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「香港国安法」で当局へのデータ開示停止 FBやグーグル、ツイッターが人権侵害を懸念

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 香港で施行された反体制活動を取り締まる、中国政府の「香港国家安全維持法」を受け、米フェイスブック(FB)などの米国SNS(交流サイト)企業が香港当局からの利用者データ開示要求の受付を一時停止したと、米ウォールストリート・ジャーナル米ニューヨーク・タイムズなどの米メディアが報じた。

「新法による影響を十分に確認する」

 フェイスブックの広報担当者は「表現の自由は基本的な人権であり、身の安全やその他の影響を恐れることなく発言する権利を支持する」と述べているという。

 また、フェイスブック傘下ワッツアップの広報担当者は「香港国家安全維持法による影響を十分に確認する」と述べた。

 同法が施行されたのは6月30日だったが、米グーグルや米ツイッターもその直後に当局への利用者情報の提供を停止したという。

 この新法では、国の分裂や政権の転覆などの行為を国家の安全に危害を加える犯罪行為として規定。最高刑は無期懲役となる。

 「電子メッセージ」については、当局が国家安全を脅かすと判断した場合、プラットフォーム企業に情報の削除やアクセスの制限を要請できる。メッセージを公開した人が法に従わない場合、重い罰金刑や1年の懲役刑が科されるという。

 これまでも各国の当局は犯罪捜査などでプラットフォーム企業に利用者情報の提供を要請してきた。ウォールストリート・ジャーナルによると、フェイスブックは2019年後半に香港当局から241件の要請を受け、その46%に応じた。

 しかし、同法が施行された今、こうした情報提供が利用者の表現の自由と人権の侵害につながるのではないかと、各社は懸念しているという。

普及率91%の自由なネット社会

 ウォールストリート・ジャーナルの別の記事によると、フェイスブックや傘下のインスタグラム、ツイッター、グーグル傘下のユーチューブなどのサービスは、中国本土での利用が禁止されていたり、中国政府による検閲を嫌い、自主的に撤退したりしている。

 中国本土には「グレート・ファイアウオール(金盾)」と呼ばれるインターネット検閲システムがあり、ネット上の情報を24時間体制で監視している。

 しかし、特別行政区の香港ではこれまで何ら規制を受けることなく、自由にサービスを展開してきた。香港市民もこれらのサービスで政治的な意見を述べたり、抗議活動への支持を表明したりしてきた。

 人口750万人の香港は世界で最もインターネット利用比率が高い地域の1つ。ネット人口は91%に上り、 16〜64歳のネット利用者の98%が日々、SNSや対話アプリを使って交流しているという。

刑事裁判や処罰の対象に

 今後、米国のSNS企業は綱渡りのように微妙にバランスを取りながら行動する必要がありそうだと、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。

 当局の要請に応じ、アカウントやコンテンツを削除すれば、利用者離れにつながる。一方で、要請を拒否すれば、刑事裁判や処罰の対象になる可能性があるという。

 従業員が逮捕されたり、サーバーの管理権を奪われたりすることも考えられると指摘されている。

  • (このコラムは「JBpress」2020年7月8日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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