ガッチャマンを「ハゲ鷲五兄弟」と呼ぶ韓国。それでもオヤジ世代に支持されている理由
10月18日から韓国で興味深い日本のアニメ映画が公開されている。タイトルは『Infini-T Force(インフィニティ・フォース)』。タツノコプロ55周年記念作品として作られたフル3DCGのアニメ映画で、韓国では「トッスリ・オヒョンジェ(五兄弟)の最後の審判」という副題がつけられている。
“トッスリ”を日本語で訳すと「ハゲ鷲」。つまり、トッスリ・オヒョンジェとは「ハゲ鷲五兄弟」となるが、実はこのトッスリ五兄弟は日本でも有名なキャラクターだ。
昭和の時代に少年時代を過ごした方々なら「鷲」と聞いてピンと来るかもしれない。トッスリ五兄弟とは、科学忍者隊ガッチャマンのことなのだ。
実は科学忍者隊ガッチャマンは韓国でも放映されている。
1979年10月、当時の韓国地上波のひとつだったTBC(東洋放送)で放映開始。当時の韓国はまだ日本の大衆文化が解禁されていなかったこともあって、タイトルは『トッスリ五兄弟』として放映された。1990年には国営放送KBSで再放送もされた。
『マジンガーZ』が1975年に韓国で放映さていたことは以前紹介したが、『ガッチャマン』も早い時期から韓国進出を果たしていたのだ。
(参考記事:まさに愛と憎しみの『マジンガーZ』。韓国における日本のロボットアニメ人気とは?)
しかも、シリーズ第1作目だけではない。ガッチャマンは、『科学忍者隊ガッチャマン2』(1978年〜1979年)、『科学忍者隊ガッチャマンF(ファイター)』(1979年〜1980年)とシリーズ化しているが、それらの続編もSBSで放映されているのだ。
そのため、韓国の40代前半から30代前半の男性たちの間ではかなり知られた存在だ。
ただ、『ガッチャマン』の名ではあまり通用しないし、“大鷲のケン”、“コンドルのジョー”、“燕のジンペイ”というオリジナルの名も知られていない。
韓国では「トッスリ五兄弟」という名を使ってこそ話が通じるし、ケンはゴン、ジョーはヒョク、ジンペイはピョンなのだ。『スラムダンク』や『名探偵コナン』も登場人物の名が韓国風に変えられているが、『ガッチャマン』も韓国で現地化されて定着しているわけだ。
(参考記事:『スラムダンク』は今でも人気で『キャプテン翼』は拒絶されたワケ)
そのためか、本来は日本のアニメ漫画なのに韓国産のサッカー漫画として誤解されている『蹴球王シュットリ』のように、“トッスリ五兄弟”も韓国アニメだと認識している中年男性も多い。
余談だが、韓国では名門・延世(ヨンセ)大学のバスケットボール部が“トッスリ五兄弟”と呼ばれることもあったし(延世大学のシンボルキャラクターが鷲で、バスケットボールは5人でプレーすることからそう呼ばれたという説がある)、仲の良い4〜5人組がいると、「トッスリ五兄弟のようだ」というのが誉め言葉になったりもする。
それだけ“トッスリ五兄弟”、すなわちガッチャマンは韓国でも通用するキャラクターで、現在、韓国で公開中の映画『Infini-T Force』はかつて“トッスリ五兄弟”に夢中になった韓国のオヤジ世代にはたまらないだろう。
というのも、映画にはガッチャマンだけではなく、『破裏拳ポリマー』『新造人間キャシャーン』『宇宙の騎士テッカマン』といったタツノコプロが生み出したヒーローたちがすべて登場する。
『破裏拳ポリマー』と『宇宙の騎士テッカマン』は韓国で放映されていないが、『新造人間キャシャーン』は1978年に前出のTBCで放映された。ちなみにタイトルは『正義の勇士キャシャーン』だった。
そんなかつてのヒーローたちの競演に韓国メディア『ヨンナム日報』は、「映画トッスリ五兄弟の最後の審判は、“日本版アベンジャーズ”の誕生だ」とし、マニアたちの評価も高い。ネット掲示板を見ると、「オリジナルアニメのヒット作が少ない韓国には絶対無理な企画」というものもあった。
(参考記事:韓国アニメ業界が直視したがらない“黒歴史”と呼ばれる3つのアニメ作品)
いずれにしても、“トッスリ五兄弟”ならぬガッチャマンのその後を描いた『Infini-T Force』は、韓国でどのような反響を呼ぶだろうか。
ガッチャマンと言えば、2013年夏に松坂桃李、綾野剛、剛力彩芽、鈴木亮平、濱田龍臣のキャストで実写化され、2014年2月には韓国でも上映されているが、日本同様に興行的には大ヒットとはならなかっただけに、今回はぜひとも不死鳥にように飛翔することを期待したい。