系の会社でHPなどを制作している30代男性は、上司から人格を否定するような発言を受け、メンタルに問題を抱えている。心療内科を受診して1ヶ月休職したが、職場に復帰して再発してしまった。1日3〜4時間の残業があり、残業時間が過労死ラインの月80時間に達する時もある。休日出勤をすることもあるが、一切残業代は支払われない。
全国展開のドラッグストアで販売員のアルバイトをしている20代男性。薬の登録販売者ではないのに薬の成分を客に伝えて売らなければならず、ノルマもある。店先でキャッチもやらされ、警察から注意を受けたり、近隣住民から苦情を受けたこともある。無茶な仕事を振られることなどについて会社に文句を言うと、シフトを削られてしまい、クレジットカードの支払いを延滞するなど生活に困っている。
ぜひ専門家に相談を
このように、沖縄では第三次産業に偏重した産業構造を背景に、低賃金・長時間労働のワーキングプアが広がりを見せている。
しかし、こうした労働問題は、労働組合を通じて会社と団体交渉をしたり、弁護士を通じて裁判を行うなどすることで、解決することが十分可能だ。
特に、深刻な未払い残業代の請求や、労働災害(鬱、過労死・自死を含む)は法律上の権利の行使が重要である。一人で抱え込まず、まずは専門家に相談することをお勧めしたい。
私が代表を務めるNPO法人POSSEでは、沖縄大学地域研究所「次世代に向けた若者研究班」の後援を得て、沖縄県内の方を対象にした労働相談ホットラインを開催する。
ぜひお気軽にご相談いただきたい。
ブラック企業労働相談ホットライン@沖縄
日時:(1)2月27日(水)18:00~22:00、(2)3月2日(土)13:00~17:00
電話番号:0120-987-215(通話無料)
後援:沖縄大学地域研究所「次世代に向けた若者研究班」
無料相談窓口
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。
03-6804-7650
soudan@bku.jp
*ブラック企業の相談に対応しているユニオンです。
03-6804-7650
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http://sougou-u.jp/
*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)
sendai@sougou-u.jp
*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。
03-3288-0112
*「労働側」の専門的弁護士の団体です。
022-263-3191
*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。
*北海道全域の労働相談を受け付ける、「労働側」の専門的弁護士の団体です。