再び“カネの雨”を降らせるか?オカダ・カズチカが手に入れた「挑戦権利証」の意義と行方を考える
今年のG1 CLIMAXは、オカダ・カズチカの3度目の優勝で幕を閉じた。毎年、G1王者に与えられるIWGPへの挑戦権利証の入ったブリーフケースに代わって、今年は封印されたはずのIWGPベルトが用いられているわけだが、そもそも、挑戦権利証とはいったい何なのか?プロレス界年間最大イベント、WRESTLE KINGDOMが2か月後に迫った今、権利証システムについて改めて考えてみたい。
東京ドームのメインへの切符
G1の優勝者に権利証が与えられるようになったのは、2012年からである。正しくは「1月4日に東京ドームのメインイベントでIWGPに挑戦できる権利証」で、権利者はIWGP王者と同等のリスクを背負い、防衛すれば、年に一度の大舞台で挑戦ができるというものだ。IWGP王者を除いて、たった1人しか入れないメインイベントの枠が与えられるのだから、過酷なリーグ戦の優勝特典としてはふさわしい。この権利証システムの導入によって、ファンは年間最大イベントでG1とIWGPという2大王者の対決を楽しめるようになったし、団体は目玉カードのプロモーションに時間をかけ、チケットを早くから売り出せるようになった。一部にはG1がIWGPの挑戦者決定戦になったという批判もあったものの、この権利証システムは概ね成功だったと思う。
権利証システムに生じた歪み
ところが、そんな安定感のあるシステムに昨年、歪みが生じてしまう。きっかけは、G1で優勝した飯伏幸太が11月にジェイ・ホワイトに敗れて権利証を奪われたことだ。権利証を手に入れたジェイはドーム大会が1月4日と5日の連戦になったことを利用し、4日ではなく、5日に挑戦すると一方的に宣言。この行動によって、初日は権利証を持たない選手にIWGP挑戦のチャンスが生まれてしまったのである。結果、2021年のWRESTLE KINGDOMでは権利証を失った飯伏が、初日に当時の王者・内藤哲也、2日目にジェイをそれぞれ倒して二冠王となる。劇的な逆転勝利は見事だったが、権利証を持たない選手が王者になれるのは、本来のシステムから考えれば疑問符がつく。つまり、ドーム2連戦では権利証システムに矛盾が生じることが明らかになったのである。
権利証の代わりに姿を見せたベルト
さて、2022年も2連戦で行われるWRESTLE KINGDOMのメインイベントがどう組まれるかは未定だ。現時点ではIWGP世界王者のベルトを腰に巻くのが鷹木信悟、IWGP世界王者を名乗って自作のベルトを保持するのがウィル・オスプレイ、さらに、挑戦権利証の代わりに、封印されたIWGPのチャンピオンベルトを持つのがオカダ・カズチカである。オカダが封印されたはずのベルトを持ち出したのは、権利証の代わりと強調しているものの、仮にこのまま東京ドームでIWGP世界王座に挑戦する場合は、否が応でもベルト統一戦のムードが出て来るだろう。本人にそのつもりはなくとも、前人未踏の12回の防衛を達成した元王者にファンはIWGPの歴史を重ねるに違いない。つまり、このままオカダが権利証を持っている場合、WRESTLE KINGDOMのメインイベントは、IWGP世界王座とIWGP王座で「どっちが真のIWGPなのか?」が問われる公算が高い。
混乱を収拾するリーダーになれるか
こうしたベルト乱立を筆者はたいへん興味深く見ているが、たまにしかプロレスに接することのないライトユーザーにとっては理解しにくいし、やはり、3本あるベルトは1つにすべきだと思う。今月4日に新内閣が発足したタイミングに合わせ、オカダは「日本にも新しいリーダーが出てきて、新日本プロレスにも新しく新日本プロレスを引っ張っていく人が出てこなきゃいけないと思います。それはレインメーカー、オカダしかいないんじゃないでしょうか」とリング上で力強く宣言した。たしかに、新日本プロレスに今、いちばん必要なのは絶対的なリーダーの存在だと思う。オカダは過去に2度、権利証を手に東京ドームでIWGPに挑戦しているものの、いずれも王座獲得には失敗している。リーダーを自認する男が混乱を収拾し、再びIWGPの価値を高めてくれることに期待したい。その時にこそ、コロナ禍のダメージを受けた新日本プロレスに再び“カネの雨”が降ると信じている。
※文中敬称略