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賭博か、公式推奨される娯楽か。米国4大プロスポーツの危うい綱渡り。

谷口輝世子スポーツライター
賭博に関与し、メジャーリーグから永久追放されたピート・ローズ氏(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

日本では巨人の3選手が野球賭博に関与していたことが分かり、球界が揺れている。

メジャーリーグでは、監督在任中に野球賭博に関与したピート・ローズ氏を1989年に永久追放した。長年、処分の解除を訴えているローズ氏は9月下旬にマンフレッドコミッショナーと面談。同コミッショナーは年内に決断を明らかにするとしている。

デイリー・ファンタジー・スポーツの登場。急成長に手を貸したメジャーリーグ

ローズ氏を永久追放した一方で、メジャーリーグを含む4大プロスポーツがここ数年、ひとつ間違えれば、ギャンブル問題に発展しかねない危うい綱渡りもしている。

それはデイリー・ファンタジー・スポーツと呼ばれるオンラインゲームの取り扱いについてである。

米国では1960年代ごろからファンタジー・スポーツと呼ばれるものが盛んに行われてきた。これは、実在する選手で架空チームを編成し、実際の選手の成績を点数化して戦っていくものだ。ゲームは1シーズンにわたって競われ、シーズン終了時にゲームの勝者に商品や賞金が与えられる。娯楽が目的で、賭けの要素は弱い。

ファンは、ファンタジー・スポーツに参加することで、単なる応援以上の関わりを持ってきた。架空チームの我が選手たちの成績により注意を払い、テレビ、新聞、インターネットをチェックしてきた。米国のスポーツ人気を支えてきた娯楽と言ってもいいだろう。

ところが、2006-07年に登場したデイリー・ファンタジー・スポーツは少し事情が異なる。ユーザーがゼネラルマネジャーとなり、実在の選手で架空チームを編成する点は同じだが、1日や週間など短い期間で勝敗の決着をつける。エントリー費は25セント(約30円)から数千ドル(数十万円)まで。筆者がデイリー・ファンタジーNFLで調べたところ、賞金額は数万ドル(数百万円)以上のものもあった。長いシーズンではなく短期間の単位でお金をやりとりしており、従来のファンタジーベースボールに比べると賭けの要素が強い。

ギャンブルか否か

デイリー・ファンタジー・スポーツは現時点では「ギャンブル」と見なされていない。なぜなら、賭博の定義とされる「運に大きく左右されるもの」ではないとされ、ユーザーの技量によって競うものであるとされているからだ。

しかし、ギャンブルと見なされず、合法であっても、こういったデイリー・ファンタジー・スポーツが米国4大スポーツと何らかの公式な関係を結んでいることは見過ごすことはできないだろう。

メジャーリーグはデイリー・ファンタジー・サイトの「ドラフトキングス」の株を持っていると言われている。「ドラフトキングス」はメジャーリーグ機構のMLBアドバンスドメディアの公式パートナーであり、メジャーリーグのテレビ中継にも頻繁にCMを出しており、テレビ局ともつながっている。ドラフトキングス

22日付のボストングローブ紙によると、アメリカンフットボールのNFLでは32チームのうち29チームがデイリー・ファンタジー・スポーツと広告契約を結んでいるという。

プロバスケットボールのNBAは昨年11月にデイリー・ファンタジー・スポーツの「FanDuel」と複数年の公式パートナー契約を結んでいる。アダム・シルバーコミッショナーは最近になって「何らかの規制が必要」と発言し、今後のあるべき方向を探っているようだ。FanDuel

アイスホッケーのNHLとサッカーのMLSともドラフトキングスとパートナー契約をしている。

ユーザーの依存や悪魔のささやきは

当然のことながら、選手や球団職員らがこれらのファンタジーゲームに参加するのは禁じられている。

だからといって、デイリー・ファンタジー・スポーツを社会的影響が大きい4大プロスポーツがオススメする娯楽として受け入れてよいものかどうか。

プロスポーツは子どもから老人まで様々な人が観戦する。試合観戦やテレビ中継で広告を頻繁に見かけることは、大金がやりとりされる場へのためらいを少なくして、より多くの人の参加を促すことになる。その結果、より多くのお金が動き、お金を使い過ぎてしまう人が出てくるはずだ。定義上はギャンブルではなくても、ギャンブル依存と同じ状態に陥る人が出てくるだろう。

もうひとつは、デイリー・ファンタジー・スポーツでは、従来のファンタジー・スポーツと違って、1日単位で大金がやりとりされることだ。

従来のファンタジー・スポーツのように仮想チームがシーズン全体を通じて勝敗を競うのであれば、選手や球団職員が工作をしようとしてもやりようがないだろう。シーズン終了後の賞品や少額の賞金のためにリスクを犯すとも考えにくい。

しかし、短期間ごとに相当な金額が動くとなれば、選手や首脳陣、球団職員らの間で悪魔のささやきを聞く人が絶対に出てこないと言い切れるだろうか。データの時代に、選手が八百長に関与しなくても、デイリー・ファンタジー・スポーツに有利なインサイダー情報が洩れる可能性があるかもしれない。

このデイリー・ファンタジー・スポーツは大学スポーツのNCAAのアメリカンフットボールとバスケットボールも対象としている。NCAAではデイリー・ファンタジー・ゲームの広告を出さないという決定を下したばかりだ。

複数の米国メディアによるとFBIや検察がデイリー・ファンタジー・スポーツが違法なギャンブルかどうかについて捜査を初めていると言われており、ファンタジースポーツ側は弁護士を雇用して法対策を進めているとされている。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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